女性風俗時評
岸田國士



 女の間に「キミ」「ボク」といふ言葉が流行してゐる。女同士の会話には非常にはやつてゐるのだが、さすがにまだ男と女との会話には余り出て来ない。もつとも男とそんな風な会話をするやうな女性だつたら、なか〳〵もつて油断のできない強か者であらう。

 かうした口をきく女の子は、奇妙にアリストクラテイツクな学校の生徒に多い。例へば家庭では「遊ばせ」言葉を使つてゐるやうな女学生が、友達同士になると反動的に「キミ」「ボク」といふ調子で話をするやうである。

 つく〴〵考へるのだが、所謂モダン・ガールといふものは、随分向うみずな我儘なものだと思ふ。今更こんなことをいふのはをかしいけれども、話などしてゐると我武者羅で圧倒されるが、彼女達は自分の弱点を少しも反省してゐない。ガンと一つやられゝば参つてしまふのに、少しもそれに気がついてゐないらしい。そんな点は却つて封建時代の女の方がしつかりしてゐたらう。現代はその反動期なのかも知れない。

底本:「岸田國士全集23」岩波書店

   1990(平成2)年127日発行

底本の親本:「東京日日新聞」

   1936(昭和11)年818

初出:「東京日日新聞」

   1936(昭和11)年818

入力:tatsuki

校正:門田裕志

2009年95日作成

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