今度の出し物について
岸田國士


 岡田禎子さんの「クラス会」は、一読してこれはなかなか面白いものだと思つた。女ばかりの舞台といふ仕組みはともかく、女でなければ書けない心理と情景のニユアンスが、みごとに私を捉へた。女優さんたちの「練習曲」としても相当歯ごたへのある、恰好なものであるし、これに男ばかりの舞台を一幕並べることにでもしたら、ちよつと変つた趣向ではあるまいかと、瞬間、興行師の頭になる。

 ところが、次に、徳川夢声君といふ難物のために、稽古の便を計つて、小人数の一幕を考へねばならぬ段になり、ふと頭に浮んだのが、辰野氏の「父と子」である。これが偶然、誂へ向きの男ばかりとは、少々くすぐつたい次第であつた。

 さて、もう一つは、小山祐士君の「魚族」であるが、これは、同作者の代表作「瀬戸内海の子供ら」の「妹」たるべき佳作で、みつちり稽古のし甲斐のあるものである。なにぶん登場人物が多く、その上、写実味のあふれたこの芝居では、年配も一座の俳優では無理だとわかつてゐながら、敢てやることにしたのは、幸ひ、東山、毛利両女史の客演を得たからである。

 その代り、当てにしてゐた堀越、中村、宮口の諸君が何れも、病気その他で出られなくなつたことは、全体の配役に齟齬を生じた。未経験の研究生を一人、臨時に使つてみた。

「クラス会」は久保田万太郎氏が、「父と子」は岩田豊雄氏が、何れも自ら演出を買つて出たといふことを特筆せねばならぬ。

 私は、実は、健康を慮り、今度は演出の役はごめん蒙りたかつたのだが、岩田幹事がたつてやれといふので止むを得ず引き受けた。田中千禾夫君と作者自身とが、私の及ばないところを手伝つてくれた。

底本:「岸田國士全集24」岩波書店

   1991(平成3)年38日発行

初出:「文学座第2回試演 パンフレット」

   1938(昭和13)年66日発行

入力:tatsuki

校正:門田裕志、小林繁雄

2005年316日作成

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