沼のほとり
──近代説話──
豊島与志雄
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佐伯八重子は、戦争中、息子の梧郎が動員されましてから、その兵営に、二回ほど、面会に行きました。
二回目の時は、面会許可の通知が、さし迫って前日に届きましたため、充分の用意もなく、一人であわてて駆けつけました。そして、長く待たされた後、ゆっくり面会が出来ました。
帰りは夕方になりました。兵営から鉄道の駅まで、一里ばかり、歩きなれない足を運びました。畑中の街道で、トラックが通ると濛々たる埃をまきあげました。西空は薄曇り、陽光が淡くなってゆきました。面会帰りの人々の姿が、ちらりほらり見えますのが、時にとっての心頼りでした。
小さな店家を交えた町筋をぬけると、突き当りが停車場です。その狭い構内に、大勢の人がせきとめられていました。
──東京方面への切符は売りきれてしまった。
そういう声が、人込みの中に立ち迷っていました。
切符売場の窓口に顔をさしつけて、しきりに何か談じこんでいた人も、諦めたようにそこを立ち去りました。見知らぬ人同士、話しかけて智恵を借り合うのもありました。──
わりに大きな次の駅まで、二里あまり歩いて行けば、東京方面への切符があるかも知れませんでしたし、あるいは、そこで交叉してる他の鉄道線から迂回して、東京方面へ行けるかも知れませんでした。
駅内の人々は、次第に散ってゆきました。けれどまだ、多くの者が、立ち話をしたり、腰掛にもたれたりしていました。
上り列車が来ました。超満員の客車は、切符を持ってる少数の人々を更に吸収して、夕闇の中に去ってゆきました。
佐伯八重子は、置きざりにされた人々の中に交って、ぼんやり佇んでいました。慌しく出て来たために、往復切符の手配は出来ていませんでしたし、今や、帰りの切符は買えず、途方にくれました。和服に草履の身扮で、しかも疲れきったか弱い足で、次の駅まで歩くことは到底望めませんでした。たとい歩いて行ったとて、それから先がまたどうなるものやら、それも分りませんでした。
当もなく、八重子は、町筋の方へ行ってみました。急に暮れてきて、どの家にも電灯がついていました。
薄汚れた暖簾のさがってる蕎麦屋がありました。黒ずんだ卓子が土間に並んでいて、やはり兵営での面会帰りと見える人たちが、代用食らしい丼物を食べていました。
八重子もそこにはいってゆき、お茶を飲みました。そしてお上さんにいろいろ尋ねてみて、この辺には宿屋もなく、乗り物もなく、泊めてくれる家も恐らくないことを、知りました。
八重子は駅に戻りました。上り列車はまだ八時すぎのが一つありました。けれど本日分の切符は全く売りきれだということが、切符売場で確かめられました。
駅内の腰掛には、多くの男女が、何を待つのか、ぼんやり坐っていました。子供連れの者もありました。腰掛の上に寝そべってる者もありました。その片端に、八重子は腰を下しました。──一枚の乗車券を手に入れるために、徹夜して長い行列をつくる、そういう時代だったのであります。
八重子は眼をつぶりました。何よりまず梧郎のことが、瞼のなかに浮んできました。軍服がだいぶ身についてきたきりっとした態度、陽やけした顔にのぼる男性的な微笑、それでもやはり、お母さまという幼な時代通りの甘えた語調……。
食物は禁ぜられてるという面会所の隅で、袖屏風をつくって、重箱の中のおはぎをそっと示すと、梧郎は声を立てて喜びました。そして戦友というのを二人連れてきました。砂糖壺の底をはたいて拵えたおはぎの甘さに、三人が舌つづみを打つのは、涙ぐましい光景でありました。
その三人の話では、部隊はまもなく何処か遠くへ移動するらしいとのことでした。戦線は次第に日本周辺へ押し戻されかかっていましたし、九州地方はもう空襲を受けていました。だが、梧郎は母に向って、戦争のことなどは殆んど語りませんでした。笑ったり、眉をしかめたり、甘えたりして、日常事のことだけを話しました。然し三人の戦友の間では、戦争に関する事柄も少しく話題に上りました。そしてそこでだけ、八重子は、梧郎の、いや彼等の、雄々しい決心らしいものに触れました。その触れた感じは、なにか眩いに似たものがありました。
その眩いに似たものを、また、駅の木の腰掛の上で、八重子は感じました……。
腰掛にいる人々は、もうまばらで、誰も口を利きませんでした。うとうと居眠ってる者もありました。ただ眼を宙に見開いてるだけの者もありました。地下足袋の男が、ちょっと駅にはいって来て、すぐに出て行きました。そのあと一層ひっそりとしました。秋の夜風が軽く然し冷かに、駅内を通りぬけてゆきました。
時間が、一分一秒はひどく緩かに、全体としては思いのほか速く、過ぎてゆきました。八時すぎの上り列車はもう通過してしまいました。
明朝……ということが、たいへん遠い夢のようでありました。
八重子は腰掛の上に身動きもせず、繻子のコートにくるまって、眼をつぶり、眩いに似た感じに浸りました。
下りの列車が通りました。八重子はただ薄眼をあけてみただけでした。数名の人が降りていったようでした。
八重子はまた眼をつぶりました。
軽く、桐の吾妻下駄らしい音が、八重子の前に止りました。
「あの……失礼ではございますが……。」
まっ黒な七分身のコートに、細そりと背高い体をつつんで、肩から垂らした臙脂色のショールの端にハンドバッグを持ち添えた、丸顔の若い女が、小首を傾げていました。
「部隊から、面会のお帰りではございませんでしょうか。」
あたりを憚るような低い声でした。
八重子は顔を挙げました。ひたと見つめてる大きな眼付にぶつかりました。その大きな眼付の無表情とも言えるぶしつけな平静さが、八重子を夢の中のような気持にさせました。八重子も低い声で答えました。
「はあ、左様でございますが……。」
「もしも、宿にお困りのようでございましたら、お粗末なところではありますけれど、どうにかお休みにだけはなれますから、おいで下さいませんか。」
八重子はなんとなしに立ち上って、お辞儀をしました。
「ほんとに困りぬいていたところでございます。帰りの汽車の切符が買えなかったものですから。」
「いつも、朝のうちに売りきれてしまうんでございますよ。」
七分コートの女は、ゆっくりと駅を出てゆきました。八重子もそれについて行きました。
町筋を通りぬけ、街道から細道へ折れこみました。いつのまに取り出されたのか懐中電灯の光りが、ちらちらと、足許をてらしました。相手の女の足袋の白さが、八重子には、眼にしみるように思われました。
「道がわるうございますよ。」
ゆるい下り坂になって、女はふり返りましたが、にこりともしない無表情でした。小石交りの道なのに、その吾妻下駄の音も殆んどしませんでした。ただ、冷たい夜風に乗って漂う仄かな香水の香りだけが、八重子には、人間らしい頼りでした。
生垣があり、大きな木立があり、灌木の茂みがあり、野原には薄の穂が出ていました。
「あ。」
八重子は思わず声に出して、足をとめました。ゆるい傾斜地のかなた低く、星明りにぼーと、広い水面がありました。
いっしょに足をとめてふり向いた女へ、八重子は言いました。
「河でしょうか、海でしょうか……。」
「ご存じありませんの。沼……というより、湖水でございますよ。」
この沼の広々とした水面が、生き物のように息づいてるらしく思えて、八重子は連れの女へ身を寄せました。しぜんに、足が早くなりました。
静まり返ってる大きな家のまわりを、二曲りして、小さな平家の前に出ました。
低い生垣のなかの砂道を、女は小刻みに歩いて、戸を叩きました。暫く待って、また戸を叩きました。
「みさちゃん、あたしよ。」
戸に格子、狭い三和土、障子、そのとっつきの三畳を通ると、調度の類がきりっと整ってる茶の間でした。
「こんなところで、失礼でございますけれど、どうぞ、御自由になすって下さいませ。」
女は立膝で、長火鉢の中の火をかきたてました。それからコートをぬぎ、小揺ぎもなさそうな姿勢に坐り、器用な手付で巻煙草に火をつけました。
八重子の夢心地は、深まるばかりでした。それを、ほっとくつろいだ吐息にはきだしますと、眼の前のことだけがまざまざと、恰も鏡に映ったようにはっきりと見えました。
長火鉢の磨きすました銅壺、黒塗りの餉台、茶箪笥の桑の木目、鏡懸けの友禅模様、違い棚の真中にある大きな振袖人形、縁起棚の真鍮の器具……そうした室の中に、みさちゃんと呼ばれた小女は、行儀よくまめまめしく立働きました。脱ぎ捨てられたコートをたたみ、茶をいれ、丸い餅を焼きました。
女主人は、小揺ぎもなくぴたりと坐って、冷淡かと思えるほど表情少く、口数もごく少く、ただその身ごなしに情味をたたえていました。背の高い細そりした体に、頬の豊かな丸顔なのが、人形めいたやさしさを感じさせました。そして彼女は妙に、八重子の方へ真正面に向かず、ただ大きな眼付だけをひたと向けました。
金糸の通った縞御召の肩に、紋付の羽織をずらせ、軽くパーマをかけた髪を、真中から分けてふっくらと結えてる、この女主人は、幾歳ぐらいだろうかと、八重子は迷いました。三十歳ほどにも思えますし、二十歳ほどにも思えました。
海苔巻きの丸餅に熱い茶を、つつましやかに味いながら、話はとぎれがちに、目前のこととは縁遠い事柄へとばかり走りました。沼で取れる魚類のこと、野菜や果物のこと、芝居や映画のこと、菓子のこと、草花のことなど……。そしてこの女主人は、あらゆることを知ってはいるが、肝腎な何かを知らず、つまりは何にも知っていないように、八重子には感ぜられました。
「お疲れでございましょうから……。」
言われてみると、もう十時を過ぎていました。
室を一つ距てた奥に寝床がのべてありました。八重子は長襦袢のまま、八端の柔い夜具にもぐりこみました。
夜の静寂の音とも細雨の音とも知れないものが、耳について、なかなか眠れませんでした。
──いったい、ここはどういう所なのであろうか。
枕頭の二燭光の雪洞が、へんに異境的な情緒をそそりました。八重子は幾度も、眼を開けたり閉じたりしました。東京の家のこと、兵営の梧郎のこと、夜の停車場のことなどが、すぐそこに宙に浮き出して、背景は遠くぼやけ、そのぼやけた中に彼女自身もありました。
長い間眠られず、そしてうとうとしたと思うと、また眼がさめました。それを幾度か繰り返したようでした。
なにかはっきりした物音がしました。人声も聞えました。八重子はへんにびっくりして、起き上りました。
茶の間へ出て行くと、女主人はもう起きていて、身扮もととのえていました。八時になっていました。
外は深い霧でありました。ただ仄白いものが濛々と天地を蔽うて、何の見分けもつきませんでした。
「昨晩は、お眠りになりましたかしら。」
女主人は首を傾げて、昨夜とちがい、顔に笑みを漂わせていました。
洗面からすべて、気を配った待遇でした。辞し去る合間もなく、食卓がととのえられて、梅干にお茶、味噌椀からワカサギに海苔と、気持よい朝食でありました。
女主人もいっしょに食卓につきました。
「秋になりましてからの、こんな霧は珍らしゅうございますよ。」
彼女は箸を休めて、硝子戸越しに外を見やりました。
ふだん着の、どことなく淋しげな、彼女の姿を見ていますうち、八重子は、昨夜からまだ一言も、お互いの身の上については触れていないのを、胸に浮べました。そして、そちらへ話を向けますと、相手は、巧みに外らしてしまいました。それでも彼女がもとは芸妓だったこと、今では歌沢の師匠をしていて、僅かな弟子があるので、三日に一度は東京に出ていること、などを八重子は知りました。
ただ、彼女はしんみりと、こんなことを言いました。
「あたくし、過去に、いろいろと、人様に御迷惑をかけたこともございます。それから、自分で、胸の晴れないこともございます。そういうことのために……いいえ、ただ退屈すぎるのでございましょうか、部隊に面会に来られました方で、お困りなさっている方を見受けますと、時たま、泊めてあげたくなりますの。」
そして彼女は暫く口を噤みましたが、俄に、頬をちょっと赤らめました。
「ほんとに、こんなところへ御案内しまして、却って、御迷惑でございましたでしょう。許して頂けますでしょうか。」
彼女は微笑しました。八重子は、感謝の言葉を洩らしかけて、涙ぐみました。
なにか、垣根が取れた気持で、八重子は彼女の名前を尋ねましたが、彼女は笑って、教えませんでした。八重子は自分の小さな名刺を差出しました。
佐伯八重子……その名前と処番地とを、女主人は、ふしぎなほど注意深く眺めていました。それからまたふしぎに、前よりは一層言葉少なになりました。
八重子はなにがしかの金を紙に包みかけましたが、さもしい気がしてやめました。そして、少女が朝早く買ってきてくれた切符の代と、少女への謝礼包みだけにとどめました。
「こんどまた、御礼に伺わせて頂きます。」
お辞儀をしながら、なぜともなく八重子は涙ぐみました。
女主人は門口まで見送りました。小川という表札だけを八重子は頭に留めました。少女が街道まで見送ってくれました。
霧はまだ深く、沼も見えなければ、あたりの様子もよく分りませんでした。それでも、中空は晴れてゆき、朝日の光が乳色に流れていました。
佐伯八重子は、沼のほとりの女を訪れるつもりで、進物などのことも内々考えていましたが、主人の亡い身にはいろいろ用事も多く、時局も激しく動いて、なかなかその意を果せませんでした。
梧郎の部隊は果して、まもなく他方へ出動することになりました。内地か外地かも分らず、通信は途絶えてしまいました。
やがて、東京も空襲に曝されるようになりました。戦災は次第に広い範囲に亘り、至る所に焼跡が見られました。東京に踏み留まってるだけでも、容易なことではありませんでした。
だいぶ年下で従弟に当る深見高次が、南方で戦死したとの公報も、空襲中に到着しました。
それからあの八月十五日、日本の降伏に次ぐ新回転の日が来ました。一ヶ月して梧郎は復員になり、九州から戻って来ました。
慌しい月日が過ぎて、七五三の祝い日に、今年七歳の末娘を持ってる山田清子のところへ、佐伯八重子は顔を出しました。清子は深見高次の実の姉で、深見高次の戦死のこともありますし、子供も数人あることですし、時勢をも考えまして、七歳の娘に御宮詣りはさせませんでしたが、家庭内で、ささやかな祝いを催しておりました。
その午後の一刻、佐伯八重子は、山田清子の私室で、久しぶりに二人きりで語らう隙を得ました。
室内には、さまざまなものが雑然と取り散らされていました。その中に、写真帳が数冊ありました。八重子は機械的にそれをめくっていました。話の方に気を取られていました。それでも、あるところで、突然、手をとどめ話をやめて見つめました。
島田髷に結った若い女の半身、洋髪に結った二人の女の舞台に坐ってる姿、二葉の写真が、そこにありました。それが、紛うかたなく、沼のほとりのあの女でした。殊に、舞台の方、金屏風をうしろにして、三味線をかかえた年増の人をそばに総のさがった見台に向って、ぴたりと、小揺ぎもなく坐っていますのが、あの女でした。
八重子はその写真を指し示しました。
「これ、誰ですの。」
清子は、写真の方ではなく、八重子の顔を眺めました。
「あら、御存じありませんの。寅香さん……それ、高次さんのあのひと……。」
「これが……。」
歌沢寅香、本名は小川加代子、かつて親戚や友人間に問題となった柳橋の芸妓で、深見高次の愛人でありました。
彼女と高次との間がどういうものであったかは、本人たち以外には分りません。表立った事柄としては、高次が周囲の反対を押し切って、彼女と結婚すると宣言したことでした。それから、周囲の反対が高まるにつれて、高次の意志もますます強固になり、一時、彼女に御座敷を休ませて、二人で旅に出たりしたこともありました。それから、花柳界の閉鎖や、高次の召集など、戦争の渦中に彼等も巻きこまれました。高次は出発に際して、かねてから二人の間のひそかな同情者たる姉の清子に、二葉の写真を預けましたきりで、彼女の生活や居所については何にも明かしませんでした。──それらの事件の間中、彼女の名前は、歌沢の方の名取たる寅香とばかり呼ばれる習わしになっておりました。
八重子は長く写真を見つめておりましたが、溜息のように言いました。
「このひとが、あの、沼のほとりのひとですよ。」
「まあ……夢の中のようなお話の、あのひと……。」
二人は顔を見合せました。
「高次さんの戦死のこと、知ってますかしら。」と清子は言いました。
「訪ねてみましょう。」と八重子は言いました。
そして数日後、二人はひそかに打ち合せて、二人だけの秘密を胸に懐いてる思いに軽く昂奮して、出かけました。
秋晴れのよいお天気で、冷かな微風も却って快く思われました。
八重子はわざわざ、あの時と同じ服装をしていました。清子はなるべく目立たぬ服装をしていました。
駅から街道沿いの町筋、そこまではよく分りましたが、その先が、八重子の記憶にはすっかりぼやけていました。往きは暗い夜の中をあの女に導かれ、帰りは霧の中を少女に導かれて、まるで夢の中のようだったのです。
同じような小道が幾つもあり、同じような生垣や家が幾つもありました。
傾斜面のつきるところ、びっくりするほどの近くに、広々とした沼があって、日の光に輝いていました。そこから、冷たい風が吹きあげてきました。藪の茂みがそよぎ、中空高い落葉樹の小枝が震えました。薄の穂がまばらに突き立ってる野原が、あちこちにありました。
肌寒い思いで、草履の足を引きずって、尋ねあるきましたが、それらしい家は見当りませんでした。
「たしかにこの辺でしたの。」
「そう思いますけど……。」
心許ない短い問答きりで、二人はあまり口を利きませんでした。
人の住んでいそうもない、静まり返った家ばかりで、通りがかりの人影も見えませんでした。
二人は町筋に引き返しました。荒物屋、煙草屋、それから蕎麦屋と、三軒に尋ねてみました──。小川加代子というひと、歌沢の師匠をしている寅香というひと、少女を使って静かに住んでる若い女のひと……。
それを、どこでも、誰も、一向に知りませんでした。こんな田舎では、どんな些細なことでも皆に知れ渡ってる筈なのに、彼女のことについては、何の手懸りもありませんでした。
「おかしいわね。」
「ほんとに……。」
二人はまた、ぼんやり沼の方へ行ってみました。そして水際まで降りてゆきました。冷たい風が、間をおいて、水面を渡ってきますきりで、人影も物音もなく、小鳥の声さえ聞えませんでした。
「どうしたんでしょうね。」
と八重子は呟きました。
「なんだか寒けがしますわ。」
と清子は呟きました。
じっと見ていますと、平らな水面が、真中から徐ろに膨らんでくるようでした。眩いに似た感じでありました。
底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4)」未来社
1965(昭和40)年6月25日第1刷発行
初出:「思索」
1946(昭和21)年4月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2008年1月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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