ママ先生とその夫
岸田國士



奥居町子  聖風学園の経営者

同 朔郎  その夫

花巻篠子  変死せる児童の母

有田道代  教師

富樫    篠子の甥と称する男

尾形    嘱託医

角さん   小使

たい    その妻

かず    篠子の女中

運転手

その他男女の生徒多勢



東京に近いある新開田園都市の一隅。赤松の自然林を切り開いて、木造平屋のバラツク大小二棟と、二階建の住宅一棟──これが、奥居町子の経営する聖風学園とその附属建築物である。




屋外の授業場──四人共同の腰掛と机が並び、その正面に黒板が立てかけてある。黒板の前に立ち、白墨の字を消しながら、十人足らずの生徒に話しかけてゐるのが、教師の有田道代である。二十四五の目立たない女。


道代  それで、黒白こくびやくを弁ぜずといふ意味はわかりましたね。もう一度云ひますが、黒白といふのは物事のしといふことです。黒が悪い方で、白が善い方……。いゝですか。おなかが黒いといへば、たちのよくない人間といふことになるでせう。心に穢れがないことを潔白と云ひます。潔白ですね。それでは、今日の授業はこれで終ります。今からお昼のリンが鳴るまで、ママ先生のお話があるさうですから、しばらくさうしていらつしやい。


生徒は十歳から十三四歳までの男女であるが、何れも所謂「良家の子弟」らしき風貌を具へ、中には、一見低脳児と見える某子爵の三男も交つてゐる。教師の話がすむと、あるものは起ち上り、あるものは隣りへ悪戯をしかけ、筆筒をカチャカチャいはせ、「先生! 御不浄へ行つてもよろしうございますか」と問ひ、いつ時、騒然となるが、やがて彼等にママ先生と呼ばせてゐる奥居町子が、静々とそこに現はれる。


町子  (道代に目礼を返したる後)さ、皆さん、少し静かにして、ママ先生のお話を聴いて下さい。なんです、あきらさん、鉛筆なんかくはへて……そんなにおなかいたんですか? それではと……。今日はちよつと六ヶ敷いお話ですから、ぼんやりしてるとわかりませんよ。皆さんは、この学校のお兄さんお姉さん組でせう。さうすると、もうそろそろいろんな理窟がわからなければいけません。しかし、これからママ先生がお話しようとすることは、鞭子さんや栗雄さんのやうに小さいかたには、まだほんとによくわからないかも知れません。それはそれでよろしい。今にわかるやうになります。さて、皆さんは、町の子供たちが、よくこんな歌を唱つてゐるのを知つてますか。──男と女と豆煎まあめいり、つても煎つても煎りきれない……(笑声)可笑をかしくはありません。さういふ歌です。ところで、これはどういふ意味でせう。──男の子と女の子とが一緒に遊んでゐる。可笑しいなあ──といふ意味です。どうして男の子と女の子とが一緒に遊ぶと可笑しいんでせう。この学校では、男生と女生と、なんでも一緒です。勉強も一緒、遊戯もおほかた一緒、御飯も一緒、たゞ、お風呂にはひる時と、寝るときだけ別々です。ですから、男の子と女の子と、一緒に遊ぶことはちつとも可笑しくない。それを可笑しいなんていふ方が間違つてゐるのです。たゞ、男の子でありながら、男の子と遊ぶより女の子と遊ぶ方が好きだつたら、これは可笑しい。また女の子でありながら、女の子とは遊ばないで、男の子とばかり遊びたがるのは、どうかしてゐます。これは人に笑はれても仕方がない。そこで、皆さんによく云つておきますが、男の子と女の子と仲善しになるといふことは、つまり、その、男の子が、女の子に……。


この時、町子の夫、朔郎が、汗を拭きながら外から帰つて来る。町子のそばへつかつかと歩み寄る。


朔郎  もうむんですか。

町子  えゝ、もうぢき……。

朔郎  ちよつと急ぐ話があるんだがなあ。

町子  では、皆さん、さういふわけですから、よく気をつけて、間違ひのないやうにしなければいけません。


小使の角さんが鈴を振りながら傍らを通りすぎる。


朔郎  おい、おい、もうちつと静かに振れよ。


角さんは聞えないふりをして去る。


町子  有田さん、ドクトルが見えたら、すぐこの組から始めていたゞきますから。

有田  さきほどおみえになつてましたが……。あ、おいでになりました。


学校の嘱託医尾形ドクトルが現はれる。


尾形  よく晴れましたなあ。昨日きのふの工合だと、風はんでも雨はどうかと思つてましたが、しかし、道はひどいです。自転車の輪が半分めり込む始末です。そこへもつて来て、今朝は珍しく下痢患者が三人もやつて来ましてな。一人は赤痢の疑ひで、目下検便中です。こちらは、お変りありませんか。昨日鼻血を出したお子さんは、もう元気ですか。

町子  では、早速、お願ひいたします。ざつとでよろしうございますから……。有田さん、たかしさんの体温表をもつて来てお目にかけて御覧なさい。


医者が子供たちの健康診断をはじめると、こつちでは、町子と朔郎とが、何か小声で話し合ふ。


朔郎  僕はいやだよ、そんなことは……。

町子  だつて、あんた……。

尾形  どらどら、口を開いて御覧。はゝあ、この虫歯は、ちよつと困つたなあ。

朔郎  僕は絶対、さういふことは御免だ。しかし、今日は、マダムの来る日だよ。君だつて、外へ出るわけにやいかないよ。

尾形  (女の子が何か小声で云ふのを聴き取らうとして)え? え? え?


有田道代が体温表をもつて来る。町子と朔郎との話を、聴くともなく聴いてゐる。


町子  それぢや、もつとよく考へませう。有田さん、そこにゐたの? 今日はマダムのみえる日ですよ。よく気をつけてね。食堂へいらつしやるかも知れないから、あんまり散らかしとかないで……。

有田  はい。これでもう何週間目ですかしら……。だんだん忘れ勝ちになりますわ。でも、またお顔を見ると、泣かされるにきまつてますわ。(さう云ひながら、もう涙を拭いてゐる)

尾形  (診断を終り)さうすると、別に異状はありません。たゞ、この大将の虫歯は、ひとつ、今のうちに東京へ帰つて直させないといけませんよ。それから、休養室にゐる、この間はひつて来た、何んとかいふ坊つちやん、そら、ビリケン頭の……。(子供たちの笑声)

町子  そんなことおつしやつちやいけませんよ、先生。大隅博士の坊つちやんですか。六里さん……。えゝ、それが……?

尾形  あの容態では、やはり、自宅へ引取つてもらつた方が安全でせう。こゝは療養所ぢやないんですからなあ。どうも、親達は、此処を誤解してるやうです。林間学校と云へば、元来、普通の健康児に、最も健康的な生活をさせるのが目的で、病弱な子供に消極的な治療法を講じることは、他に適当な場所と施設がある筈です。

町子  さ、皆さんはもういゝんですよ。食堂へいらつしやい。(児童たち去る)

朔郎  有田さん、泣くのはよしてくれ。

尾形  (道代から体温表を受け取り、それに目を通しながら)あなただつて、先生と看護婦を兼任ぢや、なかなか骨が折れるでせう。

道代  あたくし、お子さんたちのお世話は好きですけれど、何時いつか見たいなことがあると、恐ろしくつて……。

尾形  ちよつと雨にあたつたからつて、すぐに肺炎を起すやうな子は、こんなところへ預けるのが無理なんです。奥居さんの御主旨には反するかも知れませんが、ある程度以上虚弱な子供は、絶対に受け附けないやうにしてほしいですな。

町子  そんなことおつしやつたつて、丈夫な子供を、わざわざ家庭から放して、こんな田舎へ寄越す人もゐますまい。無料で預るつていふなら別ですけれど……。定員三十人が一人欠けても、経営は困難なんですからね。さう希望者のり好みはできませんよ。

尾形  なるほど、わたしは別に、経営方面に喙を容れる資格もなし、与へられた仕事を精いつぱいやつてゐればいゝわけですが……。どれ、向うの組をひとつ……。

道代  もう食堂にはひつてるかも知れません。(先に立つて歩き出す)

朔郎  (二人が去るのを待つて、町子に)ドクトルの云ひ分は至極尤もだよ。僕だつて、子供のお相手をする柄でもないし、たまに遠足に引つ張つてくと、それがもとで死ぬ子供ができるし、自分で責任は負はないにしても、寝覚めがわるくつてしやうがない。君は二口目に、僕の健康のことを考へてこの仕事を選んだんだつていふけれど、僕に必要なのは良い空気ばかりぢやないんだ。

町子  それはわかつてます。だから、あんたは、なんにも心配して下さらなくつていゝんですよ。

朔郎  …………。

町子  此処がうるさければ、昼間だけ何処かの離れを借りてあげます。(腰かける)

朔郎  今の場合、君にそんな負担をかけるわけに行かないよ。君は、なんでもさういふ風に、ひとりで決めてしまふからいけないんだ。僕が、だんだん意気地なしになるばかりだ。

町子  だつて、あなたに相談してちや埓が明かないんですもの。それになんと云つても、あたしの方が姉さんなんですからね。

朔郎  …………。

町子  さういふと、あなたは変な顔をなさるのね。自尊心を傷けられるやうにお思ひになるんでせう。でも、仕方がないわ。あたしたちの間では、それが大きな問題ですし、いろんなことが、そこから始まつてるんですから……。

朔郎  いろんなことつて、なにさ?

町子  なにもかも……例へば、あたしの義務つていふやうなもの……。

朔郎  下らない……。

町子  下らなかありません。ぢや、云ひませうか。あなたの我儘が、あたしには、だんだん有りがたくなつて来るんですよ。必要でさへもあるやうな気がするんです。おわかりになる?

朔郎  …………。

町子  あなたの欠点といふ欠点に、だんだん惹きつけられて行くのは、どういふわけでせう。あたしがこんなことを云ひ出したので、却つて愛想をおつかしになつちやいやよ。

朔郎  よさうよ、もう、さういふ話は……。あまつたるい感情を、今更こね返してみる気にはなれないよ、僕は……。それより、死ぬか活きるかつていふ仕事にぶつかつてみたいんだ。かういふ手応てごたへのない生活は、もう御免だ。

町子  だから、丈夫におなんなさいよ、丈夫に……。さうしたら、なんだつて出来るぢやありませんか。あたしがゐて邪魔だとお思ひになるなら、しばらく別々になつててもかまひませんよ。そこは聴きわけがよござんすよ。

朔郎  そんなに先廻りをしなくつたつていゝさ。何時いつ、君がゐて邪魔だと云つた? 君がゐなけれや、僕は食へないんだからなあ。どんな人間でも、良心の何処かに眼かくしをしなけれや、満足に生きて行かれない時代だ。僕は、その点、君には頭が上らないよ。

町子  なんとでもおつしやい。

朔郎  君は実際家のやうにみえて、ほんたうは空想で生きてゐるんだ。僕には実行力こそないが、なんでも裸にしてみる癖がある。僕たちの関係が、どんなもんだといふことは、僕にわかつてるほど、君にはわかつてないんだ。君は、自分の年のことなんか気にしてるらしいが、年ぐらゐどうだつておんなじさ。君がもうとを若いか、僕がもう十、年を取つてゐたところで、君が不満なところは不満だらうし、僕がとくをするところは得をしてるんだ。お互ひに、もう、二人のことで、余計な神経を使ふことはよさうぢやないか。初めもなく終りもないつていふやうな夫婦があつてもいゝ筈だよ。

町子  初めがないつていふのは、どういふわけ?

朔郎  結婚式を挙げた時には、もう結婚してゐたといふわけさ。

町子  それで?

朔郎  それだけだよ。ところで、あゝなるまでの一年間、僕たちは、世間からもう特別の眼で見られてゐたぢやないか。世間の眼ばかりぢやない。自分たちでさへ、めいめいの位置を忘れてゐたんだ。何時からともなく忘れてゐたんだ。

町子  それ御覧なさい。さういふ歴史がちやんとあるぢやありませんか。

朔郎  初めのない歴史だ。

町子  どんな歴史でもさうね。まあ、初めはそれでいゝとして、終りがないといふのは、どう解釈したらいゝの?

朔郎  言質を取らうつていふんだね。

町子  困るでせう。

朔郎  困らないさ。

町子  何時の間にか終つてゐるつていふ風な終り方は、あたし、いやですよ。あなたの心の中で、自分の領分がだんだんに狭められ、もう一人の女の領分が、だんだん拡がつて行くのは、見てゐて苦痛ですわ。

朔郎  もう一人の女つていふのは誰のことだい?

町子  …………。

朔郎  さういふことを、今頃口に出すのは不謹慎だよ。それが君の実際的にみえて案外空想家たる所以だ。僕とその女とを並べてみて、誰がそんな疑ひを起すもんか。

町子  いろいろ考へてゐたくせに、いざ云ふとなるとへまなことしか云へないのね。空想つて云へばそれまでですけれど、あたし、もつと、そのことについて、はつきりした意見をお話しておきたかつたんです。でも、今日はよしませう。

朔郎  僕の眼の前に新しい女が現はれるたんびに、君はなにかしら不安めいた態度を示すけれど、今まで、一度だつて、なにか間違ひを起したことがあるかい? 有田君が此処へ来た当座、僕が戯談口じやうだんぐちをきくから、それが危いと云つて、君は警戒してゐたね。十年一日の如く、僕はあの人に戯談口をきいてゐる。そして、これが、どうもなりはしなかつたぢやないか。花巻夫人は、向うから僕に馴々しく言葉をかけるが、僕の方は、だんだん、あの女に親しめなくなるばかりだ。あゝして、毎週、此処へやつて来ることだつて、僕は、不愉快なんだ。子供を不意に亡くした母親の悲しみを、あゝいふ方法で慰めるといふのが、抑も気障きざだ。初めのうちは、自分の責任感も手伝つて、ひと通り同情もしたが、今ぢや、義理にもお愛想は云へなくなつた。それを、君がどうして、あんなに大事に取扱ふか、僕は不思議なくらゐなんだ。

町子  お金があつて美しい未亡人つていふものは、あんなことでもしてゐなければ日が過せないんでせう。あたしは、この学校の評判をよくしたいのよ。

朔郎  それはわかるさ。僕だつて、君の仕事を邪魔する気はない。あゝいふ失策を取返すといふ意味でも、あの女の御機嫌取りは相当にやつてゐるつもりだ。それを君が、かれこれ云ふのは可笑しいぢやないか。

町子  さういふ表面のことは問題にしてやしません。もつと抜目なくやつて欲しいくらゐですわ。たゞね……。

朔郎  たゞ、なんだ!

町子  たゞ、しつかりしてゐて下さればいゝのよ。

朔郎  それは、あの女に限らないことだらう。僕は、元来、そんなにしつかりしてる方ぢやないからね。僕が、仮に今、引つかゝるとしたら、有田君でもなく、花巻夫人でもないよ。

町子  それぢや、だれ?

朔郎  民子だ。

町子  …………。

朔郎  小磯民子さ。

町子  十三の……。戯談云ふと承知しませんよ。


この時、自動車の音が聞え、それが門前で止る。やがて、花巻篠子が供の女中を連れて現はれる。運転手が大きな紙包みを抱へて、その後に従ふ。


町子  あら奥様、やつぱりお見えになりましたのね。今日はどうかしらつてお噂をいたしてをりましたの。

篠子  お昼に間に合ふやうにつて急いだんですけれど……。なんなら、おやつにでもね。

町子  また頂戴ものですか。そんなに遊ばさなくつても……。

篠子  これが楽しみなんですから、まあ、さうおつしやらずに……。(運転手に)あんた、ちよつとそれを何処かへ置かしていたゞいて……。

町子  (朔郎に)お昼の最中でせうから、有田さんにでもさうおつしやつて、あなた……。

朔郎  (運転手を案内して)ぢや、どうぞこつちへ……。

篠子  (女中に)かずや、お前もお手伝して……。

町子  奥様のやうにわたくしの仕事を理解して下さるかたばかりですと、ほんとによろしいんですけれど……。あんな取り返しのつかないことをしてしまつて、一時は、全く、眼の前が真つ暗でございました。奥様のさういふ寛大な、気高いお志に対しても、飽くまでこの事業を完成させたいと存じますわ。

篠子  さうおつしやられると、却つてあたくしが困つてしまひますわ。あたくしはたゞ、自分の気持だけで、こんなことをさせていたゞいてゐるんですから……。亡くなつた子供のことを思ひ出すのに、此処ですと、あの子の、元気な、楽しさうな顔ばかりが浮んで来るんですの。それに、あの子が、仲良く遊んでいたゞいた同じ年頃のお友達は、やつぱり、余所よそのお子さんのやうな気がいたしませんわ。

町子  今日はお弁当を御持参ぢやいらつしやいませんの。

篠子  無論、御持参です。また何処かお邪魔にならないところで……。

町子  やつぱり、外がおよろしいんでせう。

篠子  えゝ、あたくしたち、勝手にいたゞきます。どうぞおかまひなく……。

町子  では、わたくしも、ちよつと済まして参りますから、どうぞごゆつくりと……。(行きかけて)あ、お茶は……?

篠子  ございます。


町子去る。運転手帰つて来る。


篠子  あつちのバスケットをこゝへ持つて来て頂戴な、魔法壜とね。

運転手  はあ。(自動車の中から運んで来る)

篠子  (子供のベンチに腰をおろし、あたりを見まはす。運転手去る)


そこへ、小使の妻たいが現はれる。手に、子供の帽子と靴を持つてゐる。


たい  毎日お暑いことでございます。

篠子  ほんとに、でも、よくお精が出ますね。

たい  いゝえ、もうとしが年で、意気地がございません。それはさうと、これはお宅の坊つちやまのぢやございませんでせうかしら……。何時ぞや、雨で濡れたものを一緒に乾かしといて、取込む時にこれだけ紛れてしまつたんでございますよ。奥さまがいらしつたら伺はうと思つて、そのまゝになつてしまひました。

篠子  あゝ、さうです。いたゞいて帰りませう。どうもお世話さま。(受け取つて、しばらくそれを見つめてゐる)


女中が帰つて来る。


女中  みなさま、おほよろこびでいらつしやいます。これ、お開けいたしませうか。

篠子  あゝ。

たい  では、御免なさいまし。

篠子  (会釈する。やがて)今頃、こんなものを返してよこしたよ。

女中  …………。

篠子  人が折角、勝手な空想をしてゐたのに……。これで、坊やが、食堂でヂェリイをたべてゐないつていふことがはつきりしてしまつた……。


子供たちのがやがやいふ声が近づいて来る。すると、一人づつ篠子の前に現はれ、さも、今誰かに教へられたといふ風に、ぴよこんと頭を下げながら、「小母さま、御馳走さま」と云つてひつ込んで行く。篠子は、はじめ、笑顔を作つてこれに応へてゐるが、だんだん堪へられなくなり、いきなり、ハンケチで眼をおさへる。


篠子  (片手を振りながら、涙声で)もう、よろしいのよ、みなさん、もうよろしいのよ。




事務室風のガランとした部屋。中央に丸テーブル。その周りに椅子が四脚。部屋の両隅にデスクがそれぞれ一つ。その上に書類が散乱してゐる。壁に書棚、地図、標本の額など。

町子が、デスクの一つに向ひ、何か調べものをしてゐる傍らへ、朔郎が椅子を引寄せて坐る。


朔郎  僕はなんて返事をしていゝかわからないから、君、出てくれよ。

町子  だから、そんなことは知らないつておつしやればいゝぢやありませんか。

朔郎  さう云つたさ。しかし、それぢや、花巻夫人が、なんの目的で毎週、こゝへ来るのか、それを話せつて云ふんだ。この学校で子供が死んだなんて云つてもいゝかい。云ひ方によつちや、あとがまづいだらうと思つてさ。ほんとの事を云ふにしても、君の方が穏かな印象を与へるよ。マダムが此処を密会の場所にしてゐるなんていふことは、云はゞ口実で、この学校の内幕を探りに来たのかも知れないからね。

町子  そのマダムの相手はどんな男だか訊いて御覧になつた?

朔郎  訊かないうちに向うから云つたよ。なんでも、死んだ主人が世話をしてゐた同郷の苦学生らしいつて……。

町子  苦学生……? へえ、それやまた、変な噂を立てられたものね。ぢや、兎に角、あたしから話してやりませう。

朔郎  金でもやればすむのかも知れないが、こつちへ来るのは、ちつとおかど違ひだ。尤も書かれやうによつては、いゝ宣伝になるかも知れないさ。


町子出て行く。ピアノに合せて生徒の歌が聞える。朔郎は、肱をついて考へ込む。開け放された窓に、雨が降り込んでゐるのに気づき、朔郎は起つて行つて窓を閉める。小使が土瓶をもつてはひつて来る。


朔郎  おい、かくさん、お前はなんでも人の知らないことを知つてゐる男だが、花巻の奥さんが此処から帰る時つすぐに家へ帰るかどうか知つてるか?

角さん  さあ、そいつはわからねえ。たゞ、この前、一人で来なすつた時、帰りがけに、小声で、「何時ものとこ」つて、運転手さんに云ひなすつたやうだつたが、間違つてるかも知れねえ。

朔郎  先週だね。

角さん  それから嚊の話だからあてにならねえが、その前の週、丁度嚊が土手の上を歩いてたら、奥さんが若い男のかたと一緒に、渡しに乗らうとしとんなさるところで、「おや」と思つたなんて云つとりましたよ。

朔郎  此処へ来た日かい。

角さん  へえ、左様です。今日は急ぐからつて、お昼をあがらずに帰りなすつたつけが……。

朔郎  うむ、そんなことがあつたな。

角さん  今のお客さんも、変なことをわしに訊きなすつたが、なにかあの奥さんのことで、御心配なすつていらつしやるんですか。

朔郎  心配? うむ心配つてこともないさ。だが、なるべく余計なことは人に云はない方がいゝよ。もういゝから、お神さんをちよつと呼んでくれ。

角さん  へえ。(出で去る)


朔郎はちよつと廊下に出てみるが、やがてまたもとの席に戻り、その辺の紙ぎれに何か楽書をしはじめる。唱歌がまた聞えだす。

やがて、角さんの女房たいが現はれる。


たい  なにか御用でございますか、旦那さま。

朔郎  もつとこつちへ来てくれ。(たいが不審げに、部屋の中ほどで立ちすくんでしまふので、自分で起つて行つて近づく)お前、花巻の奥さんが渡しに乗らうとしてるとこを見たさうだね。それやほんとかい。

たい  ほんとだと、どうなんでございませう。

朔郎  そんなに用心しないでもいゝよ。そん時、若い男が一緒にゐたさうだが、顔を覚えてるかい。

たい  お顔なんか、遠くでよく見えませんでした。

朔郎  どんな風をしてた?

たい  白い洋服を召して、眼鏡をかけて……さあ、なんて申しますか……。

朔郎  もうよし!(彼は、さう云ひ放つて、たいに背を向ける。が、思ひ出したやうに、また踵をかへし)そんなことは、誰にかれても黙つてるんだよ。人の内証事は、かくしてやるもんだ。

たい  (この時丁度テーブルの上の茶碗を片づけてゐたが、その手をすべらして盆を下に落す)

朔郎  おい、おい、静かに頼むぜ。

たい  眼が悪いもんで、どうも……。

朔郎  お前は一体、幾年いくつだつけな。

たい  六十三になります。

朔郎  へえ、すると、爺さんは……。

たい  五十九でしたかしら……。

朔郎  さうさうギャクだつたね。

たい  先生のとことおんなじでございます。

朔郎  無論さうだよ、分つてゐるよ。爺さんは浮気をしないかね。

たい  わたしにはわからないやうにいたしますから……。

朔郎  お前は仕合せだよ。

たい  (これに返事をせず、さつさと部屋を出て行かうとする)

朔郎  おい、婆さん、今日はまたマダムの来る日だがね、若し、来たら、黙つて此の部屋へ通してくれ。今、応接間は塞がつてるからつて、さう云へばいゝ。外にゐるつて云つても、なるだけ、さうさせないやうに……。今来てる客と会はさない方がいゝんだ。


たいが出て行くと、間もなく、自動車の音が聞え、朔郎は窓ぎはに行き、外を見る。また唱歌がはじまる。

やがて、花巻篠子がたいに案内されて現はれる。


篠子  先だつては。

朔郎  いらつしやい。

篠子  生憎あいにく、降つて来て、困りましたわ。

朔郎  長いことはないでせう。

篠子  今日は、ちよつとお邪魔して、すぐ帰らうと思ひますの。例のものは、あちらへ持たしてやりました。

朔郎  ありがたう。家内かないは、今、ちよつと客があつて……。

篠子  さうですつてね。かまひませんわ。ぢや、あたくし、これで……。あなたにさへお目にかゝれば、それでよろしかつたんですの。それでないと、あんまりね……。

朔郎  そんなにお急ぎですか。でも、家内がきつとお話したいことがあると思ふんですが……。

篠子  来週でも、ゆつくり伺ひますわ。どうも近頃は落ちつかなくつて閉口ですの。あなたにこんなことを申上げたくないんですけど、立つても坐つてもゐられない日があるんですよ。悲しみが度を越すと、人間の心はこんなに荒れてしまふもんでせうか……。

朔郎  …………。

篠子  今はたゞ、何かに縋りつきたい気持でいつぱいです。自分を支へてくれる力が欲しいんです。あら、こんなことを自慢らしく云ふなんて、どうかしてますわね。

朔郎  …………。

篠子  あなたの奥様のやうに、心の錬へられた、御自分を制御なさることのおできになる方を見ると、うらやましくなりますわ。

朔郎  …………。

篠子  さ、おしやべりをしてないで、失礼しませう。でも、なんでせう、一体、そのお話つていふのは……。

朔郎  今、実は、あなたのことを、いろいろ訊ねに来てゐる男がゐるんです。あとで、あなたがお聞きになれば、なにか御参考になると思ふんですが……。

篠子  さうですか。こちらへ何を伺ひに来たんでせう。新聞記者ですか、秘密探偵ですか。

朔郎  新聞です。小さな夕刊新聞ですけれど、割合にお宅の事情を精しく知つてるやうですから……。

篠子  この上なにを知りたいんでせう。あたしが会つて、なんでも話してやりませうか。

朔郎  そんな必要はないでせう。もう暫くお待ちになつたらどうですか。

篠子  ぢや、さうしますわ。今日は連れがあるんですのよ。車の中に待たしてありますから、こちらへはひるやうにおつしやつて下さいません? あゝ、あたくしが行きませう。

朔郎  かまひませんよ。(出て行かうとするが、篠子は、それを制して自分で出て行く)


小使が茶を運んで来る。


朔郎  そこへ置いてけばいゝ。かくさんは、給金をいくらもらつてゐるんだい?

角さん  いくらでもありませんや。

朔郎  ふうん。すると婆さんの分は別つて云ふわけだね。

角さん  なあに、そのうへ婆さんだけおまけでさあ。

朔郎  おまけはひどいね。婆さんは不平を云はないかい。

角さん  そこはうまくしたもんで、あいつは私の方がたゞで働いてゐると思つてるんです。だから給金はあいつが受け取つて、すまないが今月はこれだけにして置けなんて煙草銭でもくれる気でゐます。こつちは面白くもねえが、別に腹もたゝねえ。

朔郎  ものは考へやうだな。奥さんの自動車を食堂の裏へ廻しとくやうに云つとけ。


角さんと入れ代りに、篠子が白い洋服を着た男を伴つてはひつて来る。


篠子  あたくしの甥ですの。富樫とがしつて申します。学校時代、ランニングで鳴らしたんですわ。こちらが、園長先生の旦那様……。学校の先輩よ、あなた……。

富樫  始めまして……。

朔郎  やあ……。まあ、お掛けなさい。(二人に椅子をすゝめる)

篠子  (朔郎に)御用がおありになるんでせう。どうぞ、おかまひなく……。

朔郎  さうですか。ぢや、ちよつとかけた仕事がありますから……。あ、お昼はどうなさいます。

篠子  まだよろしいんですの。

朔郎  あつちの話も、ぢきすむと思ひますから……。(出で去る)


篠子は、富樫に片眼をつぶつてみせる。富樫は固くなつて坐つてゐる。彼女は、そのそばに椅子を引き寄せ、耳もとへ何か囁く。富樫、顔をそむけて微笑する。


篠子  それに、こなひだんとこは、おいしくないから、今日は何処か、ほかにしませうね。どうしてそつちばかり向いてるの。

富樫  もつと離れてませうよ。

篠子  (小声で歌を唱ふ)

富樫  あなたの出鱈目にもあきれるな。

篠子  (眼をつぶつて子供たちの唱ふ歌に耳を澄ます)


長い沈黙。

町子がはひつて来る。二人の姿を見ておどろく。


町子  ちつとも存じませんで……。

篠子  今日はすぐおいとまする筈でしたけれど、なんですか、あたくしにお話があるとかつて……。

町子  お聞きになりました? では、早速ですけれど……。(躊躇して)こゝでよろしいんでせうか。

篠子  かまひませんわ。さうね、でも、なんなら、この人、ちよつと、向うへ行つててもらつてもようござんすわ。あ、これはね、あたくしの甥で、富樫つて申しますの。死んだ坊やの代りに可愛がつてますのよ。

富樫  (会釈した後)ぢや、僕……。(立ち上る)

町子  いゝえ、あたくしたちが、あつちへ参りませう。こゝは出入りがありますから……あなた、それぢや、こゝで……御免遊ばせ……。(先に立つて出る)

篠子  あの標本でも見てらつしやい。退屈しちや駄目よ。(町子の後について行く)


二人が出て行つた後、富樫は、窓ぎはに倚つて外を見る。やがて、朔郎がはひつて来る。


朔郎  お一人ですか。

富樫  お差支へなければ、学校の中を見せていたゞきたいんですが……。

朔郎  お安い御用です。しかし、お目にかけるやうなもんぢやありませんよ。規模といひ、設備といひ、お話にならないほど貧弱です。これでよく文部省が認可したと思ふくらゐですが、なにしろ、日本は、珍しいことでさへあれば、少しぐらゐの与太は通用する国ですから、結構なもんです。別に羊頭をかゝげて狗肉を売るつもりもないんですが、万事、理想からは距り勝ちです。

富樫  あなたもやはりお教へになつてゐるんですか。

朔郎  僕は、園長から特に役目を与へられてゐません。顧問ともつかず、舎監ともつかず、秘書ともつかないやうなことをやつてゐます。時には看護人にもなります。

富樫  そのことは奥さんからも伺ひました。奥さんは、非常にあなたに感謝してをられます。

朔郎  それは不思議ですね、恨まれるのがほんとですが……。

富樫  あの人には、さういふところがあるんです。


二人とも、何時の間にか腰をおろしてゐる。

長い沈黙。ピヤノの単調な行進曲が聞えて来る。


朔郎  あ、授業が済んだやうです。

富樫  これからお昼ですね。


長い沈黙。


富樫  僕は永くあの人の家へ出入りをしてゐますが、近頃、あの人の変りやうと来たら、全くひどいですからね。原因は無論、子供を亡くしたことでせうが、あゝいふ変り方をする人も珍しいと思ひます。

朔郎  御自分でもさう云つておいでですね。それも、我儘のできる身分だからでせう。

富樫  僕は、誰に頼まれたわけでもないんですが、ふるくからのよしみもあり、見るに見かねて再三忠告めいたことを云つてみたんです。全然効目きゝめがありません。丸で子供扱ひにされて駄目です。

朔郎  それやさうでせう。

富樫  さつき、甥だなんて紹介されましたが、あれは出鱈目です。

朔郎  (苦笑する)

富樫  僕は、ある程度まで自分を犠牲にしてかゝつてるんです。それには、勿論、恋愛に似た感情も手伝つてゐます。しかし、あゝいふ状態では、真面目まじめにこつちの気持を打ち明ける気になりません。僕は、遊戯は真平まつぴらです。

朔郎  (また苦笑する)

富樫  そこで、ひとつ、先生にお願ひがあるんですが、なんとかして、あの人の魂を入れ替へさせていたゞけませんか。もつと真面目な態度で、この試練を受けるやうに導いて下さいませんか。

朔郎  (苦笑しながら)そいつはどうも、僕の力ぢや……。

富樫  宗教の方でも駄目ですか。

朔郎  僕には、さういふ信仰はありません。

富樫  でも、先生はクリスチャンでせう。

朔郎  さう見えますか。

富樫  でも、さうぢやないんですか。

朔郎  さうぢやありませんな。

富樫  さうでしたか。僕はまた……さうだとばかり思つてました。失礼しました。

朔郎  いや。


長い沈黙。


朔郎  近頃も、運動をおやりですか。

富樫  あゝ、あれも出鱈目です。たゞ、学生時代に、新聞配達をやつただけです。

朔郎  (黙つてうなづく)


そこへ、町子と篠子とが笑ひながら帰つて来る。


篠子  さ、もうお話がすんだから、失礼しませう。

町子  まだ、およろしいぢやございませんか。あなた、奥さまから、大層な御寄附をいたゞきましたよ。(小切手を見せる)

篠子  あら、大層だなんて……。(富樫に)さ、もう帰るんですよ。では、また来週……。どうも、お邪魔さま……。

町子  それぢや、お気をおつけになつて……。お車は……?(さう云ひながら、先に出て行く)


篠子と富樫、これに続く。

朔郎は、戸口のところで立ち止る。

有田道代がはひつて来る。デスクの上に生徒の図画らしきものを置いて、すぐ出て行かうとする。

朔郎が、その路に立ち塞がる。道代、笑つてそれをよけようとする。朔郎は、両手で道代の肩を押へる。


朔郎  そんなに逃げないだつていゝぢやないか。

道代  あら、逃げやしませんわ。

朔郎  ぢや、ぢつとして給へ。(かういひながら、左手をうしろに廻し、顔を相手の顔に近づける)

道代  (驚いて眼を見張るが、だんだん引寄せられるやうにのびをし、呼吸をはずませて、つひに相手の腕の中にからだを投げかける)

朔郎  (素早く唇を盗む)


この時、足音がするので、二人は急に離れる。が、もう既に、小使の妻、たいがそこに立つてゐる。

すると、何を思つたか、道代は、平手で朔郎の頬をいやといふほど打つ。そして、今度こそ、逃げるやうに出て行く。

朔郎は、拍子抜けがしたやうに笑ふ。


たい  (歩き出しながら、朔郎を横眼でにらみ)何か御用はございませんか。

朔郎  ないね。(茶碗を片づける)

たい  お昼をどうぞ……。(出て行く)


朔郎は、しばらく茫然としてゐる。

そこへ、町子と道代とがはひつて来る。

道代は朔郎の視線を避け、朔郎は町子の眼附を読まうとする。


道代  (デスクの上の図画を町子に示し)これとこれとが一番よろしいやうですが、どちらを張出しにいたしませう。

町子  さうね。これはだれ……。民子さんでせう。こつちも、なかなかよく出来てるわね。さあ、どうしたもんだらう。色の工合なんか、面白いぢやないの。

朔郎  どら、どら……。僕がめてやらう。(二つをかはがはるに指で指し)ド ツ チ ニ シ ヨ ウ カ ナ……。こつちだ。(道代に渡す)

町子  駄目ですよ。そんなこと……。

朔郎  君たちに絵のよしあしがわかるかい。そんなあやふやな選び方できめるくらゐなら、眼をつぶつてやつた方がましだ。

町子  あなたは理窟だけ云つてらつしやい。聴くだけ聴いてあげますから……。それぢや、こつちにしませう。この方が、天真爛漫なとこがあつていゝわ。

朔郎  天真爛漫か……。

道代  午後は、晴れましたら、散歩に連れてつてよろしうございますね。先生もいらつしやいますか。

町子  あたしは行きません。ちよつと東京へ出かけて来ますから……。


道代、会釈して去る。


朔郎  口止料千円は奮発したね。だが、その金は一体何に使ふんだい?

町子  あなたに、しばらく旅行をさせてあげるわ。好きなところへ行つてらつしやい。

朔郎  それや有りがたいな。


鈴を振る音が聞える。


町子  その代り、一月ひとつきたつたら帰つて来るのよ。三百円あれば足りるでせう。

朔郎  足りるけれど十分ぢやないな。

町子  ぢや、四百円……。

朔郎  五百円出し給へ。さうしたら、一日置きに絵端書を送らあ。

町子  絵端書はどうでもいゝから、「面白かつた」つて帰つて来て頂戴。

朔郎  五百円でね。さあ、そいつは大分おまけだぞ。

町子  それはさうと、マダムの連れて来た若い男ね。やつぱり、噂の男らしいわ……。

朔郎  マダムが白状したかい。

町子  甥だなんて譃らしいわ。今日もこれから、何処かへ行くらしいのよ。

朔郎  さうか。はつきりさう云つたかい。

町子  だけど、わからないものね。あの奥さんがあんな男と……。

朔郎  はつきりさう云つたかい。

町子  はつきりもなにも、現に、誰が見たつてわかるぢやありませんか。あれぢや、どんな噂を立てられたつてしかたがないわ。

朔郎  本人も別にそんなことを気にしてやしないさ。君は、あゝいふ問題を、何処からみたらいゝか、それを知らずにゐるんだ。つまり君の眼は、事件と一緒に進行してないんだ。時計で云へば、針の遅れてる時計だ。

町子  憚りさま。人間には、自分で自分に云つて聴かせる言葉つていふものがありますからね。あんたのやうに云つてしまへば、人間の本音ほんねは永久にわからないんです。覘ひを定めて物を云ふばかりが能ぢやありませんよ。

朔郎  さういふと、僕は君の揚足を取つたことになるね。僕には、さういふ癖もあるにはあるが、今のはさうぢやないんだ。君は現在どう思つてるか知らないが、僕は、あのマダムといふ人を、案外面白い人だと思ひ出したんだ。自暴自棄と云へばそれまでさ。しかし、その自暴自棄に、何処か真似の出来ないところがありさうだ。

町子  誰にだつて真似の出来ないところはあるもんですよ。それこそ、雑駁この上ない議論ぢやありませんか。兎に角、あんたは、あのマダムに興味をもつてるといふんでせう。噂の相手が、あの男でなく、自分だつたらなんていふ空想もしてみたんでせう。

朔郎  当つたね。しかし、それが自然ぢやないかと思ふんだ。あの女と一緒に、どん底へ落ち込んでもよし、また、一緒に天上へ舞ひ上つてもよし、さういふ義務と資格とを同時に備へてゐる男は、ちよつと外にあるまい。いや、今のは戯談だ。僕は、あの女を絶望から救ひ出せる自信があるんだ。

町子  どういふ方法で……?

朔郎  さあ、そいつは考へてみないとわからない。その答案を生み出すのに旅行はもつて来いだ。早速出かけるから、早く金を取つて来てくれ給へ。

町子  …………。

朔郎  なぜそんなに僕の顔を見てるんだい。

町子  …………。

朔郎  早くしてくれ。

町子  さういふ旅行なら、お金は出せません。

朔郎  さつき出すと云つたぢやないか。

町子  さつきはさつき、今は今です。

朔郎  出さないんだね。

町子  出しません。

朔郎  よし、そんなら僕が出て行く。

町子  何処へ行くんです。

朔郎  何処へ行かうと、僕の勝手さ。

町子  お金がないぢやありませんか。

朔郎  マダムのところへ行つて貰つてくる。

町子  あんたは、そんなことをするんですか。

朔郎  君がくれなけれや仕方がないぢやないか。

町子  (きつぱり)さ、これを持つてらつしやい。(小切手を渡す)みんな持つてらつしやい。何処へでも行つて、どういふ風にでも使つてらつしやい。

朔郎  みんなはいらないよ。

町子  いゝから持つてらつしやい。かうしておいて、あなたがどうするか、あたしはみてますから……。

朔郎  (黙つて小切手を受け取り)ぢや、貰つてくよ。一月ひとつきたつたら帰つて来てもいゝね。

町子  よござんすとも……。


朔郎は、わざとゆつくり出て行く。

町子、いかりに満ちた眼でそれを見送つた後、静かにデスクに向ひ、何か書きはじめる。




町子の居間──すべて普通の家庭の内部である。夕方の七時頃。


町子と道代とが長火鉢をはさんで向ひ合つてゐる。


道代  さういふお話、今はじめて伺ひますわ。でも、朔郎先生は、きつと、ママ先生のお気持がわかつてらつしやると思ひますわ。あの奥さんだつて、ママ先生に顔の合されないやうなことをなさる気遣ひはありませんわ。

町子  それはどつちでもいゝの。たゞ、今日帰るか帰らないかが問題なのよ。一月ひとつきたてば帰るつていふ約束なんですもの。こんなことを、あなたにまでお話するのは、よくよくのことなのよ。意地にでも黙つてゐたいんだけれど、あなたは、若いに似合はず、人の心の中を見抜くことがお上手だから、うつかり喋舌しやべらされてしまつたんです。さうです。あたしは、今日、一生涯を通じての心配事があるんです。

道代  汽車の都合とかなんとかで、一日ぐらゐお延びになることだつてありますわ。

町子  あの人のことだから、一月ひとつきは三十日と限らないなんていふかも知れませんね。それならそれでいゝんです。たゞ、明日帰るか帰らないかが、同じやうに気がかりです。知らずにゐればなんでもないことが、うつかり耳にはひるから、こんなみじめな苦しみ方をするんですよ。

道代  なにかお聞きになりましたの。

町子  それをまだ云ひませんでしたね。実は、何時いつか奥さんと一緒に来た若い男の人ね、あの人が、つい二三日前、あたしを訪ねて来たでせう。

道代  えゝ。

町子  その話では、奥さんは今、あの人と一緒に、ある温泉に行つてゐるらしいんです。勿論、誰も、行き先を突き止めたものもなし、奥さんが家から姿を消したといふその人の話と、朔郎先生があたしに寄越した絵端書とを結びつけて想像してみただけですが、その想像が当つてゐるかゐないか、もう一度突込んで調べてみる勇気もないくせに、あたしは、こんなにれてゐるんです。

道代  こんなこと伺つては失礼かも知れませんけれど、朔郎先生が、あの奥さんなら奥さんを、たゞ追ひまはしていらつしやるのと、両方でほんとに愛し合つていらつしやるのと、どつちがいゝとお思ひになりますの。

町子  その、どつちでもなければ一番いゝですがね。さうね、強ひて云へば、後の方でせうかしら……。たゞ追ひまはしてゐるだけなら、何時かまた帰つて来るやうに思へますけど、あたしのやうな女は、それほど勘定高く出来てないせゐか、自分の夫が、ほかの女に翻弄されてゐるのを見るより、しつかりその女をつかまへてゐてくれた方が、何か気強いやうな気がしますね。しかし、こんなことは、いざさうなつてみないと、しつかりしたことは云へませんね。あなたはどうなの。仮に旦那さんがあつたとして……?

道代  さあ……。それぢや、もう一つ伺ひますわ。でも、可笑しいから、よしませう。

町子  おつしやいな。

道代  では、朔郎先生が──お名前を云ふ必要はないんですわ。一般についていふんですから、をつとつていふことにしますわ。今仮に、自分の夫を、自分よりも総ての点で優れてゐる女に奪はれた時と、その反対に、自分よりも劣つてゐる女に奪はれた時と、どつちが諦めいゝでせう。

町子  あなたはどつち?

道代  あたくしは、自分より劣つた女に奪はれる方が諦めいゝと思ひますわ。さういふ女に眼をくれるやうな男なら、さつさと縁を切つてやりますわ。

町子  それやさうですとも……。あなたもやつぱり、さういふことでいろいろ考へてるんですね。考へておいていゝことでせう。たゞ、相手の女を、公平に判断することは、さういふ場合、なかなか困難ですね。まあ、ほんとから云へば、自分の立場からでなく、その夫の立場から判断すれば間違ひはないでせう。夫が、何を求めてゐるか。平生知つてゐるわけですからね。今日は、全く、あなたから、分別のいとぐちを見つけ出して貰つたやうなものです。お礼を云はなくつちや……。

道代  あら、いやですわ、ママ先生。あたくしね、実は、一週間ほど前から、御相談したいことがあつたんですけれど……つい今日まで申上げかねてゐましたの。ほんとに、あたくし、どうしていゝかわかりませんのよ。できれば、ママ先生から、どうしろつていふお指図をしていたゞきたいんですの。

町子  よござんすよ、云つて御覧なさい。

道代  あたくし、ママ先生には、それはそれは御恩を受けてゐますし、自分が一生師事していゝ方だと思つてゐますし、かうしてお側へ置いていたゞけることが、どんなにうれしいか知れないんですの。ですから道にはづれたことは、誓つてしないつもりでしたのに、たうとう、こんなことになつてしまつたんですわ。(泣く)

町子  おや、おや……。なんにも云はないうちから、もう泣くんですか。しつかりなさいよ。あたしで、お力になれることなら、なんでもしてあげます。さ、云つておしまひなさい。

道代  順序が変ですけれど、この手紙を先に見ていたゞきたいんですの。(封筒から中身を出して渡す)

町子  (黙読する)

道代  お驚きになつちやいけませんよ。

町子  (愕然として)なんです。これは……朔郎の手紙ぢやありませんか。朔郎が書いたんですか。朔郎があなたに寄越したんですか。

道代  御覧になる通りですわ。

町子  (両手を膝について、ぢつと道代の顔をのぞき込む)

道代  (次第に顔を伏せ、つひに畳の上に泣き伏す)

町子  この手紙の内容を、先づ二つに別けて、一つ一つ解決をつけて行きませう。

道代  (突つ伏したまゝ)どうぞ。

町子  第一に、これです。──「先日は、あんなことをして失礼しました。しかし、あなたは、最初、僕の与へるものを拒まうとなさらなかつた。その点、僕は、自分の心があなたに通じたものとして感謝してゐます。ところが運悪く、あのばゞあがはひつて来ました。あなたが、その時、突然僕に加へられた皮肉な刑罰は、聊か僕を面喰めんくらはせました。何れにせよ、あなたの超人間的機転は、あなたを、不幸な汚名から救つたのです」これは、どういふ意味でせう。

道代  (涙声で)その先をお読みになつて……。

町子  その先はその先で、あとから……。まづ、この一項の説明を聴きませう。

道代  説明の必要はございません。その通りなんです。

町子  その通りとは……?

道代  あの方が、あたくしに……。

町子  何を与へたんです。

道代  唇ですわ。

町子  あなたが、それを……。

道代  拒むことができなかつたんです。

町子  なぜね。

道代  お察し下さいませ。

町子  よろしい、それはお察しすることにしませう。それから、この「皮肉な刑罰」といふのは……。

道代  それは申上げられません。

町子  どうして?

道代  あんまり恥かしくつて……。

町子  恥かしいこと……。何んでせう。

道代  女らしくないことですわ。

町子  どこか蹴りでもしたんですか。

道代  いゝえ、かうして、おぶちしましたの。

町子  何処をね。

道代  お顔を……。

町子  朔郎先生の……? やれやれ、可哀さうに……。それで、朔郎は面喰つたと……。よろしい。ところで、それがあなたを、不幸な汚名から救つたといふのは……?

道代  ママ先生のお耳にはひつても、あたくしの方は……。

町子  被害者ですむといふわけですね。それが今日まで、あたしが知らずにゐて、結局、朔郎が殴られ損をした。それで、第一項はよくわかりました。第二項にうつりませう。──「僕は今、自由な旅を続けてゐます。ママ先生は、恐らく、僕が例のマダムの御機嫌を取つて、日を暮してると思ひ違ひをしてゐませう。その点は、あなたから弁明をしておいて下さい。成る程、僕は、一時義侠心を起して、彼女を自暴自棄の生活から救ひ出さうとも考へた。しかし、それは、余計なおせつかいだといふことに気がついたんです。それよりも、路傍に忘れられた野菊のやうなあなたに(道代の顔をちらと見て)満腔の愛と、力ある慰めを与へ得てこそ、僕は生甲斐があるのだと覚りました。これからすぐに、僕のところへいらつしやい。ママ先生には、少し気の毒ですが、あの人は、自分の仕事をもつてをり、自分で自分の力を信じてゐる人です。心配しないで、僕のところへおいでなさい。それから、将来のことをゆつくり御相談しませう。」

道代  どうしたらよろしうございませう。

町子  泣かなくつてもよろしい。えゝと、「その点は、あなたから弁明しておいて下さい」……これはもうわかりました。「成る程、僕は、云々」も、よしと……。この「路傍に忘れられた野菊」はどうです。あなたのプライドは、この形容詞を受け容れますか。

道代  野菊だなんて、勿体ないくらゐですわ。

町子  「路傍に忘れられた」はどうです。

道代  それに違ひございませんもの。この年になるまで、男性の方から、さういふ優しいことをおつしやつていたゞいたことは、一度だつてございませんわ。

町子  「満腔の愛と力ある慰め」……。

道代  どちらも、あたくしに必要なものですわ。

町子  それで、あんたは、これからすぐに、あの人のところへ行く気がありますか。

道代  ママ先生さへ許して下されば、あたくし、参りたいと思ひますわ。

町子  あたしは、「少し気の毒ですが」、「自分の仕事をもつてゐる」さうですし、「自分で自分の力を信じてゐる」さうですから、それはかまひますまい。(唇をふるはせながら)さ、行つてらつしやい。(手紙を投げ出す)

道代  (それを拾ひながら)ほんとによろしうございますか。

町子  いゝですとも……。

道代  すみません……。(手紙を懐へしまふ)

町子  あやまらなくつたつてよござんす。

道代  お清書の点を、まだ半分ほどつけ残してございます。

町子  かまひません。

道代  では、これで失礼いたします。ママ先生も、おからだをお大事に……。

町子  あなたもどうぞ……。


道代は、しほしほと起ち上る。

そこへ、思ひがけなく、ばつたり、朔郎が帰つて来る。


朔郎  只今……。


町子と道代は、それぞれ、緊張した面持で、そこへ立ちすくむ。


朔郎  どうしたの、二人とも……?

町子  …………。

道代  …………。

朔郎  黙つてはひつて来て、わるかつたかな。

町子  まあ、そこへおすわんなさい。

朔郎  (坐りながら)有田君は、また泣いたね。

町子  どうして泣いたか、いて御覧なさい。(出て行く)

朔郎  (あつけに取られたやうな風をして)どうして泣いてるの? おこられたね。

道代  御免なさい。(朔郎の膝に顔を伏せる)

朔郎  (もじもじして)知れたのか。

道代  あたしがみんな云つてしまつたんですわ。

朔郎  さうしたら……?

道代  お許しが出ましたの。

朔郎  もう遅いよ。

道代  え? どうして?

朔郎  なぜ、すぐ来なかつたの?

道代  でも、あんまり、急なんですもの。

朔郎  一日考へれば沢山だ。僕は、一週間、待ち続けた。待ち続けた挙句、待ち草臥くたびれて帰つて来た。外に行くところはないんだ。

道代  やつぱり、ママ先生のおそばへお帰りになりたかつたのね。

朔郎  さう云へばさうさ。君だつて、僕よりママ先生を力に思つてるんだ。

道代  違ひます。たゞ、お許しを受けただけです。

朔郎  一週間迷つた末にね。

道代  迷つたんぢやありません。なかなか云ひ出せなかつたんです。

朔郎  云ひ出したら、すぐ許したか?

道代  えゝ。あなたのお手紙をおみせしたら、いちいち文句を吟味なすつた上、「それは、かまひますまい」つておつしやいました。

朔郎  文句を吟味した上で、「それはかまひますまい」……。どうして、先生、さう簡単に許したらう。君、そのわけがわかつてるかい。

道代  えゝ。わかつてますわ。ママ先生は、自分の夫が、ほかの女を追ひまはすだけでなく、その女からも愛されてゐれば、その方が、なにか気強いやうな気がするつておつしやいました。それから、自分よりも劣つた女になら、何時でも夫を渡してやるつていふ意見に賛成なさいました。

朔郎  誰の意見、それは……?

道代  あたしの意見ですわ。

朔郎  君の意見……。すると、僕は、だんだん……。さうか。さういふわけか。しかし、その意見が、実際に行はれたかどうか、君たちにはわからんよ。よし、もうなんにも云ふことはない、君がママ先生より劣つてゐる女かどうか、僕が試験をする役だ。君には、第一に、若さがある。第二に、控へ目といふ美徳がある。第三に、涙を節約しない。第四に、第五に……いや、総て、ママ先生のもつてゐないもの、僕の餓ゑてゐるものをもつてゐる。それだけで沢山だ。

道代  そんなら、やつぱり、あたしを愛して下さいますの?

朔郎  愛するなんていふ言葉は、今の場合不用です。僕は、あなたの前に、ママ先生を跪かせよう。それが僕の義務だ。

道代  後生ですから、そんなことをなさらないで……。ママ先生は、お気の毒なんです。

朔郎  気の毒なのはわかつてゐる。僕は、みんなに気の毒なんだ。みんなを気の毒な目に遇はせてゐる。気の毒と気の毒とを相殺するんだ。その方法を、僕は考へ出したんだ、ぢつとして給へ。ママ先生は、自分の力を信じてゐる。僕が結局、こゝへ帰つて来ると思つてゐるんだ。縛らずにおいて縛らうといふ戦法だ。それもよからう。現に、僕はかうして帰つて来た。現に僕は、また縛られようとしてゐる。君は一体なんだ。猿廻しが、猿の腕に抱かせる人形だ。

道代  あたしがですか。

朔郎  さうさ。

道代  いやです、いやです。そんな人形はいやです。

朔郎  いやでも仕方がない。しかし、僕は、その人形の方が欲しいんだ。それはたしかだ。

道代  たしかですか。

朔郎  うん、たしかだ。しかし……。

道代  そんなら決心をして下さい。

朔郎  駄目だ。僕は、なんでも、自然に決められるものは自然に決めたい。撰択をする力がないんだ。自分で選んだものは、きつと後悔するんだ。ある感情を制しても、制しなくても、同じ分量の苦しみと戦はなけれやならないんだ。所謂善も、所謂悪も、僕には、同じ程度の魅力、同じ程度の恐怖だ。どつちを取るのにも、同じ疑ひが起り、同じ勇気が必要なんだ。

道代  そんなら、あたしはどうすればいゝんですの。

朔郎  ぢつとして給へ。

道代  こゝに、かうしてですか。

朔郎  うん。

道代  ママ先生のおそばでですか。

朔郎  さうだ。

道代  そんなことができますか。

朔郎  できなくつてもするんだ。


この時、町子が静かにはひつて来る。黙つて縁側の障子を開け放つ。暗い庭に、生徒一同が列を作つてゐる。


町子  みなさんが長らくお世話になつた朔郎先生と、有田先生が、今度、この学校から、余所よそへおいでになることになりました。お二人の御幸福を祈つて、お別れの御挨拶をいたしませう。

生徒一同  朔郎先生、有田先生、御機嫌よう。


朔郎と、道代とは、しぶしぶ、同時に起ち上る。


朔郎  はい、ありがたう。みなさんも御機嫌よう。

道代  (涙をおさへ)これからも……どうぞ……マ……マ……ママ先生の……ママ……ママ……。(遂にその場に泣き伏す)

生徒一同  朔郎先生、有田先生、さよなら……。

朔郎  はい、さよなら……。

町子  では、みなさん、寝室へお引取りなさい。


生徒一同は、ぞろぞろと帰つて行く。


町子  (しばらくして)さ、二人とも、車の用意ができてゐますよ。


底本:「岸田國士全集4」岩波書店

   1990(平成2)年910日発行

底本の親本:「職業」改造社

   1934(昭和9)年517日発行

初出:「改造 第十二巻第十号」

   1930(昭和5)年101日発行

※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

入力:kompass

校正:門田裕志

2012年220日作成

青空文庫作成ファイル:

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