電信柱と黒雲
夢野久作


 電信柱が寒い風にあたってピーピーと泣いておりました。

 黒い雲が来て、

「何を泣いているのだえ」

「寒いからさ。お前のような雲が来るから寒いのだ。こちらへ来ないでくれ」

「おれが悪いのじゃない。風がわるいのだ。おれは風につれられて来るのだから」

「おれは黒いものが大嫌いだ。この間も鴉がとまって、アホーアホーとおれを笑った」

「それじゃこれはどうだ」

 と言ううちに白い雪をチラチラと降らしました。

 電柱はだまってしまいました。

底本:「夢野久作全集7」三一書房

   1970(昭和45)年131日第1版第1刷発行

   1992(平成4)年229日第1版第12刷発行

初出:「九州日報」

   1924(大正13)年27

※底本の解題によれば、初出時の署名は「香倶土三鳥」です。

入力:川山隆

校正:土屋隆

2007年721日作成

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