練習曲
岸田國士



──おれはかうして雲を見てゐる。君はさうして新聞を読んでゐる。彼女は、こゝへ来て、どつちに先づ話しかけるだらう。

──二五高女卒頗富愛嬌不幸無支度先方職不望温情有方至急。

──あの下駄の音はあんまり落着いてるね。君は珈琲を飲むかい。

──飲む。信用及商品持込家財其儘証人不要手軽月賦も可。

──来たぞ、おい……。

──長くお待ちになつて……?

──ねえ、××子さん、僕は今、あの空に、あなたの影が映りはしないかと……。

──ちよつと……をかしいわ、そつちを向いて……。何か面白いことが出てますの。

底本:「岸田國士全集20」岩波書店

   1990(平成2)年38日発行

底本の親本:「新選岸田國士集」改造社

   1930(昭和5)年28日発行

初出:「手帖 第一巻第一号」

   1927(昭和2)年31日発行

入力:tatsuki

校正:門田裕志、小林繁雄

2005年106日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。