原子爆弾 即興ニスギズ
原民喜




夏の野に幻の破片きらめけり


短夜を〓(「血+卜」)れし山河叫び合ふ


炎の樹雷雨の空に舞ひ上る


日の暑さ死臭に満てる百日紅


重傷者来て飲む清水生温く


梯子にゐる屍もあり雲の峰


水をのみ死にゆく少女蝉の声


人の肩に爪立てて死す夏の月


魂呆けて川にかがめり月見草


廃虚すぎて蜻蛉の群を眺めやる

底本:「日本の原爆文学1」ほるぷ出版

   1983(昭和58)年81日初版第1刷発行

初出:「杞憂句抄その二」として「原民喜全集第一巻」芳賀書店に初出。全23句。

   1965(昭和40)年

   ただし、「日の暑さ死臭に満てる百日紅」「廃虚すぎて蜻蛉の群を眺めやる」の句については、「俳句研究」昭和2610月号に「杞憂句抄」として掲載された。

※文中の「血+卜」の文字は、「定本原民喜全集III」(青土社 1978年1130日発行)および「原民喜全集第一巻」(芳賀書店 初版発行 昭和40930日)では「倒」と表記されている。読みは「たお」か。

入力:ジェラスガイ

校正:砂場清隆

2002年720日作成

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