「現代戯曲全集第十七巻」の跋に代へて
岸田國士


 芝居といふものを強ひて大勢に見せるものだと考へる必要はない。

 或ることを云ふために芝居を書くのではない。芝居を書くために或ることを云ふのだ。

 所謂「劇的」でない劇があつてもいゝ。所謂「小説的」でない小説があるやうに。

 音楽を聴きに行くやうに芝居を観に行く人々──さういふ人々のために戯曲を書きたい。

 芝居を観に行くのがいやになつたぐらゐで、芝居を書くことを止めはしない。

 芝居を書くといふことのうちには、芝居を観る楽みも大方含まれてゐる。今日の舞台は──劇場は、俳優は──「昨日の戯曲」の為めに作られたものだ、と思つてゐてもいゝではないか。

底本:「岸田國士全集28」岩波書店

   1992(平成4)年617日発行

底本の親本:「現代戯曲全集第十七巻」国民図書株式会社

   1926(大正15)年421日発行

初出:「現代戯曲全集第十七巻」国民図書株式会社

   1926(大正15)年421日発行

入力:門田裕志

校正:noriko saito

2011年219日作成

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