Me Voila
── a Cobayashi
中原中也
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人がいかにもてなしてくれようとも、それがたゞ暖い色をした影に見え、自分が自分で疑はれるほど、淋しさの中に這入つた時、人よ憶ひ出さないか? かの、君が幼な時汽車で通りかゝつた小山の裾の、春雨に打たれてゐたどす黒い草の葉などを、また窓の下で打返してゐた海の波などを……
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実生活は論理的にやるべきだ! 実生活にあつて、意味のほか見ない人があつたら、その人は実生活以外にも世界を知つてゐる人だ。則ち科学でも芸術でもない、大事な一事を!
げにわれら死ぬ時に心の杖となるものがあるなら、ありし日がわれらの何かを慄はすかの何か! ──生を愛したといふことではないか?
小学の放課の鐘の、あの黄ばんだ時刻を憶ひ出すとして、タダ物だと思ひきれるか?
(社交家達といふものは理智で笑つて感情で判断する。即ち意味に忠実でないからだ。───)
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さうしてよき心の人よ、あれら手際よい技能家や学者等を恐れたまふな。あれら魂が稀薄なために、夢が浅いので歯切れが好いばかりだ。───彼等が歯切れの好いことは彼等の人格と無関係だ。
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地上を愛さんために、人は先づ神を愛す必要がある!
底本:「新編中原中也全集 第四巻 評論・小説」角川書店
2003(平成15)年11月25日初版発行
※底本のテキストは、著者自筆稿によります。
※表題は底本では、「Me Voilà」となっています。
※副題は底本では、「── à Cobayashi」となっています。
※()内の編者によるルビは省略しました。
※底本巻末の編者による語注は省略しました。
入力:村松洋一
校正:noriko saito
2015年9月1日作成
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