秋が きました
小川未明



 にわの コスモスが、きれいに さきました。しずかな あきの いい ひよりです。

 ピイー、ピイーと いう、ほそい ふえの おとが しました。

「ラオの すげかえやが きたから、この きせるを たのんで おくれ。」

と、おばあさんが おっしゃいました。

「はい。」

と いって、きよは うけとって そとへ でました。

 しばらく して、きよは かえって きました。

「いくら さがしましても、ラオやさんが みつかりません。」

と いいました。

 この とき、また ピイー ピイーと いう おとが しました。

「あんなに きこえて いるでしょう。」

と、おばあさんは おっしゃいました。

「ぼくが さがして あげるよ。」

と、たけちゃんは かけだしました。

 たけちゃんは、おうらいを あちらこちらと みまわしました。けれど、やはり わかりません。

「ラオやさんは どこに いるのだろう、ほんとうに おかしいな。」

と、たけちゃんは ぼんやり たって いました。

 そらは あおく はれて いました。あの はこの ついた くるまを ひいて、おじいさんは どこを あるいて いるのかと おもいました。

たけちゃん、やきゅうを しない?」

と、ふいに としちゃんが かたを たたきました。

「いま、これを うちへ おいて くるからね。」

と、たけちゃんは こたえました。

「おばあさん、やはり いませんよ。」

と いうと、おばあさんは、

「ああ そうかい、あきだから 遠方えんぽうの おとが、ちかく きこえるのかも しれないね。」

と おっしゃいました。

 たけちゃんは いそいで はらっぱへ いくと、もう みんなが あつまって いました。しょうちゃんと りょうちゃんは、あたらしい ユニホームを きて いました。

「さあ、はじめようか。」

と、ピッチャーの しょうちゃんが プレートに たちました。そうして、たまを にぎった を たかく あげると、みんなが いっしょに ブウー、と サイレンの まねを しました。その こえは、ほんとうの サイレンのように とおくまで ひびきました。

 これを ききつけて、あちらから、きみさんと かねさんが とんで きました。

底本:「定本小川未明童話全集 16」講談社

   1978(昭和53)年210日第1刷発行

   1982(昭和57)年910日第5刷発行

初出:「コドモノクニ」

   1938(昭和13)年10

※表題は底本では、「あきが きました」となっています。

※初出時の表題は「秋ガ来マシタ」です。

入力:特定非営利活動法人はるかぜ

校正:Juki

2012年716日作成

2012年927日修正

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