遠友夜学校校歌
有島武郎



    一


沢なすこの世の楽しみの

  楽しき極みは何なるぞ

北斗を支ふる富を得て

  黄金を数へん其時か

オー 否 否 否

  楽しき極みはなほあらん。


    二


剣はきらめき弾はとび

  かばねは山なし血は流る

戦のちまたのいさほしを

  我身にあつめし其時か

オー 否 否 否

  楽しき極みはなほあらん。


    三


黄金をちりばめ玉をしく

  高どのうてなはまばゆきに

のぼりて貴き位やま

  世にうらやまれん其時か

オー 否 否 否

  楽しき極みはなほあらん。


    四


楽しき極みはくれはどり

  あやめもたへなる衣手か

やしほ味よきうま酒か

  柱ふとしき家くらか

オー 否 否 否

  楽しき極みはなほあらん。


    五


正義と善とに身をさゝげ

  欲をば捨てて一すぢに

行くべき路を勇ましく

  真心のまゝに進みなば

アー 是れ 是れ 是れ

  是れこそ楽しき極みなれ。


    六


日毎の業にいそしみて

  心にさそふる雲もなく

昔の聖 今の大人うし

  友とぞなしていそしまば

アー 是れ 是れ 是れ

  是れこそ楽しき極みなれ。


    七


楽しからずや天の原

  そら照る星のさやけさに

月の光の貴さに

  心をさらすその時の

アー 是れ 是れ 是れ

  是れこそ楽しき極みなれ。


    八


そしらばそしれつゞれせし

  衣をきるともゆがみせし

家にすむとも心根の

  天にも地にも恥ぢざれば

アー 是れ 是れ 是れ

  是れこそ楽しき極みなれ。


    九


衣もやがて破るべし

  ゑひぬる程もつかの間よ

朽ちせでやまじ家倉も

  唯我心かはらめや

アー 是れ 是れ 是れ

  是れこそ楽しき極みなれ。

底本:「有島武郎全集第一卷」筑摩書房

   1980(昭和55)年830日初版第1刷発行

   2001(平成13)年610日初版第3刷発行

底本の親本:「有島武郎全集第一卷」叢文閣

   1924(大正13)年45日発行

※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の旧字を新字にあらためました。

入力:mono

校正:染川隆俊

2010年32日作成

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