働く町
夢野久作



 ある国で第一番の上手というお医者さんが、ある町に招かれて来ました。お医者さんは町に着くと直ぐ、

「ここの人はどうして一日を過ごしていますか」

 と尋ねました。

 町の人はこう答えました。

「別に変った生活もしませんが、私達は日の出前に起床し、日が暮れて床に就き、明るいうちはせっせと働いて日を送っています。又ひもじい時はお腹を一パイにするだけ御飯を食べます」

 と答えました。

 お医者さんは、

「それでは私はここにおっても仕事がありません。そんな生活くらしをする人達はいつも健全たっしゃで医者の厄介になる事がありませんから」

 と言ってさっさとここを立ち去りました。

底本:「夢野久作全集7」三一書房

   1970(昭和45)年131日第1版第1刷発行

   1992(平成4)年229日第1版第12刷発行

初出:「九州日報」

   1922(大正11)年1225

入力:川山隆

校正:土屋隆

2007年721日作成

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