広東葱
国枝史郎
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夕飯の時刻になったので新井君と自分とは家を出た。そして自分の行きつけの──と云っても二三回行っただけの──黄華軒という支那料理店へ夕飯を食いに這入って行った。
「日本人は一人も居ないんだね」
新井君は不意にこう云ったが、自分にはその意味が解らなかった。
「日本人が一人も居ないとは?」
「料理人もボーイも支那人だね……屹度主人も支那人だろう」
「何故?」と自分は訊き返えした。
「特別に料理が旨いからさ……純粋の支那人の店でなければ、こう旨くは料理は出来ないものさ」
「新聞記者だけのことはあるね……君のいう通り此処の主人は、六十位の支那人だよ」
その時ボーイが近寄って来て、別の料理を置いて行った。
「先刻のボーイとは違うのだね」
新井君はこう云って其ボーイを探るような眼をして見詰めるので、自分はいくらか可笑くなった。
「先刻のボーイは醜男だが、今のボーイは可愛いだろう。あれだけの美貌を持ったボーイは、日本人にも一寸無いよ」
自分は壁に貼ってある梅蘭芳の石版画とボーイとを見比らべてこう云った。
ボーイは自分達がそんな噂をして居ようとは夢にも知らず、正面の壁に背を持たせかけ、水煙草を一心に吸っていた。
その時ゾロゾロと戸口から、どうやら支那の留学生らしい、一群が室の中へ這入って来た。
「留学生だね、彼奴等は?」と、新井君は云って自分を見たが、
「君は東京へ来たばかりだから、そんな噂は聞かないだろうが、何んでも宗社党の或る親王の、姫君が日本へ来たとか云うので、宗社党に属している留学生達が、窃かに何か企んでいるそうだ」
「何んな事だね?」
「それは是れから探ぐるのだが……オヤ! オヤ! こいつは広東葱だ!」こう云って新井君は皿の中から葱の一片をつまみ上げた。私も自分の皿を見た。料理に混って沢山の葱が細かく刻まれて這入っていた。
「広東葱って何のこと?」
「広東葱は広東葱さ……ほんとにこの店は感心だ。本場の物を使っている。しかし一体広東葱を何処に保存しているのだろう。それとも支那から取り寄せるのかな。それとも作ってあるのかしら?」などと云って新井君はその葱を珍らしそうに見廻わしていた。
翌日自分が二階にいると、新井君がフラリと這入って来た。
「例の支那料理へ行こうじゃ無いか。今日は一つ僕が御馳走しよう」
「大分お気に召した様子だね」自分は笑って立ち上った。
「本場の料理を食わせるからね」
「広東葱を食わせるからね」茶化すように自分はこう云った。
自分達が戸を開けて這入って行くと、ボーイが支那流に笑い乍ら、ペコペコ二三度頭を下げた。
「例のボーイがいないじゃ無いか」新井君は室を見廻わし乍ら不平相にブツブツ呟いた。
美少年のボーイはいなかった。
私達は随分皿を代えた。
「オヤオヤ美少年が出て来たよ」
実際新井君が云う通り料理場の口からそのボーイが水煙草を吸い乍ら出て来たが、自分達には目もくれず正面の壁へ寄りかかった。そうして誰かを待っているように戸口ばかりに眼をやった。
戸口が開いてドヤドヤと留学生達が這入って来た。例のボーイはさも嬉しそうに、彼等の群へ飛んで行き、その中でも特に人目に付く、立派の顔立の留学生と忙わしそうに燥焦いで喋舌り出した。
「素敵な指環を穿めているな」新井君が頤で指差すので、その留学生の手を見ると、左の薬指にダイヤ入りの素晴しい、指環を穿めていた。
「千円以上のものだね」自分は窃っと囁いた。
「あの光沢を見るがいい。三千円以上の科物だ」新井君も窃っと囁いた。
外へ出てからも新井君は何か熱心に考えていたが、
「どうも変だよ」と呟いた。
「何が変だい?」と訊き返すと、それには一向返事もせず尚何か熱心に考えているので、自分はフッと考え付き、
「それでは例の事件と、あの支那料理の連中とが関係があるとでも云うのかい?」
「それは明言出来ないがね」新井君は微妙の微笑をした。
二三日経つと新井君から次のような手紙が舞い込んだ。
「あの支那料理には美人がいるね。しかも素敵な支那美人が。君はそのことを知ってるかね? 恐らく君は知らないだろう。支那の美人と美少年! ほんとにあの店はいい店だ! だから今夜また行こうじゃ無いか。誘いに行くから待っていたまえよ」
夜になると新井君がやって来た。
「ほんとに支那美人がいるのかい?」早速自分は訊いて見た。
「たしかに僕は見たんだよ……昨夜一人で行ったのさ。その時僕は料理場を通って便所へ行ったと思い給え。そうすると料理場の横手の方に小座敷が一つあったんだ。その小座敷にいたんだよ。しかも老人と一緒にね。老人はあすこの主人だろう。女は妾だと睨んだが、この眼力は狂うまいよ」
同じ机へ陣取った。
「オイ」と新井君は美少年では無いもう一人の方のボーイを呼んだ「この家に別嬪が居るだろう? 素敵な支那の美人がさ」
「別嬪?」とボーイは不思議そうに「いいえ、別嬪、居りましえん」とアクセントの違った日本語で云った。
「何んの居ないことがあるものか。確に僕は見たんだよ」
するとボーイはもう一人の美少年のボーイと眼を見合わせたが、
「いいえ、別嬪さん、居りましえん」と同じ返事を繰り返した。
その晩に限って新井君は容易に帰えろうとしなかった。午前一時の時計が鳴ると、ボーイ達は店を片付け出した。その時ダイヤの指環を穿めた例の留学生が這入って来た。と直ぐ例の美少年ボーイは留学生の傍へ飛んで行き、暫く何か囁くと留学生は深く頷きチラリと料理場を盗み見た後、再び戸口から立ち去った。
「勘定!」と突然新井君が云った。美しいボーイが飛んで来て「四円五十銭」と計算した。
ボーイが勘定を受取って帳場の方へ行きかけるのを不意に新井君は呼び止めた。そうして五十銭の銀貨を握り、
「チップだ、遣ろう!」と云い乍ら膝の辺を眼がけて投げつけた。ボーイは吃驚して腰を曲げ危く銀貨を受け取った。
「さあ帰えろう」と新井君は満足そうに微笑した。
翌日自分は床の中で朝刊を開らいて読んでいた。社会面にこういう記事があった。
□葱畑の殺人
──支那留学生の惨死──
「今十五日午前四時頃、高田雑司ヶ谷裏手の葱畑にて、学生風の男倒れ居たるを折柄朝出の農夫発見! 附近の交番に届け出でたる為め騒ぎとなり、直ちに検事の出張を乞い、検視の結果他殺と解り、事件は一層重大となりしが、此処に最も不思議なるは被害者の体の何処にも怪我らしき箇所の無きことなり、但し顔面には苦痛を止どめ、四辺の地面は踏み荒らされ、格闘をなしたる形跡あり。
探索の結果被害者は×××大学に在学中の支那留学生黄燕逸(二十七歳)と知れ、直ちに夫れ夫れ知己友人に被害の事情を知らせたるが、該被害者は支那に於ても有数の富豪の子息にて、平常金使い荒き由なれば、物取り強盗の所為なるやも知れず……」
云々というような文句であった。
「留学生とは可哀そうだ」自分は単にこう思っただけで深い疑問も起さなかった。
夕方新井君がやって来た。
「今日の朝刊を見たろうね?」新井君は直ぐに私に云った。
「見たよ」と自分は云いながら、変にむずかしい表情をしている新井君の顔を見守った。
「葱畑の殺人を読んだかね?」
「支那の留学生が殺された記事?」
「ウン」と新井君は頷いて「広東葱の畑でね」
「え?」と自分は眼を見張った。
「広東葱の畑の中で支那の留学生は殺されたのさ」
新井君は険しく眉をひそめ、
「その殺された留学生は、例の支那料理でよく見かけるダイヤモンドの指環の主だ」
「君は死骸を見たのかい」
「勿論現場へ駈けつけたのさ……僕は社会部記者だからね……ところで屹度取られたのだろうダイヤの指環は穿めていなかった」
自分は暫く黙っていたが、
「君はこの事件を何う思うね? 物取りの所為だと思うかね?」
「さあ」と新井君は考え乍ら「兎に角僕は事件の裏に女が居るような気持がするよ」
「恋の遺恨とでも言うのかな」
自分は何気なく斯う云った。
被害者が富豪の子息であり、支那の留学生というところから、事件は重大となったと見え、その日の夕刊の社会面は殆んどその記事で埋められていた。何処にも傷の無いということが、疑問の焦点であるらしく、と云って毒殺でも無いということを警察医は新聞で述べていた。
多くのそれらの記事の中特に自分の眼を引いたのは、その学生が殺された夜、その学生は夜遅く──午前三時を廻った頃、支那料理店の門口から、こっそり忍んで出た姿を見かけた者があったということで、そしてその問題の支那料理店は黄華軒だということである。
「ホー」と自分は呟いた。「それじゃ屹度あの学生は一旦あすこから立ち去った後、再びあすこへ行ったんだな。そうしてあすこから帰えり道で惨殺されたというものだ」
自分は前夜その学生が、夜遅く黄華軒へやって来て美しいボーイと囁いた後、立帰ったことを思い出した。
「つまりその後で又来たんだ」
自分はなんだか此事件に関係があるような気持がして、翌日の朝刊が待遠しかった。
翌日の朝刊の社会面は半ばこの事件でふさがれていた。
「おや!」と自分は声をあげた。
被害者が指に穿めていたダイヤモンドの高価の指環を、黄華軒の美しい例のボーイがちゃんとその指に穿めて居たので嫌疑者としてそのボーイが拘引されたという記事が、一号活字で記るされていた。
「まさか美少年のあのボーイが殺人罪は犯すまいが、それにしても指環を穿めていた以上何か関係はあるのだろう」自分はなんだかそのボーイが可哀そうに思われてならなかった。昼過ぎに新井君がやって来た。
「これから曲馬を見に行こう」
「曲馬ってどこの曲馬をだい?」
「勿論浅草の曲馬をだが……君が厭なら一人で行くよ」
「久々で浅草へ行こうかな」
そこで二人は家を出た。
中店を一寸右へ這入ると其処にバラックの小屋があった。
自分達は其処へ這入って行った。曲馬と八木節と軽業と、次々に行う曲芸を二人は笑い乍ら見ていたが、俄に新井君は舌打ちをして、
「面白くないから出ようじゃ無いか」と先へ立って小屋の外へ出た。
活動小屋のある方角へ自分達はブラブラ歩いて行った。
「花屋敷へ這入ってみようじゃないか」
そう云って新井君は這入って行った。二人は園内を彷徨った。
「蛇って奴は無気味だね」
蛇の檻の中をすかして見て新井君は忌わしそうに呟いた。
大きい檻の横の方に小さい檻が出来ていたが中には蛇がいなかった。
「その檻には蛇が居ないようだね」新井君はその前で立ち止まった。
自分達は尚もブラツイた。
「君ちょっと待っていてくれたまえよ。僕ちょっと事務所へ行って来るからね」
新井君は自分を置き去りにして事務所の方へ走って行った。
間もなく新井君は帰って来たがその顔はニコニコ笑っていた。
「そろそろ家へ帰えろうかね」
で又新井君が先に立ち花屋敷を脱けて外へ出た。そして電車へ飛び乗った。
「何のために事務所へ行ったんだい?」
「一寸ばかり聞くことがあったからさ」
神楽坂で自分達は電車を降りた。カフェーオザワでコーヒーを飲みその辺を一廻りひやかしてから別かれるために立ち止まった。
その時穢い鳥打を冠った一人の男がすれ違った。
「君々!」
と新井君は呼び止め乍らその男の方へ飛んで行った。そうして殆ど十分ほど何か二人で囁いていたが、急にその男は驚いたように、新井君の顔を見守った。それから丁寧に頭を下げ、元来た方へ帰って行った。
「一体あれは何者だね?」
「僕と親しい刑事だよ」
新井君は心地よげに笑ったが、
「見給え明日あのボーイは屹度放免されるから……それでは此処で失敬しよう……また明日の晩訪ねて行くよ」
立ち去る新井君を見送り乍ら自分は茫然立っていた。
果して翌日の新聞を見ると黄華軒のボーイは証拠不充分で放免されたと書いてあった。
「ほんとに新井君の云った通りだ」
自分は変な気持がした。早く新井君がやって来て、どうしてボーイが放免されたか、その理由を説明して欲しかった。自分はそこでこの怪しい殺人事件が起ってからの目星い事柄を数えて見た。
黄華軒の美少年──料理の中の広東葱──宗社党の陰謀の噂──素晴らしいダイヤの指環を穿めた風采の立派な支那学生──座敷にいたという支那美人──美少年ボーイとダイヤを穿めた支那の学生が夜遅く親しそうに囁いていたかと思うと、そのまま学生が立ち帰った事──その夜起った殺人事件──死骸に傷の無かった事──二人で浅草へ行った事──新井君が蛇のいない檻の前で暫く佇で居った事──それから事務所へ行った事──道で刑事に逢った事──新井君がボーイの放免を前夜に既に予言した事──果して今日予言通りボーイが放免された事──そのボーイは被害者が生きている時絶えず穿めていたダイヤの指環を自分の指に穿めていた事──。
事柄はざっとこれだけである。
「誰が一体犯人だろう?」
どう考えても解らなかった。自分は待遠しい心持で新井君の来るのを待っていた。
夜遅く新井君は訪ねて来た。
「僕の予言は当ったね」
新井君はすぐに自慢した。
「どうして君は知ったんだい? ボーイが放免されるってことを?」
「知っているわけさ、この僕自身が、ボーイを放免したんだもの……がまあそんな事はどうでもいいよ。そんな事より素晴らしいものを今夜は君に見せてやろう」
「何んだい夫れは」と訊き返えすと、
「即ち宗社党の留学生達が、ある建物へ集って、密議をしているその有様を、君に見せようと思うのさ」
「いよいよこいつは面白くなった」
「それでは一緒に出かけよう」
自分達は深夜の町へ出た。
扨この物語の読者諸君! 此処までお読みになった時、この犯罪の犯人が何者であるかということを、既に御存じかも知れません、私は決してコナン・ドイルや又はモーリス・ルブランや乃至ガストン・ルルウのような探偵小説の大家では無くほんの駈け出し故、自分では隠しているつもりでも何時の間にか事件の底を割り、もうその犯人の何者であるかを露見させているかもしれませんが併し或はそうで無く、読者諸君を五里霧中に迷わせて居るかもしれません。そうなら大変結構です。それは兎に角この物語もそろそろ終りに近かづきました。そして作者たるこの私も少々トリックに倦きました。でもう思い切ってザックバランにぶちまけて了うことに致しましょう。とは云っても物には順序があります。それで私も順序を追い成る可く簡単に明確に事件の真相と犯人とを説明することに致しましょう。
自分は新井君の後について、夜の巷をさまよいました。そうして郊外の一箇所に、夜の暗黒に包まれて、ある一軒の洋館に近づいた。窓が一つだけ開いていて燈影が洩れている窓を通して内部を見ると沢山の人間が居るようだ、そして誰かが大きい声で演説をしているようすだった。「向うに見える洋館がその本部だよ」新井君が自分に囁くので自分は尚も熱心にその洋館を見ていた。その内に自分は何気なく新井君を振り向いて見ると不思議にも新井君は洋館とは反対の方面を見つめているではないか。で自分も其方を見ると、遥か向うの暗黒の中に、提燈の灯が一つ燃えていた。「ハテナ」自分がそう思った瞬間に、新井君が其方へ走り出はじめた。自分もわけがわからず走って行った。その灯に近かづいて見ると警官が五六人と、背広を着た、四五人の人がそこに居た。その中の二人が可成り大きい檻を支えて居た。「やあ!」と新井君が声をかけると警官も背広服も一様に丁寧に頭を下げながら、「お蔭さまで」と云っていた。新井君が自分にすすめるので自分は檻の中を覗くと檻の中には草色をした二尺ほどの蛇が首を上げ真珠のような丸い眼でキラキラ自分を睨みました。
「広東蛇だよ、あの蛇は」その一行が立ち去るのを見送り乍ら新井君は満足そうに言った。そして足許を指さして、「見給え此の辺一面を、広東葱の畑だよ」「それが何うしたというのだね?」自分は愚かにも尋ねた。
「広東蛇は毒蛇だよ」「そして非常に広東葱の味と匂を好むのさ」「それが何うしたというのだね?」「花屋敷の檻を逃げ出した広東蛇が此の畑の葱の間に隠れていたのを、夜遅く媾曳から帰って来た可哀そうな支那の留学生が知らずに其奴を踏んだので、噛みつかれて死んだというものさ」「それじゃ蛇が犯人だね」「そうだ」と新井君は頷きながら「この犯罪の裏面には女がいるということを、曾て君に僕は云った筈だ。果して女がついていた。黄華軒にいた美少年ボーイ、あれは実際は女なのだ。あすこの主人の妾なのだ。そして被害者の留学生は、あの支那美人の情夫なのさ」「美少年ボーイが女だって?」「君は不思議に思うだろうがあれは実際女だよ。この前僕は支那料理店に、支那美人がいると云ったろう。その時僕の見た支那美人とあのボーイとが似ているのでハテナと僕は思ったのさ。で夫れをはっきり確かめるため、この前あすこへ行った時、君も充分知っている通り五十銭銀貨を投げてやった。そうするとボーイは周章しく両脚をキッチリ膝へ着け、前方へ曲げて受け取った、で僕は女だと確信した」自分はすっかり感心して新井君を改めて見詰めました。「推理ついでにこの犯罪を如何に我輩が解剖したかそいつを皆な説明しよう──あの犯罪が知れると同時に僕は現場へ駈けつけて行った。そうして四辺を見廻わすと広東葱の畑じゃ無いか。オヤ! と自分は思ったね。同時に僕は料理の中に広東葱の這入っていたことを電光のように思い出した。と又例の美少年ボーイが、女だということに思いついた。広東葱を好むという広東蛇のことを思い出した。で僕は花屋敷へ行ったのさ。そうして事務所の所員から、檻の中へ入れて置いた広東蛇が十日ほど前に逃げ出したという、話を聞いたのだ──ね、もう是で解ったろう!」「しかしどうしてあのボーイが指環を穿めていたのだろう?」「媾曳をした時貰ったのさ」「それでこの事件は解ったが、だがしかし例の陰謀事件とは、どういう関係があるのだろう?」「なんにも関係はありゃしないよ」「それでは今夜なぜ僕に、あんなことを君は云ったんだい? 陰謀事件に関係のある面白い事を見せるなんて」
そうすると新井君は笑いました。
「そう言って君を瞞したのさ。君はトリックにかかったのだよ。僕のトリックに旨々とね」
「暗の中に立っていた洋館は、あれは一体何なのかね?」
「あれはあの辺の教会だよ!」
底本:「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」作品社
2005(平成17)年9月15日第1刷発行
底本の親本:「講談雑誌」
1921(大正10)年9月
初出:「講談雑誌」
1921(大正10)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:阿和泉拓
2019年11月2日作成
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