無名會の一夕
石川啄木



 この頃の短い小説には、よく、若い人達の自由な集會あつまり──文學者とか、新聞雜誌の記者とか、會社員とか、畫家とか、乃至は貧乏華族の息子とか、芝居好の金持の若旦那とか──各自めい〳〵新しい時代の空氣を人先に吸つてゐると思ふ種々いろ〳〵の人が、時々日を期して寄つて、勝手な話をする會の事を書いたのがある。さういふのを讀む毎に、私は「ああ、此處にも我々のやうな情ない仲間がゐる。」と思はずにはゐられない。さうして、其作者の筆が少しでもさうした集會あつまりの有樣を、興味か同情かで誇張して書いてあれば、私は又、自分を愍むと同じ愍みを以て其人を見るか、でなければあの魚の目よりも冷たい目を持つた、諷刺家の一人ではあるまいかと疑はずにはゐられない。〔以下斷絶〕

底本:「啄木全集 第十卷」岩波書店

   1961(昭和36)年810日新装第1刷発行

入力:蒋龍

校正:阿部哲也

2012年415日作成

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