新しい芝居
岸田國士
|
文学座はいはゆる「新劇」に非る新しい劇の樹立を標榜して立つた。五年間の歩みは、その方向を誤らなかつたかどうか、私は、今それを判定する地位にゐないけれども、恐らく、これだけのことは云へさうだ。──若し現在の文学座に慊らないものがあるとすれば、それは、時代が少し急速に進展しすぎたためだといふことである。文学座は正しく歩かなければならぬ道を一歩一歩あるき、しかも、それは十年を要する道だったのである。駈足ではどうにもならぬ道を、一途に歩きはじめたものゝ宿命を、いま身を以て感じ、しかも、それはそれとしての矜りを失はず、こゝでひとつ、策をめぐらし、時局下の演劇人としての精神的飛躍を遂げることが、座員一同の今日の希ひだと思ふ。
これは転身ではなくて、献身である。
新しい芝居の道が、かくて、文学座にのみ開かれてゐると信じるのは、私一人ではあるまい。
底本:「岸田國士全集26」岩波書店
1991(平成3)年10月8日発行
底本の親本:「文学座 第二十三号」
1943(昭和18)年2月1日発行
初出:「文学座 第二十三号」
1943(昭和18)年2月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年3月1日作成
2016年4月14日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。