秋晴れの日
牧野信一
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彼は、飲酒があまり体質に適してゐないためか、毎朝うがひをする時に、腹の中から多量の酒臭い不快な水を吐き出した。前には、それは時々のことだつたがこの頃では、これが定めとなつてしまつた。そして、これも前には稀であつたが、この吐く水がなくなると、一層激しく、胸や腹が、空々しく、苦しく、ゲクゲクと鳴つて、それから苦く黄色い胃液を吐き出した。
大体彼は、生来健康な質だつたから、どんな医学的の知識にも欠けてゐた。だから、初めはこれに随分驚かされて、洗面の後暫くの間は何時も精神的な鬱陶しさを強ひられるのが常だつたが、それも今ではすつかり慣れてしまつて、どうかした調子に中途で収まりさうになると、故意に喉を鳴らして技巧的に吐き出すこともあつた。
左様して彼は、毎朝日課のやうに、何となく洞ろな感じに苦しい、酷く騒々しい手水を使ふやうになつてゐた。
彼の四歳になる長男は、毎朝その傍で父の異様な苦悶を見物した。そして、稍ともすればゲーゲーと喉を鳴して、その時彼がするやうに両手を糸に吊された亀の子のやうにひらひらさせて、その彼の苦悶の真似をした。──どんな種類の苦しみに出遇つても、まつたく堪え性のない彼は、その通りに毎朝、縁側の端の、洗面が終れば直ぐに取り片づけてしまふ流しにのめつて、いつも変りなくそんな格好をするのが習慣の一つになつてゐた。
「そんなに苦しいのなら止せば好いのに、お酒なんて、それほど好きでもなさゝうなのに──」
時にはそんな風に傍から哀れまれると、何時も彼は、同じ言葉で毒々しく反対するのが常だつたが、この頃では、思はず鹿爪らしい顔をして、
「さうだなア?」などゝ沁々とした嘆声を洩しながら、わけもない退屈をかこつた。──(意久地がないんだ、肉体ばかりでなく……心が。)──「何か素晴しく激しい運動をしようと思つてゐるんだ、夜になると同時に、ぐつたりとして死んだやうに眠れるほど。酒で眠るのはもう飽きた。」
「運動ツて、何?」
「…………」
水を吐き出す時は、傍で察する程苦しくはなく、たゞその勢ひに伴れて、肩を怒らせたり落したり、手首をひらひらさせたりするが、いよいよ水が枯れて、胃液がほとばしり出る時になると、まさしく格好だけは「七転八倒の苦しみ」であつた。彼は、
「ゲーーツ! ゲーーツ!」と、板のやうに胴体を平らにして、腸を絞つて喉を鳴した。
「ウツ、ウツ、ウ……あゝ、何といふ苦しいことだらう。」
思はず彼は、そんな叫びを洩して、蛙のやうにぺつたりと五指を拡げ伸した手の平でピシヤ〳〵と縁側を叩いた。また、
「ウーーツ! ウーーツ!」と、今にも息が絶え入りさうなうめき声を発しながら、ぐらぐらする流しの両端に噛りついて、千仞の谷底をのぞく臆病者のやうに上体を前方にのめり出した。また、
「ギヤツ、ギヤツ、ギヤツ!」といふ風な声を出して、徐ろに胸を撫で降したりするのであつた。──そして、少し落ち着くと、どつかりと其処に胡坐して勢急な呼吸が静まるのを、静かに空を見あげて待つた。
彼は、まだ飲酒が癖になつてゐるとは思はなかつた。だが彼は、己れの経験を歪んだ観察眼で、悉く卑下して一笑に附したがる程の悪癖を持つてゐた。
「晩酌と称する奴だけはやりたくないもんだね、あいつを始めたひにはもう爺いの部類に属してしまふんだからね。」などと彼は、変に若々しがつて、粗野な感傷に陥つたりしたこともあつた。
「もう始めたつて好い年輩だぜ、爺臭い親爺のくせに何時まで厭味たらしい……」
あべこべに友達から皮肉を浴せられて彼は、ハツと顔を赧くすることがあつた。実際では、まつたくだらしのない飲酒家になり、あの様に見苦しい醜態を日々演じてゐるのだ、たゞ何れの点から見ても所謂酒客の性がないばかりであつた。
「未だ?」
あまり彼が、ながく空を見あげて休息してゐると内から定つて促した。
「未だ。」と、彼は答へるのであつた。云ふまでもなく瞑想や感傷で空を見あげてゐるのではない、地におとすと折角静まつた胸が、またムカムカしてくる怖れがあるからなのだ。
だが、これは病気と呼ぶほどのものではないだけに形ばかりが飽くまでも物々しいばかりで、そして、どうしても斯んなに仰山な格好をせずには居られないので、吾知らず七転八倒の振舞ひをした揚句、後は達磨のやうに眼を凝し腕を組んで静止してゐるのであるが、この苦しみの内容には、中途に、大きな鈍い、安易の穴が、楽に筒抜けてゐるのだ。
「で、なかつたら堪るものか……」
彼は、無意味な不平でも洩すやうに独りでそんなことを呟いた。──「可笑しな苦しみだな、何といふ間の抜けた、ぼんくらな苦悶であることか! 毎日、毎日、毎日!」
彼が、そのやうに毎朝うがひの折に発する醜い叫声は騒々しく四隣に鳴り渡つた。
夏になつてゐた。間もなく何かの病気にでもなりはしまいか? と、疑れる程彼の日々の叫声は激しくなつてゐた。
朝寝坊の彼が、うがひを始める時刻には、七月初旬の青磁色に晴れ渡つた空からは水々しい光りが、さんさんと降り灑いでゐた。──どうして、あんな痩ツぽちの体から、あんなに騒々しく野蛮な音声が出るものか? と、屡々傍の者は、半ばからかふやうに疑ひの眼を見張つた。
「表現派の芝居の、喧嘩の科白のやうだ。」
彼の知り合ひのハイカラ中学生のNは、得意気にそんな形容を放つて、彼の顔を顰めさせた。だが彼は、ふざけてそんな時の癖で何かの声色でも真似るらしく重々しい調子で、
「水の精ニツケルマンの独り言のやうだらう──ブレツケツケツ、ケツクス!」
「そんなものは知らないよ。」
「では──」と、彼は云つた。「チエツ! チエツ!」
「…………」
「いや、疳癪を起したんぢやないがね……」
「起したつて怖くはないよ。ブレツケツケツ、何とか位ゐ!」
「チヨツ!」と、彼は舌を鳴した。
「出たら目のジヤツズ・バンド。」
「チヨツ、チヨツ、馬鹿ア」
彼は、変な形容でからかはれるのが厭だ、といふ風にふざけた苦い顔をして、胸をさすりながら
「あゝ、これで一先づ清々としたんだ。」と云つた。そして、しさいらしく首をかしげて
「チヨツ、チヨツ! チヨツといふ小言を、英語では、Tut, Tut, Tut! と書くんだつたかね、たしか。……フツ、ものは聞きやうで何とでも云へるものさ、何とでも喩へられるものか……」などゝ呟いた。
「何アんだ! そんな変梃なことを考へてゐたのか、つまらない。僕ア、また……」
「そこでN、一寸軽い疳癪を起してさ、チヨツ! と、舌を鳴らして見ないか。Tut! とも響くかどうか、或ひはまた、チヨツ! や Tut! よりも一層適切な感投詞を俺が発見するかも知れない、俺は、しさいな研究をして見たいんだから──」
「馬鹿にしてゐらア!」
Nは、生意気な中学生らしくして歯切れよく笑つた。──「清々としたんなら、早く御飯を済してしまひなさいよ。」
彼は、徐ろに胸を拡げて深呼吸をした。
Nは、さつきから彼の傍に腰を降ろして、その洗面の終るのを待つてゐたのだ。
「何分位ゐそれをやらないと落ち着かないのさ?」と、Nは、何となくワザとらしく見えてならない彼の深呼吸を懸念した。
「さうだなア? どうしても二十分位ゐは続けなければなるまい。」
深呼吸などは、滅多に行つたことはないにもかゝはらず彼は、そんなことを云つた。
「あゝ、面倒臭いなア!」
Nは、さう云つて口笛を吹きながら、爪先きで地面を蹴つてゐた。彼は、
深呼吸といふやつは、これア仲々具合が好さゝうだな、これから毎朝行つてやらうかな! などゝ思ひながら、空を仰いで深重にフーフーと呼吸してゐた。
「今日こそは、泳ぎに行つて見ようね。僕は、そのつもりなんだぜ……あゝ、猛烈に暑くなつてきたぞ。」
「いざとなると俺は、厭になるんでね。」
「運動しないと毒だぜ。」
「生意気なことを云ふねえ。」
彼は、さう云つてNの首たまを握つた。Nは、一寸赧くなつて舌を出した。彼は、手持ちぶさたを紛らすためにNの喉をギユツと絞めたりした。Nは、彼の腕を頤でおしかへしながら、
「割合に力があるね。」と云つた。
「そりやアあるともさ──ボキシングが如何だ斯うだなんて講釈するが、俺だつてNなんてには負けやしないぞ。」
「チエツ……」と、Nは笑つて相手にしなかつた。そして、Nは、突然、更に別な調子の笑ひ声を新しく挙げて、
「アツ! とう〳〵チエツ! と云つてしまつた。しまつたな。」
「アツと、俺もうつかりしてゐた。」などゝ彼は叫んだ。そして、二人はさもさも可笑しさうに声を合せてゲラゲラと笑つた。
「未だなの?」
内から彼の細君が、声をかけた。「もう十一時になるわよ。」
「ぢや僕も一処に飯を食はう。僕は、もうお午だ。──そして、ほんとうに今日こそは、直ぐに泳ぎに行かうよ。」
「あんな溜り水みたいなところで泳ぐのは僕は、実は御免なんだよ。」
「また、負け惜しみが始まつた。」
「ほんたうよ。」と、細君もNに合せて、Nとはまつたく別な立場で憎くさうに云つた。「溜り水だ、なんて偉さうなことを云つてるわ。浅いところがあるんで、恰度好いんぢやないの、あなたはよ。……ヲダハラの海なんかでは、何ンにも泳げないのよ、そこで育つたくせにして。」
何時か、そこの海辺で彼が海水浴をしてゐるところを見たんだが、普段達人のやうなことばかり吹聴してゐるので、どんなに巧いのかと思つてゐたところが、その彼の臆病な格好と云つたらなかつた、少しも波の向ふには泳ぎ出ることは出来ないで、波元のところでちよこ〳〵と行つたり来たりしてゐたところは、恰で波と鬼ごつこをしてゐるやうだつた、あれぢや、泳ぎに誘はれても一処に行くのは厭がるのも無理はあるまい──。
彼女は、そんなやうなことを云ひ続けようとしたが、いつかもほんの冗談のつもりでそんなことを云つたら、そのために何も彼を軽蔑する程の気なんてある筈もなかつたのに、如何いふわけか彼は、まるで全人格を軽蔑されでもしたかのやうにムツとした表情をするので、今も一寸その気はひを感じたので危ふく彼女は、云はうとした言葉を呑み込んでしまつた。それに彼は、彼女の口から、悪意、好意の別なく、どんな種類のことであらうとも他の人に向つて彼女が、彼の性質や生活に関する片鱗を伝へでもすると、その瞬間まで笑つてゐた彼の顔つきが忽ちエンマに変ることを彼女は屡々経験した。機嫌を損じるばかりでなく稍ともすれば、傍観者の有無にかゝはらず、突然拳骨を飛ばして唖然とさせられることがあつた。……尤も彼女の経験に依ると、傍観者の種類によつて彼の態度にはいくつか種別があるらしかつた。どうも、彼女には、彼の疳癪なるものが一種のイカモノに思はれてならなかつた、一見熱情的にも見ゆるが、ひるがへつて思ふと極めて非熱情的な表裏が彼の動作を裏づけてゐるらしく、さう思ふと却つて此方がジリ〳〵する程な厭悪を覚えずには居られなかつた。で彼女は、単純な彼の喜怒の感情を洞察しきつたつもりで、多くの場合己れを圧へたが、時とすると彼は、折角彼女が我慢してゐれば、
「何となく、その洒々としてゐる顔が気に喰はない。」とか、
「それで俺を馬鹿にしてゐるんだらう。」などゝ、コセコセした邪推を回らせて、因循な肚を立てることすらあつた。
「何とか云へ。」
云へば一層肚たつくせに、そんな風に詰めよせることすらあつた。そんな場合には彼女は、斯んなことを想つて辛抱した。──例へば、頭の格好が(頭には限らない。)普通でない、誰が見ても、直ぐに目だつ程な可笑しいキンチヤク頭であるとか、少くとも当人の前ではそれに関する話は遠慮しなければならない、当人もそれを非常に苦にしてゐるが、絶対的のことだから仕方がない、それ程目だつて普通でない格好だとする、その男は、若し細君がどんな場合にも頭の格好についての話をすると、それだけには大変敏感に己れを感じて、突然、怖ろしく不気嫌になる──さういふ種類の、気の毒な滑稽感を抱いて我慢した。それに類する、哀れむべき不具な一個が彼の性質の何処かに一つ凸出してゐるに相違ない──そんな想像を回らせてゞもゐないと彼女は、我慢することが出来なかつた。
「余外なことを云ふなよ、出しやばり!」
彼女が、思つた通り彼は、憤つた口の利き方をした。──Nは、一寸困つて、
「夏、ヲダハラへは帰らないの?」と彼女に訊ねた。
「どうするんだらう。」
彼女は、厭に気むづかしさうな振る舞ひをする彼に、ヒステリツクな反抗を覚えてゐた。……(何でもないときに、折角皆なが、おだやかな心になつてゐるときに、直ぐに何とか難癖をつけたがる、……あれが嫌ひだ、ほんたうに嫌ひだ。)と思ふと、此方こそ無暗に肚がたつて堪らなかつた。そして自分に対するいろいろな彼の不信実を探し索めたりしはじめた。
彼は、ふくれた顔をして凝つと膝を抱へて空を見あげてゐた。その様子を眺めると、
「チエツ!」と舌を鳴して彼女は、ほき出したい程だつた。──だが彼女は、いつもの癖で冷かに相手の姿を眺めはじめると、溶けるやうに憤懣が消えて、ふつと笑ひ出しさうにもなつた。彼女には、さういふ不遜な癖があつた。自分の悪口を云つたり、自分が一生懸命でした仕事に難癖をつけたり、此方が何の邪念もない言葉を皮肉にからかはれたり、愚劣な冷罵を与へたり、軽蔑的な批評を浴せたりする人に出遇ふと(それらのことを彼女は、彼とその母から最も多く経験した。)涙の出る程口惜しいのであるが、それを凝ツと怺へて、それらの人の姿を静かに好意なく想ひ浮べてゐると、とんでもないところに心が走つて、と何かしらその人の異常な個所を発見する──あの人は、ものを云ふ毎に歯ぐきが全部露はれて、それが紫色だ、とか、あの人は、自分では大変な美人のつもりでゐるが、いつも眼眦に目ヤニがたまつてゐる、トラホームぢやないのかしら? それに始終反ツ歯をかくさうとして、モグモグと唇ばかりを動かせたり、用もないのに手の甲で口をおさへる、とか、あの人の旦那さんは、うちに向つて自分のことをあんな風に冷笑したさうだが、あの人の頭は、テツペンが槌で叩いたやうに平らで、加けに後頭は金槌のやうに突き出てゐる、あんな格好の頭から正当な批評が出る筈はない、それにしてもあの人は帽子を買ふときには随分苦労することだらうな! とか、またあの人は、とても酷いワキガで、いつか自分が初めて対談した時に、あまりのことに如何しても我慢しきれず思はず横を向いて、それとなく袖の下に鼻を覆つたところが、自分のそれをあの人は承知してゐて且つ恥ぢてゐると見えて、直ぐに此方の動作を悟つて、それ以来何となくよそ〳〵しくなつたかと思つたら、成る程ね、蔭ではそんなに自分の悪口を云つてゐるのかな、へえ……などゝいふ風に、途方もない人身評に想ひをはせてゐると、いつの間にか、身を粉にしても反向つてやりたかつた程の敵意が、奇妙に何処かへ飛んで行つてしまふのであつた。
現に彼女は、彼の母と同居してゐた頃、母から意地悪るをされて大変口惜しがつて、それがもとで蔭で彼と争ひをした時などは、終ひに、
「何アんだ、ワキガ!」と、彼の母のことを冷罵し返して、勝手に噴き出したりしたことがあつた。だが彼女は、相手が多少でも自分に好意を見せると、空々しい程の好意の返礼を胸に抱いて凡てを美化して考へる、人懐こい弱味を持つてゐた。
その種の彼女の独り想ひや独言癖は、彼と同居するやうになつて以来、何も彼が彼女のことに取り合はないためか、時々奇妙な意地悪るを施されるのに怖れをなしてか、一層内にひどくなつてゐた。彼は、夜など彼女と襖を隔てた部屋に坐して、縫物などをしてゐる彼女が何か口のうちでぶつぶつと小言を呟いでゐるのを聞いて、わけもなく竦然とするやうなことに屡々出遇つた。
「煩いなア!」
そんな時彼は、大声を挙げて怒鳴つた。と、彼女も吃驚りしたやうに、
「アラ、聞えたの?」と、云つてうつかりしてゐる時があつた。そして、また暫くたつと忘れたやうに、ブツブツと始まつた。
「頼りない夫を持つてゐるために、浅はかにもあんな孤独病に陥つたのかな……」
或る時には彼女が、彼に関する不遜な独言を呟いてゐるのにも気づかず彼は、そんな風に聖者ぶつた感想を浮べたりした。
「…………」
彼は、気を取りなした彼女が、何か話しかけたが相変らず黙つて反ツ方を睨めてゐた。変な奴だなア!
彼女は、その様子を眺めてそんな滑稽感を覚えて清々としてしまつた。そして、Nを相手に嬉々と話をはじめた。
「N──ちやんは、何処かへ行くの?」
「来月になつたら、友達と一緒に房州の方へ行く筈になつてゐる。」
「ほう、羨ましいわねえ! あんたは、泳ぎが随分巧いんだつてね。」
「あゝ。」
「教はりたいわ。」
「八月中あつちへ行つてゐるから、その間に来ない。」と、Nは誘つた。
「行きたいなア!」
彼女は、そつと呟いた。
彼女の想像以上に彼は、三十歳の男としては全く不釣り合ひな生真面目に、常々から泳ぎの出来ないことを苦にしてゐるのであつた。海辺に育つたゝめか彼は、幼少の頃から、それが不得意であるといふことに、己れさへ可笑しくなる程に熱心な、情けない恥を持つてゐた。どうしても泳ぐ術の出来ない水夫の煩悶にも似てゐた。彼が、嘗て書いたことのある或る小説は、そんな憧れの心のみで全篇が埋つてゐるものさへあつた。
技が拙いのも勿論だつたが彼は、バカに海に臆病だつた。そこは荒海で、未熟な水泳者には危険な海だつた。彼は、家人から海へ行くことを厳禁されてゐた。でも土地の中学に入つた初めは、家人にかくれて時々海へ出かけた。一年生時分には、普通より体が小さくて心もそれに順当してゐたから、渚だけで勇ましく砂遊びをしたり、手足を底につけて泳ぎの真似をしてゐるだけでも相当に愉快で、恥も覚えなかつたのであるが、翌年になるともう誘はれても行く気がしなくなつた。友達は、忽ちのうちに上達して、俺はもう汽船の着く処までは平気で往復出来るやうになつた、などゝ楽し気に語り合つては、秘かに彼を憂鬱にさせた。誘はれると彼は、今日は頭が痛いとか、用事があるからとかとあらぬ口実を造つて断つた。毎年夏になると、学校では水泳練習団を組織して遠方の危険のない海辺に合宿する定めがあつた。彼は、毎年それに加つて出かけたが、いつも途中で、合宿生活が厭になつたり、あまり熱心な練習生達に反感を持つたりして、一週間も我慢せずに帰宅して了ふのであつた。帰れば、吾家はやはり海辺にあるのだ。そして友達は、皆な海辺の選手で、遊び仲間などは一人もなくて彼は、因循に夏を過すのが常だつた。彼は、口惜しさのあまり座敷に転がつて、教則本を頼りに水泳の練習をしたり、庭先きの小さな池にタラヒを浮べて憧れを満足させた。たしか、四年生の夏までタラヒ舟に乗つた。……あの青海原を悠々と泳げ廻れたらどんなに愉快なことだらう! 来年こそは屹度上達して、彼等の仲間に加はらなければ措かないぞ! 斯んなことを熱心に想つた。そのために彼は、或る年の冬などは、家人に病気と偽つて、伊豆の方の温泉で、游泳が出来る程の浴場のある処に滞在したこともあつた。勿論、悉く水泡に帰したことは云ふまでもない。
毎年、夏になると同じ憧れを繰り反し、同じ悲しみを味ひ、その熱心さには何の変ることもなく、いつか彼は三十歳の夏を迎へてゐたのである。
「A──にゐた時分……」と、彼女は、以前彼の故郷でない辺鄙な海村に彼と陋居した頃の夏の海の話に移らうとしたが、そこではまた彼のことを挟まなければならないことに気づいて、一寸どぎまぎしながら、一言、
「あそこの海は、おだやかで好かつたわよ。」などゝ話を反らせて、其処に居た頃も彼は、口では水泳に関した様々なことを吹聴しながら、一遍も人の見るところでは泳がなかつたことなどを思ひ出した。
「そりやア、房州の方が好いさ。」
Nが、彼女にさう云つた時彼は、突然妙に熱心な眼を向けて、
「ほんたうに好いか、遠浅か?」と訊ねた。
「うむ。」
「何れ位ゐ?」
「さア、それは解らないが。」
「可成り遠くの方まで行つても丈が立つか?」
「立つよ。」と、Nは訝し気に点頭いた。
「賑やかゝ?」
「そりやア、もう!」
「行きたいなア!」
彼女は、頓狂に独言した。
「ほんたうにお出でよ、男で泳げない奴なんては来てゐないが、女は随分多いからね。」
Nが、あまり無造作に云ひ放つので彼女は、ヒヤリとしたが、また擽られるやうな切なさも覚えた。──「あたしだつて、一町位ゐなら泳げるのよ。」
「それぢやア、もう……。行かうよ。」
「でも──」と、彼女は云ひかけて、いつの間にか横を向いて、まつたく別のことでも考へてゐるといふ風に白々しくムツとしてゐる彼を、眼でNに示した。
「嫌ひなの?」と、Nは囁いた。飽くまでも彼の心境に気づかないNの朗らかな調子が更に彼女の苦笑を強めた。何と答へて好いか? 彼女は、わからなかつた。
暫くたつて彼は、
「俺は、山が好きだ。独りで何処かの山へ行かうかな。」と、はつきり呟いてゐた。その態度は、彼女の徒らな臆惻を不安にも、裏切つた程の自信に充ちてゐた。
洗面の流しの下が、ぬかるみになるので彼は、家主のところから鍬をかりて来て棄て水のハケ道をつくつてゐた。
「何アんだ、斯んなところか。」
安堵して叫んだ時の溜息に似た声を背後に感じたので彼が腰を伸して振り反つて見ると、藤井の弟の良介が笑ひながら立つてゐた。藤井とは彼の故郷の古い友達である。
彼は、嬉しさうに良介を眺めて、暫く会はなかつた友達が偶然出遇つた時に取り交す親し気な素振りを現した。そんな時には彼等は、割合にあたり前の口を利いた、それより他に手だてを知らないといふ風に──。良介と会つたのは二年越しだつた。
「休み?」
「この頃は、お盆の休みなんてありやアしないよ。」
良介は、気拙さうに笑つた。良介は横浜で何某の店に務めてゐた。
「兄貴にこの間会つたよ。」
「さう。──」
「この頃ヲダハラへ帰るか?」
「さつぱり。──」
それから一過間ばかり経つて彼の弟の中学三年生の次郎が、日本アルプス登山の帰りがけだと云つて、登山袋を背おひ、登山杖を曳いて来た。国分寺で、友達と別れて此方に立ち寄つたのだと云つた。
「兄さんとの約束なんて待つてゐたひには、つまり行き損ふといふことなんだからね。」
「さう、さう、そんな約束もしたことがあつたつけね。」と、彼女は云つた。
「五六年も前から……」
次郎は、袋の中から絵葉書などを取り出して僅かな見聞を披瀝した。
彼は、そんな話よりも、宿屋に泊る場合には、どんな風にして入つて行くのか? いきなりツカツカと入つて行つて物をも云はずに玄関に突ツ立てば、それでもう泊り客といふことは通ずるのか? そんな風にしても向方でウロンな顔つきをしはしまいか? 泊り方には上等・下等といふ風な区別があるのか? 若しも下等に泊ると間の悪い思ひをするんぢやないか、いくら学生でも二三人伴れでは? 宿料はどんな風にして支払つたのか? 友達同志だと反つて各々の勘定をいちいち各々で支払ふのは変に具合が悪いだらう? 誰かゞ纏めて支払つて後から当人に返済するやうにしたのか? それも何だかお互ひにキマリが悪いだらう? それともお前達はそんなことは平気なのか? 宿屋に着いて飯を食つてしまふと直ぐに寝てしまふのか? ではどんな話を主にするのか? 女中に用事を命ずる場合だつて吾家のそれとは余程要領が違ふだらう? お前なんかでもテイツプをやつたりするのか? などゝ云ふ質問を発した。次郎は、悉く一笑に附するばかりだつたが彼は、未だ一度も旅に出て自ら先に立つて旅宿をとつた経験がなかつたので、その中のいくつは好く訊いて置きたかつたのである。そして彼は、東京では、これも未だ単独では一度も遊里へ脚を向けたことがなく、近頃それを単独で行ふて見たい、と時々強く思ふので、つい此間今と同じやうな質問を熱心に或る友達に放つて、終ひには、ワザとらしい厭味な奴だ! などゝ云はれて、困つてしまつたことなどを思ひ出した。
また彼は、次郎に向つて、母から旅費を幾ら位ゐ貰つたのか? 若し、あまつてゐるなら少しでもいゝから置いて行かないか? などゝいふことを真面目に申し出て、次郎と彼女の顔を赧くさせ、ふと自分も赧くなつたりした。
「次郎が出かけてゐると、吾家では阿母さん独りぎりになるわけだね、この頃ぢア!」
「きまつてゐるぢやないか、さ!」
「この頃ぢやア、お前が友達と一処になんて泊りがけで、ヨウ、旅になんか出かけても、いや、好く出かけさせるんだアなア! 阿母さんは、平気なのけえ? ……俺アの時分ぢや、自分がいくら出かけべえと思つても、とても友達同志の仲間にヤア入れさせなかつたもんだがよう?」と、彼は、今ではその辺でも廃れてゐる故郷の町に隣接する農村地方の野語を拙く真似て用ひた。彼は、酒に酔つてはゐなかつたのであるが、ふと母のことが口に出たら、何だか心に異様に重苦しく寂しい蟠りが生じて、自然な会話を放つことが六ツかしかつたのである。で、なければ陰鬱な顔をして不快な沈黙に陥入るより他はなかつた。己れの心の蟠りを相手に感ぜしめぬ為に、反動的にふざけ過ぎて反つて相手に不快を与へるやうな失敗を往々彼は、繰り反す癖があつたが、これもその種の戯れでもあり、また別に、何といふ原因もなく或る種の親しい友達の間などでもテレ臭さを紛らす為に、二人だけで通用する異様な会話を、初めは戯れに用ひたのが何時の間にか癖になつてしまつた如く、時々彼が弟に執る無意味な遊戯でゝもあつた。──彼等は、十四五年の間がある二人だけの兄弟だつた。
彼が、今もつて旅行癖のないのは、一つは幼時祖父母や母に依つて極めて保守的な教育を施された影響でゝもあるが、母が或る老境に入つたが為に次郎を急に放任しはじめたのだ──とは、彼には思へなかつた。毎年次郎は、母と二人で相当に長期の旅行をするのが常だつたが(彼にはそんな経験はなかつたが)、そして彼は当時の父のことに対照して母の佗しさに同情したのであるが、父の亡いこの頃はその種の感情が如何しても起らないのが彼は、悲しかつた。……次郎が留守だと思ふと彼は、嘗て経験したことのない種類の、まつたく彼にとつては新しく驚くべき種類の嫉妬を、母に感じた。──以下の数言は省く。
彼は、昔から一人旅を一度も行つたことがなく今に至つてゐる。幼時の稀の家族伴れの遠足は思ひ出してもさつぱり面白くなく、何の憧れも起さなかつたし、中学を出る頃には、出かけないことが身に沁みてゐたから、出かけることを面倒に思ひ始めてゐたし、間もなく近所の娘と恋を語り始めてゐたので、そんな間もなかつたのであるが、そして、その後も旅を想ふ余裕なく因循に暮して来たのであるが、この頃になつて、何となく一人の旅でもして見たい程な心に時々かられた。
「好く出かけさせたもんだなア?」
「だつてもう大丈夫ぢやないか。夏のうちには、また何処かへ出かけるつもりだよ。」と次郎は、誇り気に云ひ放つた。
「さうかのう!」
彼は、今までの続きの戯れの調子で次郎に点頭きを示したが、心は、母に想ひを馳せてゐて、同じ言葉で、母の態度を斯う肯定したのである。さうかのう! といふ言葉は、矢張り彼の地方の農民が、思ひ設けないことを聞いて驚嘆しながら沁々と感心する場合に放つ肯定の言葉で、何処にもアクセントがなくのうの余韻を非常に長く引きながら喉から胸へ流すのである。彼は、その通りに発音と身振りを摸して点頭いたのである。次郎達は、彼がいつまでもおどけた口調を用ひてゐるので、反つて冷汗を強ひられるやうに笑つた。
「次郎は、いつ帰るのよ、あしたか?」
「四五日、遊んで行かうかと思つてゐる。」
「早く帰れよ、えゝ、早く帰れよ、旅の帰りがけなどに寄り道をしてゐるなんといふことは好くないことだ。」
それ位ゐでも彼が修身的のことを云つたのは珍らしいことなので次郎は、彼が未だふざけてゐるのか? といふやうな顔をしてゐたが、幾度も彼は同じことを繰り反すので、終ひには妙に白けた笑ひを浮べてしまつた。
或る晩彼は、良介に、
「君の方も夏休みか?」と訊ねた。良介が来てからもう一ト月も過ぎた。
「止められてしまつたんだよ。」
良介は、頭を掻いて笑つた。それぎり彼等は、それに関する話は取り交さなかつた。いつの間にか良介にも、彼のあの朝の「ゲーゲー」が伝染してゐた。毎朝彼等は、交互に喧ましい手水を使つた。
「あゝ苦い〳〵。」
「向ひ側の家が空いたから、あつちへ移らうぢやないか、あそこなら外から見えないで好い、縁側の前が森であることも好い。」
「僕がひとつ、作りつけの流しを造つてやらう、土管をいけて水はけを作らうよ。」などゝ良介が云つた。
そつちへ移つてから彼等は、あまり酒を飲まなくなつた。良介は、流しを拵りかけて六ヶし過ぎると云つて中止した。
良介は、部屋の中に幾つも棚をつくつたり、運動と称して朝夕内外を猛烈な勢ひで掃除した。彼の家が、この頃のやうにキレイに片づき掃除の行きとゞいたのは初めてだつた。
房州のNからは時々誘ひの葉書が来た。また次郎からは、今度は妙義山へ行くつもりでゐるが一処に行かないかといふ手紙が来た。その時分からまた彼は、長夜の晩酌を始め、また朝のゲーゲーが激しくなつてゐた。
「ゲーが治つたら房州へ行く?」
彼がさう云つたことがあるのを思ひ出して彼女は、訊ねた。彼等は、彼のそれを「ゲー」と呼び慣れてゐた。
「あゝ、行くよ。」と、彼は答へた。そして彼は、済して「ゲーは、ジー・エイ・ワイだ、即ち Merry, lively, jolly, sportive」
「…………」
「うむ、さう云へはそのやうな名前の野球チームがある。」
「…………」
彼女と良介は、別の話をしてゐた。彼は、口のうちで、あの野球団に俺も入会しようかな? などゝ聞えぬ程度に呟いた。文人の間に組織されてゐる野球チームなのである。
Nは、とうに帰り、空がすつかり秋らしい色になつたが、運動と節酒をすれば直ぐに治る筈の彼の病気は、治つてゐなかつた。
もう新学期が始まつてゐたが土曜日になると次郎は、活動写真を見物に泊りがけでやつて来るのが常だつた。
「また、来たのか?」と彼は、ふざけるやうに云つて、戯れに似せた苦い顔をした。
酷い二日酔ひで彼は、縁先に胡坐したまゝ動くことも出来ない位ゐだつた。眼に触れる生物が悉く厭はしい──彼は、そんな風に己れの気持を誇張して、そのうちで自分が最も厭しいなどゝ思つた位ゐ気分が悪るかつた。
「少し散歩でもしていらつしやいよ、皆んなも出掛けたわよ。」
「厭だア。」と彼は、不機嫌に叫んだ。うつかり散歩にでも出ると、電車に突き当るか、川の中かへ転がり落ちでもしさうな気がした。また別に、いつか、夜大変に混んだ某電車が某停車場に入る手前のガードの上で故障が出来て停車すると、停車場に着いたのかと思つて一人が先に降りると、続いて何人か降り、八人目だかに漸く其処が歩廊ではなくて、降りた人々は悉く数丈下の道路に落ちて人事不省に陥つてゐたのが解つた、といふ話と、最近何かで見たのであるが、そんなことは千に一回の割合にもない珍らしいことださうだが、落下傘を背おつて航空機から飛び降りたところが、如何なるわけか傘が開かないで、その航空家は大怪我をした、といふ話を、別段斯んな場合に自分に何の関係もないのに、ふつと思ひ出すと彼は、水を浴せられたやうにゾツと五体が縮まる感に打たれた。
彼は、突然彼女をガミガミと勢急に罵り出した。
「手前えの口の利き方が気に喰はないんだ、チヨツ〳〵〳〵! 何んだ〳〵その坐り方は! カツ! もう菓子なんぞをパクパクと喰つてゐやアがる、喰ひしん棒! ……あゝ、堪らない〳〵、神経病になりさうだツ、煩さい〳〵、どこかへ行つてしまへツ! あゝ、気持が悪い、独りにならなければ、とても堪ツたもんぢやアない! この吐気だつて、何も酒ばかしのためでもないんぞウ! 神経病のはじめなんだア! それをヒト(余)の気分にもかまはず、傍の奴が……あゝ、もう口を利くのも面倒臭いツ! カツ!」
あまり突然の剣幕に怖れを抱いたのか? 彼女は、ギヨツとして頬をふくらませてゐたが、一言の言葉も発せずに間もなく涙ぐむと、口惜しさを凝つと肚に据ゑた素振りをして、やをらその場を去つた。
彼は、晴れた秋空を静かに見あげて、眩暈ひを覚えた。──でも、飽くまでも凝ツと身動きせずにゐると、そんな五体にも微かに、爽やかな秋の気を感じた。
「早くこの病ひを治してしまはう、そしてあのチームに入会して久し振りに花々しい腕を奮つて見よう、海も山も、思案中にお終ひになつてしまつたし、他に運動の方法もないし……今度こそは!」などゝ思ひながら、細い腕をぬツと突き出して、ギクギクと折つたり伸したりしてゐると、他合もなく鬱屈が溶けて興奮さへ覚えた。そして、空々しく口笛を吹き鳴した。
ふと彼が、見ると、前の木立の間で見えかくれに彼女が真正面に此方を睨んでゐた。彼は、ハツとして、六ヶ敷しい顔に戻り、ワザとそんな者は眼中にないといふ風に白々しく口笛を続けた。と彼女は、一層鬱憤を助長されたかの如くに、ツカツカと進み寄ると、一寸冷い笑ひを浮べて、低い垣根越しに斯んなことを云つた。──「あなたの顔は、何だか変だわね。眼や鼻や口の大きさが、額の大きさに釣り合つてゐないよ。もつと顔のまはりが大きくないと、眼や鼻や口ばかしが先に眼立つたのさ、顔が細長過ぎる! 変だ〳〵〳〵!」
そんな突拍子もないことを彼女は、云ひ終るがいなや、口上係りが立去るやうに遥か向方の木立の蔭へ消えて行つた。
「この頃、口返答をしなくなつたと思つたら、あいつ奴! 例の仇うちの方法を俺にも執つてゐたんだな! 肚の中で様々な人身攻撃を回らせては、秘かに溜飲を下げてゐやアがつたんだな。」
彼は、まさしく仇うちをされた者のやうに唇を噛んでさう呟いたが、また、それにしても、あいつは、もつと〳〵沢山な俺に対する悪評の言葉を蔵してゐるに違ひない! などゝ思ふと、何とかしてそいつを全部聞きたいものだといふ気がして彼女の帰りが待たれるやうな、かと思ふとまた、厭なやうな──彼は、うやむやな焦噪に落ちて、その儘ごろりと上向きに転んで、縁側の天上を瞶めた。
底本:「牧野信一全集第二巻」筑摩書房
2002(平成14)年3月24日初版第1刷
底本の親本:「新潮 第四十三巻第四号」新潮社
1925(大正14)年10月1日発行
初出:「新潮 第四十三巻第四号」新潮社
1925(大正14)年10月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2010年2月23日作成
2010年5月23日修正
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