『三四郎』予告
夏目漱石



 田舎ゐなかの高等学校を卒業して東京の大学に這入はいつた三四郎が新しい空気に触れる、さうして同輩だの先輩だの若い女だのに接触して色々に動いて来る、手間てまこの空気のうちに是等これらの人間を放すだけである、あとは人間が勝手に泳いで、おのづか波瀾はらんが出来るだらうと思ふ、さうかうしてゐるうちに読者も作者もこの空気にかぶれて是等これらの人間を知る様になる事と信ずる、もしかぶれ甲斐がひのしない空気で、知りばえのしない人間であつたら御互おたがひに不運とあきらめるより仕方がない、たゞ尋常である、摩訶まか不思議は書けない。

底本:「漱石全集 第十六巻」岩波書店

   1995(平成7)年419日発行

初出:「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」

   1908(明治41)年819

※初出時、「東京朝日新聞」には「新作小説予告」「(九月一日より掲載)」「三四郎」として発表された。「大阪朝日新聞」においても同様だったが、掲載日の予告はなかった。

※底本のテキストは、初出(「東京朝日新聞」)による。

※作品の表題「『三四郎』予告」は、底本編集部による。

※底本には、初出のルビを「適宜削除した。」旨の記述がある。

入力:砂場清隆

校正:小林繁雄

2003年331日作成

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