地極の天使
中原中也



 われ星に甘え、われ太陽に傲岸ならん時、人々自らを死物と観念してあらんことを! われは御身等をのろふ。

 心は腐れ、器物はけがれぬ。「夕暮」なき競走、油と虫となる理想! ──言葉は既に無益なるのみ。われは世界の壊滅を願ふ!

 蜂の尾と、ラム酒とに、世界は分解されしなり。夢のうちなる遠近法、夏の夜風の小鎚こづちの重量、それ等は既になし。

 陣営の野に笑へる陽炎かげろふ、空を匿して笑へる歯、──おゝ古代! ──心は寧ろ笛にまで、堕落すべきなり。

 家族旅行と木箱との過剰は最早、世界をして理知にて笑はしめ、感情にて判断せしむるなり。──われは世界の壊滅を願ふ!

 マグデブルグの半球よ、おゝレトルトよ! 汝等祝福されてあるべきなり、其の他はすべて分解しければ。

 マグデブルグの半球よ、おゝレトルトよ! われ星に甘え、われ太陽に傲岸ならん時、汝等ぞ、讃ふべきわが従者!

底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店

   1968(昭和43)年1210日改版初版発行

   1973(昭和48)年830日改版13版発行

※誤植を疑った箇所を、「中原中也詩集」角川文庫、角川書店、1995(平成7)年530日改版54版発行の表記にそって、あらためました。

入力:ゆうき

校正:きりんの手紙

2019年329日作成

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