道中記
種田山頭火
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三月十二日 晴、春寒、笹鳴、そして出立──八幡。
昨夜は夜通し眠れなかつた、出立前に、アメリカ同人の贈物ポピーを播いてをく!
今朝の誓願、今後は焼酎を飲むまいぞ、総じて火酒は私に向かない、火酒を飲んでロクな事があつたタメシがない、火酒は地獄の使だ!
やつとこさで、九時の汽車に乗れた、やれ〳〵、今日の新聞は車内で読ませて貰つた。
十一時、関門海峡を渡る。──
急いで、日本銀行支店の岔水君を訪ふ、岔水君は若い江戸ッ児のよさだけを私にあらはしてくれる、ありがたいことである。
黎々火君は出張不在、軽い失望、帰途の希望がある。
──一杯また一杯、安い酒、酔はない酒、淋しい酒!
門司駅の待合室で岔水君を待つ、四時、同道して小倉まで。
大朝支社参観、深切に案内して下さつた、近代風景を断片的に鑑賞することが出来た、或るおでんやで飲んで話して、別れた。
電車で、ほろよひ気分で、暮れ方の鏡子居へとびこむ、客来で、私一人で御馳走になる、さすがにをなごやだけあつて賑やかだ、時々主人公と世間話をしながら、腹いつぱい飲んで食べた、早々ほろ〳〵になつてぐつたりと寝た、感謝々々。
好い日であつたが、やつぱり私のその日その日は覚めきらない悪夢の断片といはなければなるない。
・朝のひかりへ播いてをいて旅立つ(アメリカポピー会同人に)
・食べるもの食べつくしたる旅に出る(自分自身に!)
再録
・春風のどこでも死ねるからだであるく(これも自嘲の一句)
述懐、冬去春来
・かつえずこごえず冬もほぐれた(別)
・戦ひはこれからの大地芽吹きだした
・野中の一本いちはやく芽吹いてゐる
梅はさかりの、軍需工業のけむり
・たちまち曇り、すぐ晴れて海峡の鴎
門司駅待合室所見
・仲よく読んでゐるよこからいやな顔がのぞいて
──綿織物よりも絹織物を! これも非常時の国産奨励。
改作追加一句、峠にて或る日のルンペンと共に
・草の上におべんたう分けて食べて右左
三月十三日 曇、時雨、若松。
朝早く起きてはならないので困つた(夜ふかしの朝寝があたりまへの社会だから)、こつそり抜けだして散歩、時局柄で朝湯もないので、コツプ酒でも呷る外ない、……不用人間の不用時間を持て余した。……
身辺整理、アメリカ行の小包をこしらへ手紙を書く。
八幡の印象、──中心は何といつても製鉄所の煙突、そして飲食店、職工、何もかもごた〳〵してゐる。
新聞記事で動かされたもの二つ、──モルガンお雪の帰国と岡田博の母を嘆く言葉。
午後、鏡子君に連れられて、徳訪問、よい湯を頂戴した、そして酒と金との功徳も頂戴した。
四時頃出立(鏡子君の温情に改めて感謝する)、警察署に星城子君を訪ねたが不在、雲平居は帰途立寄ることにして、電車で戸畑へ。
多々桜居で、奥さんのなげきを聴く(多々桜君の病状について)、同情に堪へない、すぐ若松病院へ行く。
四階の狭い病室、寝台に横はつたまゝで、附添婆さんから夕飯を食べさせてもらつてゐる多々桜君に逢ふ、顔色は予期したほど悪くないので安心した、二時間あまり話す、私一人がおしやべりしたことである。
暮れたけれど月があるので、バスで蘇葉居へいそぐ、折よく在宅、しばらく話したが、何となく身心が落ちつかないので、バスでまた駅まで引返し安宿に泊つた、歩いて飲んで寝た、夜中に臨検があつた。
今日は気持のよい娘を三人見た、バスガール、バアガール、そして電車の乗客。
誰もが戦闘帽をかぶつてゐる、それも非常気分を反映してゐてわるくはないけれど、おなじ色に塗りつぶされたゞけの世間のすがたはあまりよくはなからう。
──あれは何でせう?(一杯機嫌の私)
──お月さんですよ!(街の若い人)
これは若松に於ける私のナンセンスである。
・早春のくだもの店の日かげうつる
波止場所見として
・風の中のこぼれ米拾ひあつめては母子
・まんぢゆうたべたべ出船の船を見てゐる、寒い
・朝の雨の石をぬらすより霽れた
若松へわたし場
・ちよいと渡してもらふ早春のさざなみ
多々桜君を病院に見舞うて、病室即事
・投げ揷しは桜のつぼみのとくひらけ
・木の実かさなりあうてゆふべのしづけさ
製鉄所遠望
・夜どほし燃やす火の燃えてさかる音
途上
・かなしい旅だ何といふバスのゆれざまだ
三月十四日 晴、糸田。
安宿の気安さ。
めしやでめしを食べ、酒屋で酒を飲み、餅屋で餅を味はつた(草餅の魅力である)。
若松の帆檣林立風景も此頃は以前ほどでないやうだ。
歩くつもりで歩きだしたが、途中でへたばつて、バスで折尾へ、折尾から汽車で直方へ。
S酒場に折から帰郷中の惣参居士を訪ねる、生一本の御馳走になる、お土産としても頂戴する、多謝々々。
街はづれまで送られて、金田までバス、そこから宮床まで歩く、緑平居はいつ来てもしたしい、香春岳もなつかしい、ボタ山も芽吹きさうな色彩をたゝへてゐる、天も春、地も春、人もまた春だ、夜のふけるまで話しつゞける、話しても話しても話がある。
炭坑地風景
・花ぐもりの炭車長う長うつらなり
・春風ぽこぽこ驢馬にまたがつて
駅構内所見
・うらゝかに青い旗や赤い旗や
炭坑地風景二句
・うらゝかな春空のボタ山かぶる山よ
・そこらぢゆう石炭だらけの石炭を拾ふてゐる
・水にそうてでこぼこのみちの草萌ゆる
ボタ捨車
・ボタ山も芽ぐんでくるスキップ
・爆音、さくらはまだ開かない
三月十五日 晴、中津。
今日も身辺整理、やうやく文債書債を果してほつとする。
十時、お暇して、歩いて伊田へ、伊田から汽車で行橋へ、乗り替へて中津へ。
汽車では七曲りの快も味へなかつた、駅でさめ〴〵と泣いてゐた若い女をあはれと思つた。
宇平居は数年前のそれだ、お嬢さんがさつそく御馳走して下さる、ありがたかつた。
宇平さんは医者としても市民としても忙がしい、忙がしくて病気をする暇もないといふ、結構々々。
夜、二丘老来訪、三人でのんきぶりを発揮する。
寝苦しかつたが、よい月夜であつた。
中津
・街は花見の売出しも近いペンキぬりたて
宇平居
・石に水を、春の夜にする
・あなたを待つとてまんまるい月の
三月十六日 好晴、中津。
早起、塩風呂にはいる、朝酒、味噌汁がおいしかつた。
宇平居でよいものは門と石仏。
昧々居徃訪、昧々君はさびしい人だがおとなしすぎる。
福沢先生の旧邸宅を観る、昔ながらの土蔵は忘れ難い。
柳が芽ぶいてゐる、もう筍が店頭に飾られてゐる、草餅を食べる、双葉山という酒を飲む(双葉山は近在の出生である)。
中津は鰒の本場だ、魚屋といふ魚屋には見事な鰒が並べられてある、それを眺めてゐたら、店番のおばさんから、だしぬけに、「おとうさん、鰒一本洗はうか!」と声をかけられた。
引札(俳諧乞食用としての)出来。
夜は句会、二丘、昧々、耕平、そして主人と私、あまりしやべつたので、さびしくなつた、かなしくさへなつた。
・のぞいて芽柳のなつかしくも
妙蓮寺
お寺の大柳芽吹いてゆれて
春寒の鰒を並べて売りたがつてゐる
塩湯はよろしく春もしだいにととなふ景色
福沢先生旧邸
その土蔵はそのまゝに青木の実
三月十七日 日本晴、宇佐。
一片の雲影もない快さ、朝湯朝酒のうれしさ、いよ〳〵出発、宇平さん、二丘さん、昧々さん、ありがたう、ありがたう、ありがたう。
俳諧乞食業は最初から失敗した!
途中、二三杯ひつかける、歩けなくなつて、宇佐までバス、M屋といふ安宿に泊る、よい宿であつた、深切なのが何よりもうれしい、神宮に参拝して祈願した、神宮は修理中。
宇佐風景、丘、白壁、そして宇佐飴を売る店。
ふんどし異変、山頭火ナンセンスの一つ、私としては飲み過ぎた祟りであり、田舎の巡査としては威張りたがる癖とでもいはう、とにかく、うるさい世の中だ、笑ひたくて笑へない出来事であつた。
自嘲
・旅も春めくもぞもぞ虱がゐるやうな
・春のほこりが、こんなに子供を生んでゐる
・街をぬけると月がある長い橋がある
宇佐神宮
・松から朝日が赤い大鳥居
・春霜にあとつけて詣でる
水をへだててをとことをなごと話がつきない
・道しるべが読めないかげろふもゆる
・たたへて春の水としあふれる
・牛をみちづれにうららかな峠一里
・放たれて馬は食べる草のなんぼでも
・紫雲英や菜の花やふるさとをなくしてしまつた
・春風、石をくだいてこなごなにする
・うらうらこどもとともにグリコがうまい
・今日の日をおさめて山のくつきりと高く
・朝月落ちかゝる山の芽ぶいて来た
・噴水を見てゐる顔ののどかにも
・春のおとづれ大鼓たたいて何を売る
・ひとり山越えてまた山
三月十八日 晴、霜、彼岸入、別府。
早々出立、ぶら〳〵歩いて南へ、南へ、うらゝかすぎるうらゝかさだ。
北馬城を過ぎ立石で辨当行李を開く、茶店の若いおかみさんの自慢話も興が深かつた。
巡礼の親子三人連れ、子供がいちばんうらゝかだ。
亀川まで汽車、賃四十七銭は惜しかつたが、──亀川にはほどよい宿が見つからないので、電車で別府へ、F屋に地下足袋を脱ぐ、さつそく一浴して一杯! おそくまで散歩して熟睡。
別府は山もよろしく海もよろしく、湯はもちろんよろしく、女もわるくないらしい。
時局のために遊覧客は多くないらしいが、それでも二千や三千はあるらしい。
いたるところ温泉、いたるところをなごや、湯はタダ、女も安いさうな。
遊園別府、貧乏人や偏屈者の来る場所ではない。
別府所見、──
小秦誰、朝見川朝日橋のほとり、竹田が妓にかく書いて与へたといふが、夜はともかく、昼はゴモクアクタでワヤだ!
別府竹枝、流川通、名残橋阯、カフヱーやおでんやや料亭や置屋があつまつてゐる。
高崎山のおもしろさ、鶴見岳のよろしさ。
旅の人々と彼等の財布を狙ふ街の人々と、温泉の匂ひ、脂粉の香り。
土産物を売る店と女を売る店と。
由布岳──旧名、湯ノ嶽──通称、豊後富士は好きな山である、総じて豊後の山岳は好きだ。
なるたけ本道を歩くことだ、遠いけれど間違がない、近道、それは多く旧道、その道は歩くにはよろしいが、よく見定めて、念に念を入れて歩くことだ。
無尽寥。──
作ることが生きることである。
片手で耕やす人!
すなほにつゝましく。
昨日を忘れよ、明日を思ふな、物事にこだはるな。
一切放下着、超越生活。
ラクダを羨む(新聞の北支記事を読んで)、食べることに苦労してゐると、ラクダに笑はれるやうになる!
カシラナリ(頭成)といふ地名は珍らしい。
ビンボウはカンシヤクの素!
三月十九日 晴、浜脇、 一泊二飯八十銭。
一人一室一燈。
早朝入浴して散歩する、あかつき丸の出航を見送る。
この宿は悪くはないがうるさいので、浜脇のG屋へ移る、しづかでしんせつできれいで、夜具も賄もよい。
歩いたり、浴びたり、書いたり、飲んだり、──旅づかれで、詳しくいへば、人づかれ、湯づかれ、酒づかれで、宵からぐつすり寝た、まことに近頃にない快眠であつた。
三月二十日 晴、浜脇。
申分のないお天気、ほんたうに好い季節。
早く眼覚めて入浴、散歩、そして、……豊後富士の姿はうつくしい、朝にかゞやいた時は殊に。
宿の居心地がよいので、もう一日逗留することにして、行きあたりばつたり方々を見物する、人出が多い、恵まれた日曜だ。
波止場に立つて出港するすみれ丸を見送り、入港するあかつき丸を迎へる。
夜も散歩、どてら姿が右徃左徃する。
今日も破戒した、シヨウチユウを飲みアワモリを飲んだ、アワモリ屋のおかみさんは私の顔を覚えてしまつて(さすがに商買だ)、小海老のてんぴら一片を下物としてサービスしてくれた!
近来、視力の減退が著しいことを感じる、栄養不良のためか、老衰のためか、そのどちらでもあらう。
──別府三泊は長過ぎた、気分も倦怠したし旅費も乏しくなつた、明朝は降つても照つても立たう。
今夜はなか〳〵睡れなかつた。
別府埠頭
春風のテープもつれる別れもたのしく
出てゆく汽船の、入りくる汽船の、うらゝかな水平線
三月廿一日 曇、風雨となつた、由布院。
朝湯はよいな、けさは朝酒を遠慮した。
お彼岸の中日といふので朝御飯は小豆飯、それにも少年の追憶をそゝられる、いよ〳〵八時出立、由布院へ歩く。──
立派なドライヴウヱー、自動車はうるさい(歩くものには)、乗らないものには外道車だ(便利なこともある、乗らないものにも)。
私はもう登山は出来ない、仰いで山を観るばかりである。
鶴見園を横に見て登る、登る程に、海地獄、八幡地獄、無間地獄、等々と地獄の連続だ。
山里は梅やら桃やら咲いて、水車がまはつて、牛が鳴いて、とても長閑である、そこらで演習があるらしい砲声も!
風が出て晴れさうだが、たうとう風雨になつた、ラクダ色の山が山に、ごつ〳〵そびえてゐる。
朝見川鶴見橋。
火男火売神社。
山鶯が啼く、音色のよいのも啼く、水音をさがして飲む、腹いつぱい、うまい〳〵、山鳴、山霧、さびしいな、何となく心細い。
鐘紡種牧場、なか〳〵大規模らしい。
城島台、眺望はすばらしいらしいが、霧で視野はすつかり遮られてしまつた。
雲雀が啼く、これもおもひでの種の一つだ、道ばたの蕗の薹二つ三つ頂戴する。
五時近くなつて、やうやく由布院の湯坪へ着く、T屋といふ安宿へおちつく、なか〳〵よい宿らしい、家は粗末だが、……どてらを貸してくれる、お茶を持つてきてくれる(お茶受として沢庵も悪くない)、火鉢にたくさん火をいけてくれる、内湯がある、電燈が明るい。……
ハガキを出したついでに、さつそく一杯──二杯ひつかける、うまい酒だつた、また、よい酒でもあつた。
ほろ〳〵ほろ〳〵、だが、風がガタビシの硝子障子をたゝく音はさびしい〳〵。
こゝには水がない、温泉だけといふ、さりとは。──
別府由布院六里といふが、どうして〳〵、山行六里にはすつかり労れきつた、年はとりたくないものだわい!
今夜はゆつくり寝やう、ぐつすり睡れるだらう。
由布院はさびしい温泉だが、そこが好きだ、湯を浴びてはぽか〳〵ぼんやりしてゐるのがうれしい。
酔ひざめの水ではないので、酔ひざめの湯をがぶ〳〵飲んだ!
夜が更けて、雨になり風になつた、困つたな、ふと眼覚めて硝子障子越しに見ると、月夜になつてゐる、よかつた。
由布院がきつぜんと聳え立ち、朝月が近くかゝつてゐる、よいな。
・湯けむりの梅のまつさかり
・うりものと書かれて岩のうららかな
・枯野風ふくお日様のぞいた
・のぼつたりくだつたり濡れても寒くはない雨の
・蕗のとうここで休まう
・山霧ふかく風車のまはるでもなく
牧水に
・ずんぶり濡れてけふも旅ゆく(幾山河……)
・山のなか山が見えない霧のなか行く
・草枯れてほんによい岩がところ〴〵
由布越
・吹きおろす風をまともに吹きとばされまいぞ
三月廿二日 好晴、春光熙々、玖珠。
七時、身心かろく出発する、高原のさわやかさ、秋のやうな、南由布へまはり、いよ〳〵山路にかゝる、水分峠である、山又山、鶯がやたらに啼く。
十歩行いては立ちどまり百歩行いては腰をおろす。
雲雀が啼く、蛙が鳴く、蕗の薹、水音、家があると、鶏の声、牛の声、子供の声。
生きてゐる幸福、歩いてゐる悦楽。
野糞、いや山糞をいう〳〵として垂れた!
うまい水が流れ落ちてゐる、もちろん腹いつぱい飲んだ。
人間には逢はない、ことし最初の蝶に逢つた。
長い峠であつたが、よい峠であつた。
知らぬ間に野矢駅を通り越して中村へ下つてゐた、グリコ噛み噛み、さらに三里歩いて、暮れかゝる頃やうやく森町に着いた、運よくM屋といふ宿を教へられて泊めて貰ふ、ほどよい宿であつた。
防空訓練で電燈は消されてしまつたので、一杯ひつかけてそのまゝ寝た、夜中に、トタン屋根をたゝく雨音に旅愁を感じた。
里程の主観的意味(徒歩の苦楽)。
客観的には一里でも主観的に二里の場合もある。
里程観念。
小学生が比較的に正しい。
日出生台とはよい地名。
田舎の人は総じて深切だけれど、時として不深切きはまることもある、今日はその不深切のために半里ばかり歩き損した。
その山近く住んでゐて、その山の名を知らない、のんきといふか、まぬけといはうか!
老梅が咲き満ちてゐた、しづかに、しづかに、野の聖のやうに(廿二日)。
追憶の道。──
人間のいやしさ、きたなさを痛切に感じる、肉体的に、生理的に人間の臭さがたへきれないやうにさへ!
水分峠
枯山あまねく日のあたる鶯うたふ
のどけさ仔牛が乳房をはなれない
はれ〴〵山はむつちりよこたはる
ふと見れば足にふまれてつく〳〵し
蕗のとうかたまつて山ふところに
由布岳
ふりかへる山のすがたの見えたり見えなかつたり
水分峠
誰にも逢はない山のてふてふ
てふてふうらうらどこまでついてくる
春もすつかり鶯うまくなつた
芽ぶく山をまへにどつしりすわる
散る花や咲く花やぽか〳〵歩く
水音の里ちかくなつてきた
こぼれ菜の花もをさないおもひで
芽ぶく木木の濡れてます〳〵うつくしく
旅のわびしさのトタン屋根たたく雨
三月廿三日 雨──曇──雨、日田。
早起、小雨ニなつたので早々立つ。
八時半の列車で日田へ(今日は歩きたかつたのが雨具の用意がないので、仕方がない)。
天ヶ瀬には一夜泊りたかつた。
日田はいつ来てもよい土地だが、いつもよくないのが私の財布だ! 駅で暫らく雨宿りして、それから街を通りぬけて、四年ぶりに馬酔木居を訪れた、なつかしい。
散歩したり、鮠を釣つたり、のんびり遊ぶ、なか〳〵寒い、汽車にもスチーム、駅にもストーヴ、火鉢にも燠がたやされない。
日田地方は酒の安いところだつた、いひかへると、量りがよいのである、一杯ひつかけてもコツプでなく枡だ、いはゆる枡飲である。
日田は木どころ、製材所が多い、なか〳〵大規模だ、産物ハ焼杉下駄、名物ハ鮎、うまいなうるかは。
飲食店、宿屋料理屋が多い。
水郷日田、夏から秋が殊に日田!
日田のよいところは──私にうれしいのは──水がゆたかで酒がやすい、たへがたいのは風のふくこと。
霧はわるくないが(底霧とよばれてゐる)。
父と子、子と父。──
三月廿四日 曇──晴、日田。
どうもお天気がはつきりしない、現代の社会そのものゝやうに!
アンゴラ兎。
淡窓先生墓所、長生園。
頼山陽先生淹留の故宅、如斯亭。
ふぐ料理とはどうかな、川魚料理とはよいが。
ある家の白木蓮まんかい。
川、川、水、水、酒、酒。
日の隈公園、月の隈公園、星の隈公園。
銭渕橋、河原のブールバール。
製材所風景。
馬酔木居
いつぽんかたすみのみつまたのはな
川風さむみおちつかないてふてふ
水車はまはる泣くやうな声だして
日田
水じゆうわうに柳は芽ぶく
山ざくら人がのぼつて折つてゐる
藪の椿の赤くもあるか
みちがわかれるさくらさく猿田彦
花ぐもりいういうとして一機また一機
三月廿五日 曇──晴、二日市。
馬酔木君、さよなら、さよなら、馬酔木君。
酒の一日だつた、健よ、ありがたう。
バスで来て武蔵温泉のH屋ニ泊る、くだらない。
三月廿六日 晴、晴、博多。
朝湯朝酒のゼイタクさだ、すみません。
十時の汽車で博多へ、百道のTさんを訪ねたが不在、そしてやうやく老司の少年院を尋ねあてたが、三洞さんは博多の事務所にゐられるといふ、引き返して事務所へ、さらに仮寓へまで連れて行つて貰つて、三年ぶりに懐かしい温容に接することが出来た、坊ちやん二人を連れての下宿生活である。
夕飯は家庭食堂で、それから暫らく散歩して帰宿。
三洞老! ふさはしい呼び方だ。
三洞仮寓
うらは椿の落ちたまま
むつかしい因数分解の、赤い何の芽
三月廿七日 曇、微雨、博多。
父と子とのほゝゑましい情景、涙ぐましいほどである。
悪筆をふりまはした。
午後、同道して酒壺洞君を訪ふ、何年ぶりの対談だらうか、君も老けたなと思つた。
酒をよばれることばかりだ、朝も酒、夕も酒、昨日も酒、今日も酒、私もたうとう酒に労れて来た!
今夜も泊めて貰ふ。
飯屋のおかみさんとルンペン(博多にて)
大衆酒場の女給さん
お大師様とルンペン(途上)
仏様と泥坊
三月廿八日 晴、福岡。
ありがたう三洞さん、さよなら坊ちやん。
福岡市街をムチヤクチヤに歩きまはる、やたらに酒を呷る。……
夕方、ふたゝびTさんを訪問、折よく逢へて、お互にのんべいだから気軽く酔うて、ぐつたり寝入つた。
Tさんが奥さんに投げるオイコラはよくない。
三月廿九日 快晴、神湊。
バスで神の湊へ。──
俊和尚はエライ和尚でないだけ好きな和尚だ、清丸さんもよい坊さんになつてゐる、奥さんはもとより温良な家庭婦人だ、おいしいチリを御馳走して下さる、うどんもおいしかつた。
三月三十日 八幡。
朝から飲む、ルンペン画家ともいふべきHさんに紹介される、五十未だ家をなさぬ彼は国際的放浪者らしい面影もある、彼は描き私は書いた、そして二人共に飲んだ。
午後出立、俊和尚の温情をしみ〴〵感じた、バスで赤間へ、汽車で折尾まで、電車で八幡へ、Iさんの茶の間へころげこむと、また酒だ。
夜は鏡子居徃訪、おとなしく帰つておとなしく寝た。
三月卅一日 晴──曇、八幡。
青城子居に寄る、不在、待つ。
青君はよき友である、ありがたい友である、私はしば〳〵叱られる、怒られる、そして愛せられる。……
私ばかりが飲み、君は盛んに食べる。
青城子君よ、子を叱るなかれ、どなつてはいけません。
改作追加
春は驢馬にまたがつてどちらまで
八幡製鉄所風景
すくすく煙突みんな煙を吐いて
鉱滓うつくしくも空へ水へ流れたり
四月一日 晴、門司、下関。
雲平さんを訪ねた、不在、奥さんも留守、待つてゐる気も出なくて、電車で門司へ急いだ、局に黎々火君を訪ねる、久しぶりだ、今日は四月馬鹿なので来訪者の呼出しも嘘だと思つたので長く待たせてすまなかつたといふ、昼食を共にし、後刻駅の待合室で会ふことを約して別れた、私はそれから銀行に岔水君を訪ねた、都合の悪いことには宿直で、しかも年度がはりで多忙で、とても時間の余裕もからだのひまもない、暮れ方に黎君と同道して訪問して寸時話して、私たち二人は海峡を渡つた、そして下関で握鮨など食べて、さようなら、黎君、早く結婚したまへ!
昨日今日何だかいら〳〵してたまらない、一人ぶら〳〵歩いては飲み、飲んでは歩いた、酔つぱらつた、腹がいつぱいになつて財布がからつぽになつた、たうとう待合室のベンチに寝込んでしまつた!
四月二日 日本晴、埴生。
ふと眼が覚める、何だ、駅に寝てゐる、五時の汽車の出るところだ、帰るだけの乗車賃は持つてゐたけれど、まてよ、これから徒歩で帰らう! 黎君が知つたら、だからゆふべ早くお帰りなさいといつたではありませんかと笑ふだらう。
唐戸で十銭の朝飯を詰め込み、ゆつくりとしかもがつしりと歩き出した。──
しんじつうらゝかな日である、日本晴といはうか、節句晴といはうか(今日は旧の三月二日)。
長府の海岸は汐干狩の人々で賑うてゐた、誰もがぢつとしてはゐられないうらゝかさである、ノンキな旅人の私もその群にまじつて暫く遊んだ。
埴生で泊つた、まだ早いけれど、歩けば歩けたが(行程七里)。
合宿はうるさい事が多い、といつても詮のない事だけれど。
長府海岸
旅人わたしもしばしいつしよに貝を掘る
波音のうららかな草がよい寝床
松原伐りひらき新らしい仕事が始まる
四月三日 曇、時々降る、帰庵。
出来るだけ早々出立、急がず休まずで歩く。
春が駈足でやつて来たので、至るところ桜がちらりほらり咲き出してゐる、山桜は散つてしまつて若葉のかゞやかしいところもある、田舎の豪家の邸内いつぱいに咲き充ちた桜の大木二三樹はほんたうに美しかつた、まつたく日本的であつた、家も花も人も。
厚東川べりの桜並木も美しかつた。
春の日曜の祭日、絶好の行楽日だけれど、お天気が思はしくない、何だか気の毒に思ふ、嘆くなかれ、むろん悔いるなかれ、人々具足、ほどよく楽しめ。
いつしか十里近く歩きおほせて、五時すぎには、三週間ぶりで帰庵した。
四月三日 曇。
──夕方帰庵したけれど、濡れた着物を乾かす火もなく、空いた腹を充たす米もない、そして無一文、無一物だ、──暮羊君を徃訪する、私を待つてゐてくれたが今日は実家へ行きました、と奥さんが残念さうにいはれる、詮方なく街へ出てW店に腰をおろす、酒を借り飯をよばれ、はては泊めて貰つた!
四月四日 曇、霰が降つた、晴。
W店夫妻の好意に甘えすぎたやうではあるが、酔うてそのまゝ寝てしまつたことは仕方がないが、酔中彷徨してY店へ飛び込んだことはよくなかつた、いや悪かつた、悪かつた、恥づかしい、恥づかしい。
夜は暮羊居に招待されて、ニコ〳〵御馳走になつた。
四月五日 六日 七日 八日
労れて、ごろ〳〵ぐう〳〵眠りつゞけたことである、いはゞ旅づかれといふものであらうか、私の場合では、人づかれ酒づかれといふべきであらう。
自分の意志で、生れ出ることは出来ないけれど、死んでしまうことは自分の自由だ、こゝに人間の悲喜劇が展開される。
四月九日 晴。
絶食──不眠──憂欝、そして。──
あはたゞしい春だ、もう桜が散り柿が芽ぶく。
四月十日 曇。
或る店で白米少々借ることが出来た、感謝合掌。
飯! 飯!
H君と某君と同道して来訪、対談しばらく。
午後、めづらしくも敬君来庵、つゞいて樹明君も来庵、うれしい酒盛が始まつた、酔うたよ、酔うたよ、愉快だ、愉快だ。
ほんにぐつすり睡つた、ふと眼覚めると雨の音、まことによい夜明であつた。
──私はいよ〳〵重大決意をした、──いさぎよく其中庵を解消して、再び行乞流転の旅人となるのである。
絶食と断食
┌客観的事実
└主観的意義
四月十一日 曇──晴。
藪鶯がしきりに啼く、だん〳〵晴れてくる。
ふと鏡をのぞいて、自分の老顔に驚いた!
身辺整理。
シヤガが咲きだした、仏前に供へる、木の芽、草の芽。
秋田蕗が若葉をかゞやかにひろげだした。
──ここに改めて、W店夫妻にお礼を申上げる。
四月十二日 曇。
待つてゐるのに屑屋さんが来てくれない、違約といふことは、いかなる場合にも不快だ。
身辺整理をつゞける。──
いよ〳〵覚悟をきめた、私は其中庵を解消して遠い旅に出かけよう、背水の陣をしくのだ、捨身の構へだ、行乞山頭火でないとほんたうの句が出来ない、俳人山頭火になりきれない。
春寒うつくしい月夜であつた。
其中庵解消の記
行方も知らぬ旅の路かな
濁れるもの、滞れるもの
四月十三日 晴。
なか〳〵寒いことである。
旅日記整理。
戦争は必然の事象とは考へるけれど、何といつても戦争は嫌だと思ふ。
めづらしく畑仕事。
四月十四日 曇。
うつくしい朝焼、あまり生甲斐もない生活。
Kからうれしい返事が来た、この親にしてこの子があるとは!
街へ出かける、NにWにKに払ふ。
何日ぶりかで理髪入浴、それからゆつくり飲みだしたが、一本が二本になり二本が三本になつて、四本五本六本、そしてたうとう脱線してしまつた、今年最初の脱線だ、すまなかつた、すまなかつた、慚愧々々(私としては脱線だけれど、世間人としてはさしたことではない)。
人間臭
四月十五日 晴曇不明。──
昨日の延長だ、まだピリオドがうてない、飲みあるく、──夜やうやく帰庵。
四月十六日 晴──曇。
庵中独臥、絶食、読書。
また山口の聯隊から出征するので、歓呼の声が渦巻く、その声が身心に沁み入る。……
四月十七日 曇、微雨。
謹慎、落ちついて雨を聴く。
四月十八日 曇。
午後は晴れたので山口へ行く、本を米に代へて戻る。
四日ぶりに御飯を食べることが出来た!
ほどよく飲んで食べて、つゝましく考へしづかに読み、一生懸命に作る、──それが何よりの楽しみであらう。
四月十九日 晴──曇。
春蝉が鳴きだした、夏ちかい温かさだ。
流し元の草の中に、捨芹が青々と花をつけてゐる、生きるものゝ生きる力のめざましさ、省みて恥ぢ入つた。
蕗を煮て食べる、うまい、ちしやに味噌をつけて食べる、うまい、何もかもうまいうまい!
夕方、野を逍遙して、野の花を観賞した、すみれ、きんぽうげ、菜の花、紫雲英、とり〴〵にうつくしい、青草もうつくしい、虫もうつくしい。
今日はSを訪ねたいと思つたが、銭がないので止めた、骨肉といふものは離れてゐるとなつかしく逢へば嫌になる、そこに人生のなやみがある。……
寝苦しく悪夢に襲はれどほしだ。
四月廿日 曇。
小鳥の歌のほがらかさ、椿もをはりのうつくしさ。
──自覚自信──自粛自戒。──
今日は陰暦の三月廿日、明日へかけて秋穂地方は賑ふだらう、私も巡拝するつもりだつたが、先日の浪費で、その余裕をなくしてしまつた。
散歩、農学校に寄つて新聞を読ませて貰ふ、新聞を読まない日は飯を食べないやうな感じ。
近来痛切に自然の理法といふものを感じる、生々流転の相を観じる。……
石油が切れたので宵から寝る、暗闇で句を作つたり直したりしてゐるうちに、いつとなく睡つた、そして夢中なほ作つたり直したりした。
無理をするな、素直であれ。──
すべてがこの語句に尽きる、この心がまへさへ失はなければ、人は人として十分に生きてゆける。
四月廿一日 曇。
沈欝。──
散歩、SのSを訪ねる、逢うてよかつたと思ふ、やつぱり血は水よりも濃い! 暮れて戻る、途中またW店に寄つて飲む、酔ひしれてF屋に出かけ、たうとうそこに寝込んでしまつた!
四月廿二日 曇──晴。
酒、酒、酒、馬鹿、馬鹿、馬鹿。
W店にもN店にもT店にもすまないすまない。
動けなくなつてW店のお世話になる。
四月廿三日 晴。
朝、さうらうとして帰庵。
Sから貰うた餅を焼いては食べる。
夕方、暮羊君来庵、酒と下物とを持つて。
ユーモアのある句へ、それから
ナンセンスの句へ(無為無作の句といつてもよからう)。
四月廿四日 曇。
こん〳〵として眠る。
四月廿五日 曇。
憂欝たへがたいところへ敬君来庵、しばらく話したので多少落ちつけた、ありがたう。
米と油とを買ふ。
古新聞古雑誌ボロをあつめて屑屋に売り払つたら、何と壱円十九銭出来た、これで今月はどうかなるだらう、ありがたしありがたし!
夕方、暮羊居徃訪、一杯よばれる、散歩してさらに一杯、これで今夜はよく睡れさうなものだが。
四月廿六日 晴──曇。
昨夜よく睡れなかつたので身心が重苦しい。
身辺整理する、心内を清掃しよう。
動か静か、──死か生か、──ああ私は迷ふ。
──一切放下着、──無為無念であれ。──
今日も若葉のむかうから、歓呼の歌万歳の声が聞える、私は思はず正坐して合掌した、そして心の奥ふかく、ほんたうにすみませんと叫んだ。……
午後散歩、少し買物をして帰る途上でゆくりなく樹明君に出くわした、ああ樹明君、私はあなたに対して自分の忘恩背徳を恥ぢ入る外はありません。
めづらしい、ほんにめづらしい晩酌! といつても目刺をさかなに焼酎をちびりちびりすゝつたのに過ぎないが、それでもそのおかげでよく睡れた。
四月廿七日 曇──雨。
水のにじむやうに哀愁が身ぬちをめぐる、泣きたいやうな、そして泣けさうもない気持である。
しづかな雨、憂欝な私、──ふさぎの虫めがあばれようとする。
柿の若葉のさわやかさ、要若葉のあざやかさ。
午後、暮羊君来談。
今夜は不眠で苦しんだ、詮方なく読書。
旅は私にあつては生活の切札だ!
四月廿八日 曇──晴。
──やうやくにして落ちついたことは落ちついたが、身心の不調はいかんともなしがたい。──
散歩、山は野は春たけなはである、山にはつゝじが咲きみだれ、燕は季節の鳥としてひらり〳〵、嘉川まで行つた、Iさんに逢ふ、米一升三十四銭、麦一升十九銭。
蕗を剥ぎつゝ思ひ出が尽きない。
畑を耕す、茄子胡瓜を植ゑつけて置かう、誰のために!
春寒、ランプもつけないで宵から寝た。……
あるときは生きむとおもひあるときは
死なむとおもふおのれをむちうつ
日本が──世界も──さうであるやうに、私自身も転換期に立つてゐる、生死に直面してゐる、最後のあがきだ、私は迷うてゐる、どうすればよいのか、どうしなければならないのか。……
四月廿九日 晴。
天長節、日本晴だ、めでたし。
とにかく落ちついた、めでたし、めでたし。
アメリカからありがたいたより、Kさんありがたう。
眼白がすばらしくうまいうたをうたうてくれる。
つゝましく、ひたすらつゝましく。
麦飯をいたゞく、ありがたし、ありがたし。
散歩、棕梠の花房が私を少年時代にひきもどした。
ふくろうが近寄つて来て、すぐそこの木で啼く、私はしんみり読み書きする。
四月卅日 晴。
転一歩。──
好晴、好季節、幸にして海のあなたからの好意で湯田へ行くことが出来た、久しぶりにのんびり熱い湯に浸つた、そしてぞんぶんに飲んだ(正味一升は飲んだらしい!)、くたびれてS屋に泊つた。
まことによい一日一夜であつた、Kさんにあつくお礼を申上げる。──
幸福とは幸福と思ふことそのこと、不幸とは不幸と思ふことそのことであるともいへるが、幸福と思はせ、不幸と思はせるものは何か、さういふ心そのものは何であるか。
無我無心の境地
「万葉集から」
初心者のために
○自由律俳句入門
俳句性研究として
○句作雑感
山頭火通信
○其中消息
乞食井月
事実と真実──
ことしもけふぎりの米五升
自然と芸術──
誰を待つとてゆふべは萩のしきりにこぼれ
「孤寒抄」 ┌銃後風景
│逍遙遊
「天青地白」 └旅で拾ふ
私に出来る事はたつた二つしかない、
酒を飲むこと、句を作ること、
飲んでは苦しみ、苦しんでは飲む、食ふや食はずで
句作する、まことに阿呆らしさのかぎりだ、
業、業、業。
遺骨を迎へて
ぽろぽろ流れる汗が白い函に
馬も召されておぢいさんおばあさん
底本:「山頭火全集 第八巻」春陽堂書店
1987(昭和62)年7月25日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※複数行にかかる中括弧には、けい線素片をあてました。
入力:小林繁雄
校正:仙酔ゑびす
2010年4月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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