「娼婦マヤ」評
岸田國士


 ギャンチヨンの戯曲「マヤ」は、もう、フランス劇壇の独占物ではなく、世界の舞台の演目のなかに数へられる傑作の一つとなつた。

 娼婦マヤの肉体と精神は、作者ギャンチヨンの青春の夢を宿して、あやしい燐光を放ち、人肉の市にくりひろげられる腐臭にみちた生活図も、清純な抒情と東洋的精神の調合によつて、言はば、真珠色の霧につゝまれてゐる。

 戯曲「マヤ」は、それゆゑ、もつとも生彩に富む演劇的スペクタクルであり、若々しい才能の開花を思はせる野心的な劇詩である。

 この作者と親交があり、かつ、フランスに於けるこの劇の上演を見たといふ小松清氏が「マヤ」の翻訳を思ひたつたことは極めて自然でかつ、適材を得たものといふべきである。

底本:「岸田國士全集28」岩波書店

   1992(平成4)年617日発行

底本の親本:「娼婦マヤ 帯広告」白水社

   1950(昭和25)年320日発行

初出:「娼婦マヤ 帯広告」白水社

   1950(昭和25)年320日発行

※「娼婦マヤ」は、ギャンチヨン作、小松清訳。

入力:門田裕志

校正:noriko saito

2011年28日作成

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