星とピエロ
中原中也



何、あれはな、空に吊した銀紙ぢやよ

かう、ボール紙をつて、それに銀紙を張る、

それを綱か何かで、空に吊し上げる、

するとそれが夜になつて、空の奥であのやうに

光るのぢや。分つたか、さもなけれあ空にあんなものはないのぢや


それあ学者共は、地球のほかにも地球があるなぞといふが

そんなことはみんなウソぢや、銀河系なぞといふのもあれは

をなご共の帯に銀紙をりつけたものに過ぎないのぢや

ぞろぞろと、だらしもない、遠くの方ぢやからええやうなものの

ぢやによつて、わしなんざあ、遠くの方はてんきりみんぢやて


見ればこそ腹も立つ、腹が立てば怒りたうなるわい

それを怒らいでジツと我慢してをれば、神秘だのとも云ひたくなる

もともと神秘だのと云ふ連中やつは、例の八ツ当りも出来ぬ弱虫ぢやで

誰怒るすぢもないとて、あんまり始末がよすぎる程のやからどもが

あんなこと発明をしよつたのぢやわい、分つたらう


分らなければまだ教へてくれる、空の星が銀紙ぢやないというても

銀でないものが銀のやうに光りはせぬ、青光りがするつてか

それや青光りもするぢやらう、銀紙ぢやからなう

向きによつては青光りすることもあるぢや、いや遠いつてか

遠いには正に遠いいが、それや吊し上げる時綱を途方もなう長うしたからのことぢや

(一九三四・一二・一六)

底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店

   1968(昭和43)年1210日改版初版発行

   1973(昭和48)年830日改版13版発行

入力:ゆうき

校正:木浦

2013年123日作成

2018年1227日修正

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。