「昨今横浜異聞」この集を編むについて
岸田國士
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今日まで活字として発表した戯曲のうち、凡そ半数は大小の劇場で脚光を浴びた。上演されたもの、必ずしも自信のあるものではなく、上演の成績も常に満足とばかりは云へないが、自分の作品を通じてみて、舞台にかけられたものには、おのづから一つの特色があり、その特色は、この集一巻の存在理由ともなるべきもので、著者としては、これを謂はゆる「芝居好き」の読者に送り、わが劇作生活の貧しい紀念としたいのである。
無論、作品の選択は自分の好みに従つたが、まだ上場されないものを一篇だけ加へたのは、それによつて、多少ともこの書の「未来性」が保たれやうといふ、出版書肆の周密な配慮に従つたものである。
上演記録として、配役の外に、それぞれの舞台写真を挿入する計画であつたが、適当なものを揃へることができず、書物の体裁としては、型にはまつた口絵式写真よりも、寧ろ自由な挿画を配した方が「美術的」であると思ひ、特に中川一政氏を煩はして、装幀の労を延長していたゞくことにした。
昭和六年一月
底本:「岸田國士全集28」岩波書店
1992(平成4)年6月17日発行
底本の親本:「昨今横浜異聞」四六書院
1931(昭和6)年2月10日発行
初出:「昨今横浜異聞」四六書院
1931(昭和6)年2月10日発行
入力:門田裕志
校正:Juki
2011年8月27日作成
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