焼き林檎を投げる
岸田國士
|
見物のやじり方には、古今東西を通じていろいろあるやうだが、昔、仏蘭西では、舞台の俳優めがけて、腐つた卵や、焼き林檎を投げつけるといふ野蛮な風習があつた。
この風習は、後にやや緩和されて、口笛(シツフレ)となり、それでも、このシツフレはなかなか盛んで、「大根ひつこめ」ぐらゐの愛嬌では納まらない場合がある。
そこへ行くと、日本の見物は実に寛大で、役者は誠に気楽だが、そのために舞台がだらけきつてゐる。乱暴を奨励するわけではないが、日本にも役者がヘマをやつたら、梅干か蒟蒻ぐらゐぶつける習慣があつたら面白いだらう。(一九二八・一〇)
底本:「岸田國士全集21」岩波書店
1990(平成2)年7月9日発行
底本の親本:「時・処・人」人文書院
1936(昭和11)年11月15日発行
初出:「悲劇喜劇 創刊号」
1928(昭和3)年10月1日発行
※題名の中の「焼き林檎」には「ポンム・キユイツト」のルビがついています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2007年11月14日作成
2016年5月12日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。