選者の言葉
──第一回世界文学賞──
岸田國士


 本年度の、すなはち、最初の「世界文学賞」を贈られるのが渡辺一夫氏の訳、ラブレエの「パンタグリュエル」(白水社刊行)ときまつた。ところで、年度内に出た書物は、「パンタグリュエル」であるが、それは氏の数年来続けてゐる仕事の後半部で、この機会に、前半「ガルガンチア」とを併せ、氏のラブレエの全訳等に対し、われわれは敬意を表すべきであるといふ意見に一致した。

 本年はいろいろの立派な翻訳が出た。もちろんその間に単純な優劣をつけることなどできる筈もない。しかし、世界文学史に於ける紀念碑的なラブレエの名と、フランス本国に於てさへ現代語訳を必要とするその巨大な、類を絶した傑作と、かの豪快にして微妙なゴオル精神の味得者、篤学渡辺一夫氏とを並べてみて、なにはともあれ、この種の組合せはさうめつたに見られぬぞといふ考へを多くの人々に抱かせたのである。

「賞」といふ名目は、或は穏当でないかもしれぬ。だが、この「賞」はもとより「頌」に通じる。氏は君子なるが故に、笑つて受けられよ。

底本:「岸田國士全集27」岩波書店

   1991(平成3)年129日発行

底本の親本:「世界文学 第十三号」

   1947(昭和22)年910

初出:「世界文学 第十三号」

   1947(昭和22)年910

入力:tatsuki

校正:門田裕志

2010年521日作成

2011年530日修正

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