「文壇波動調」欄記事
(その六)
岸田國士


 新劇協会が、今後経済的支持者を得て、更生の第一歩を踏み出さうとする機会に、その新しい関係者の一人として、私は、世の新劇研究家並に愛好者に訴へる──われわれの仕事を理解し、援助して頂きたい。

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 先づ、新劇協会の舞台は、「限られた」われわれ数人の野心を満たし、技倆を誇示する為めに作られようとするものではない。

 此の舞台は、現代日本の、あらゆる意味に於ける新劇運動者によつて、最も有効に利用されることを望んでゐる。

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 上場脚本について云へば、それが如何なる「傾向」である為めに、如何なる「色調」であるが為めに排斥することはしない。そして、そこでは、総ての真摯な演劇論が平等に座席を与へられる。

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 俳優は、現在、不統一であることを免れない。近い将来に於て、その統一が期せられる筈である。何よりも、舞台指揮者が、稽古の数日間、兼俳優教師たることを繰り返す弊風を一掃したい。

 それから、新劇俳優の名に応はしき才能と教養とを発見するに至るであらう。

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 自作を活字にする機会をさへ与へられない無名の劇作家が、此の舞台を唯一の発表機関として、初めて傑作を世に示すことができたら、どんなに愉快だらう。

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 新劇の現状に失望して、当今、俳優たることを断念し、又は躊躇してゐる有為な青年男女が、此の舞台によつて、徐々にその天分を発揮し、輝やかしい未来に到達することができたら、どんなに幸せだらう。(岸田)

底本:「岸田國士全集20」岩波書店

   1990(平成2)年38日発行

初出:「文芸時代 第三巻第十一号」

   1926(大正15)年111日発行

入力:tatsuki

校正:門田裕志、小林繁雄

2005年106日作成

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