飯田の町に寄す
岸田國士



飯田   美しき町

山ちかく 水にのぞみ

空あかるく風にほやかなる町


飯田   静かなる町

人みな  言葉やわらかに

物音   ちまたにたゝず

粛然として古城の如く丘にたつ町


飯田   ゆたかなる町

財に貧富あれども

身に貴賤ありとおぼへず

一什一器かりそめになく

老若男女、みなそれぞれの詩と哲学とをもつ町


飯田   ゆかしき町

家々みな奥深きものをつゝみ

ひとびと 礼にあつく

軒さび  瓦ふり

壁しろじろと小鳥の影をうつす町


飯田   天竜と赤石の娘

おんみ さかしくみめよく育ちたれど

いま 新しき時代に生きんとす

よそほひはかたちにあらず

美しく  静かに

ゆかしく 豊かに

おんみの心をこそ 新しくよそほひたまへ

底本:「岸田國士全集27」岩波書店

   1991(平成3)年129日発行

底本の親本:「飯田市報 第一号」

   1947(昭和22)年626

初出:「飯田市報 第一号」

   1947(昭和22)年626

入力:tatsuki

校正:門田裕志

2010年521日作成

2011年526日修正

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