無題(十三)
宮本百合子
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「道標」のため
○猿の毛皮 矢はず形についだ茶色の猿の毛皮 余りおもくなくて丈夫な
○ガローシをぬぐ つぎに外套をぬぎ すき間風をふせぐためにくびのまわりにまいているネッカチーフをとる。そうするとどんな女もほっそりと小さくなってなかみから現れた。
「ナターシャがはじめての舞踏会へ行ってむかれて現れる」面白さを思い出す。
丸っこい体の伸子さえ小さい女になって外套のなかからあらわれた。そして、ザールをぐるぐる歩きまわる。
○急にみかんの匂いがする 平土間の席、
○レーニングラードのN
濃いまつ毛が美しいかげりを与えるというより病犬のようなうるさい感じ。
「春のある冬」のため
○「比較のない」ということが伸子をうれしさで一杯にした。比較しようとして思い出そうとしても、それに符合して思い出せるどんな瞬間もない。それはしんそこからうれしいことだった。
○はじめての夜
それは苦悶のような思い出だった。
だが今は
○手塚がつかまったと教えに来たときのm、かすりの着物をきて。
○わすれて行った本
届ける つい そこだって
○なべやきうどんを云いつけにゆく
○待っている 約束のハガキのよみちがい
○お菓子のこと
「あら それをみんなたべちゃっちゃ駄目よ」
○気持よさそうなので そうすると
ローソクの灯が 急にぱっと明るくなったように くつろいで楽に居心地よくなった。
○mの眼、まつ毛のこさ、
リゾナンテのある声のような眼つき
○くっきりとした存在。
存在そのものが不確定のようなどっさりの男たち。ぐらぐらしていたり、ほかのものにとけこんでいて境がわからなかったり。
○愛ということを一ぺんも云わない。
○イタリアの情熱
自立の満足を一気にもとめる情熱
情熱的な感受性は行為を要求し、言葉を要求しなかった。
スタンダール パリアノ公爵夫人
○アンポンといろんなところでねるの楽しいねえ。
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
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