思ったままを!
国枝史郎



 文学成長の道程の中に外国文学模倣時代という時期がある。この時期はけ早く通過すべきである。日本探偵小説の如何に長くこの時期にウロツイていることか。笑うきである。

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 僕には相当探偵小説家の友人がある。彼等の話を聞いていると軽蔑したくなる。「こういうトリックは如何さまのもので」「面白うござんすな、すぐにお書きなさい」「こういう奇抜な筋があるので」「こりゃ素晴らしい、急いでお書きなさい」「こういう怪奇はどうでしょう?」「ウーン、とても素晴らしいものだ。君々いそいで書きたまえよ」こんな話ばかりを交わせている。しかも彼等の輩は、それらのトリックそれらの筋それらの怪奇を書くことによって、何を人生に寄与しようとするのか、そういうことは考えてもいない。

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 人生の再現、人生の創造──いずれも文学の目的である。探偵小説は、どっちかといえば、人生の創造という言葉にあてはめてよい文学である。──人生の創造ということは、実人生と遊離している世界を創って、読者をおどかすことでは無い。人生を向上さす可くユートピアを創るいいなのである。日本の探偵小説家の輩はそういうことを知らない。

底本:「国枝史郎探偵小説全集 全一巻」作品社

   2005(平成17)年915日第1刷発行

底本の親本:「猟奇」

   1929(昭和4)年1

初出:「猟奇」

   1929(昭和4)年1

入力:門田裕志

校正:Juki

2013年115日作成

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