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「新青年」一九二七年三月
国枝史郎



 作者は大方「型」を持っています。その「型」の中で微動しながら創作をつづけて行くときはまずあぶな気がありません。一通りのものは作れます。そいつを何時迄いつまでもつづけていると作が生気を失います。「型」を思い切って破壊するか、乃至ないしは「型」の中に居り乍ら深く下へ掘り下げるか、どっちかにしなければなりますまい。小酒井不木氏の「疑問の黒枠」は一方「型」を深く彫り下げ一方「型」を破ろうとして居ります。こういう意味に於て問題にされましょう。平林初之輔氏の「山吹町の殺人」は同氏従来のどの作品よりも手際よくまとまっては居りますが、しかし平林初之輔氏程の人を、わずらわすき作品とは思われません。谷譲次氏の「肖像画」は──五十枚ぐらいで切り上げたらうにか目鼻の付きそうな作を、百枚二百枚と書くことによって、目鼻の付かないシロモノとする、そういう優秀で無い作家への、よいミセシメになる好個の読物です。加之しかのみならずその裏には人情観察があります。

底本:「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」作品社

   2005(平成17)年915日第1刷発行

底本の親本:「新青年」

   1927(昭和2)年3

初出:「新青年」

   1927(昭和2)年3

入力:門田裕志

校正:Juki

2014年410日作成

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