杜松の樹
グリム
中島孤島訳



 むかしむかし大昔おおむかしいまから二千ねんまえのこと、一人ひとり金持かねもちがあって、うつくしい、気立きだてい、おかみさんをってました。この夫婦ふうふ大層たいそうなかかったが、小児こどもがないので、どうかして一人ひとりほしいとおもい、おかみさんは、よるも、ひるも、一しんに、小児こどもさずかりますようにといのっておりましたが、どうしても出来できませんでした。

 さてこの夫婦ふうふうちまえにわに、一ぽん杜松としょうがありました。ふゆのことでしたが、おかみさんはこのしたで、林檎りんごかわいていました。いてゆくうちに、ゆびったので、ゆきうえがたれました。(*(註)杜松は檜類の喬木で、一に
「ねず」又は「むろ」ともいいます

「ああ、」とおんなふか嘆息ためいきいて、まえながめているうちに、きゅう心細こころぼそくなって、こうった。「のようにあかく、ゆきのようにしろ小児こどもが、ひとりあったらねい!」

ってしまうと、おんなむねきゅうかるくなりました。そしてたしかに自分じぶんねがいがとどいたようながしました。おんなうちはいりました。それから一つきつと、ゆきえました。二つきすると、色々いろいろものあおくなりました。三つきすると、なかからはなきました。四つきすると、木々きぎこずえ青葉あおばつつまれ、えだえだかさなりって、小鳥ことりもりこだまこして、うえはならすくらいに、うたしました。五つきったときに、おかみさんは、杜松ねずしたきましたが、杜松としょうあま香気かおりぐと、むねそこおどつようながしてて、うれしさにわれしらずそこへひざきました。六月目つきめぎると、杜松ねずかたく、にくづいてましたが、おんなはただじっとしてました。七つきになると、おんな杜松ねずおとして、しきりにべました。するとだんだんがふさいで、病気びょうきになりました。それから八つきったときに、おんなおっとところって、きながら、こういました。

「もしかわたしがんだら、あの杜松としょう根元ねもとめてくださいね。」

 これですっかり安心あんしんして、うれしそうにしているうちに、九つきぎて、十月目つきめになって、おんなゆきのようにしろく、のようにあか小児こどもみました。それをると、おんなはあんまりよろこんで、とうとうんでしまいました。

 おっとおんな杜松としょう根元ねもとめました。そしてそのときには、大変たいへんきましたが、ときつと、かなしみもだんだんうすくなりました。それからしばらくすると、おとこはすっかりあきらめて、くのをやめました。それからしばらくして、おとこべつなおかみさんをもらいました。

 二度目どめのおかみさんには、おんなまれました。はじめのおかみさんのは、のようにあかく、ゆきのようにしろおとこでした。おかみさんは自分じぶんむすめると、可愛かわゆくって、可愛かわゆくって、たまらないほどでしたが、このちいさなおとこるたんびに、いやな気持きもちになりました。どうかしておっと財産ざいさんのこらず自分じぶんむすめにやりたいものだが、それには、このおとこ邪魔じゃまになる、というようなかんがえが、始終しじゅうおんなこころをはなれませんでした。それでおかみさんは、だんだんおにのようなこころになって、いつもこのかたきにして、ったり、たたいたり、家中うちじゅう追廻おいまわしたりするので、かわいそうな小児こどもは、始終しょっちゅうびくびくして、学校がっこうからかえっても、うちにはおちついていられないくらいでした。

 とき、おかみさんが、二かい小部屋こべやへはいっていると、おんなもついてて、こういました。

かあさん、林檎りんご頂戴ちょうだい。」

「あいよ。」とおかあさんがって、はこなかから美麗きれい林檎りんごして、おんなにやりました。そのはこにはおおきな、おもふた頑固がんこてつじょうが、ついていました。

かあさん、」とおんなった。「にいさんにも、一つあげないこと?」

 おかあさんは機嫌きげんをわるくしたが、それでも何気なにげなしに、こういいました。

「あいよ、学校がっこうからかえってたらね。」

 そしておとこかえってるのをまどからると、きゅう悪魔あくまこころなかへはいってでもたように、おんなっている林檎りんごをひったくって、

にいさんよりさきべるんじゃない。」

いながら、林檎りんごはこなか投込なげこんで、ふたをしてしまいました。

 そこへおとこかえってて、ところまでると、悪魔あくまのついた継母ままははは、わざとやさしいこえで、

ぼうや、林檎りんごをあげようか?」といって、じろりとおとこかおました。

かあさん、」とおとこった。「なんかおしてるの! ええ、林檎りんごください。」

「じゃア、一しょにおいで!」といって、継母ままはは部屋へやへはいって、はこふた持上もちあげげながら、「さア自分じぶん一個ひとつりなさい。」

 こういわれて、おとこはこなかあたま突込つっこんだ途端とたんに、ガタンとふたおとしたので、小児こどもあたまはころりととれて、あか林檎りんごなかちました。それをると、継母ままははきゅうおそろしくなって、「どうしたら、のがれられるだろう?」とおもいました。そこで継母ままははは、自分じぶん居室いまにある箪笥たんすのところにって、手近てぢか抽斗ひきだしから、しろ手巾はんけちしてて、あたまくび密着くっつけたうえを、ぐるぐるといて、きずわからないようにし、そして林檎りんごたせて、おとこ入口いりぐち椅子いすうえすわらせておきました。

 もなく、おんなのマリちゃんが、いまちょうど、台所だいどころで、まえって、沸立にえたったなべをかきまわしているおかあさんのそばへました。

かあさん、」とマリちゃんがった。「にいさんはまえすわって、真白まっしろなおかおをして、林檎りんごっているのよ。わたしがその林檎りんご頂戴ちょうだいっても、なんともわないんですもの、わたしこわくなッちゃったわ!」

「もう一ぺんってごらん。」とおかあさんがった。「そして返事へんじをしなかったら、横面よこッつらっておやり。」

 そこでマリちゃんはまたって、

にいさん、その林檎りんご頂戴ちょうだい。」

といいましたが、にいさんはなんともわないので、おんな横面よこッつらると、あたまがころりとちました。それをると、おんなこわくなって、しました。そしてきながら、おかあさんのところけてって、こういました。

「ねえ、かあさん! わたしにいさんのあたまって、おッことしちまったの!」

そうって、おんないて、いて、いつまでもだまりませんでした。

「マリちゃん!」とおかあさんがった。「おまえなんでそんなことをしたの! まア、いいから、だまって、だれにもれないようにしておいでなさいよ。出来できちまったことは、もう取返とりかえしがつかないんだからね。あのはスープにでもしちまいましょうよ。」

こういって、おかあさんはちいさなおとこってて、ばらばらにりはなして、おなべへぶちこんで、ぐつぐつてスープをこしらえました。マリちゃんはそのそばで、いて、いて、きとおしましたが、なみだはみんなおなべのなかへちて、そのうえしおをいれなくてもいいくらいでした。おとうさんがかえってて、食卓テーブルまえすわると、

「あの何処どこったの?」とたずねました。

すると母親ははおやは、おおきな、おおきな、おさらくろいスープをって、はこんでました。マリちゃんはまだかなしくって、あたまもあげずに、おいおいいていました。すると父親ちちおやは、もう一

「あの何処どこったの?」とききました。

「ねえ、」とおかあさんがった。「あの田舎いなかきましたの、ミュッテンの大伯父おおおじさんのとこへ、しばらとまってるんですって。」

なにしにったんだい?」とおとうさんがった。「おれにことわりもしないで!」

「ええ、なんですか、たいへんきたがって、わたしに、六週間しゅうかんだけ、とまりにやってくれッていますの。先方むこうけばきっと大切だいじにされますよ。」

「ああ、」とおとうさんがった。「それは本当ほんとうこまったね。全体ぜんたい、おれにだまってくなんてことはありやしない。」

 そうって、食事しょくじはじめながら、おとうさんはまた、

「マリちゃん、なにくの?」とききました。「にいさんはいまにきっとかえってるよ。」

 それから、おかみさんのほうて、

「おい、かあさん、これはとてもうまいぞ!、もっともらおう!」といったが、べればべるほど、いくらでもべられるので、「もっとくれ! のこすのはしい、おれが一でいただいちまおうよ。」といいながら、とうとう一人ひとりで、みんなべてしまって、ほね食卓テーブルしたげました。

 するとマリちゃんは、自分じぶん箪笥たんすって、一ばんした抽斗ひきだしから、一ばん上等じょうとうきぬ手巾はんけちしてて、食卓テーブルしたほねを、一つのこらずひろげて、手巾はんけちつつみ、きながら、戸外おもてってきました。マリちゃんはそのほね杜松ねず根元ねもとくさなかくと、きゅうむねかるくなって、もうなみだなくなりました。

 そのとき杜松ねずがザワザワとうごして、えだえだが、まるでってよろこんでいるように、いたり、はなれたり、しました。するとなかから、くもちのぼり、そのくも真中まんなかで、ぱっとったとおもうと、なかから、うつくしいとりして、こえをしてうたいながら、中空なかぞらたかいのぼりました。

 とりんでってしまうと、杜松ねずまたもととおりになりましたが、手巾はんけちほねと一しょに何処どこへかえてしまいました。マリちゃんは、すっかりむねかるくなって、にいさんがまだきてでもいるような心持こころもちがして、うれしくってたまらなかったので、機嫌きげんよくうちはいって、ゆうはんべました。

 ところが、とりんでって、金工かざりや家根やねまって、こううたしました。

かあさんが、わたしをころした、

 とうさんが、わたしをべた、

 いもうとのマリちゃんが、

 わたしのほねをのこらずひろって、

 手巾はんけちつつんで、

 杜松ねず根元ねもといた。

 キーウィット、キーウィット、なんと、綺麗きれいとりでしょう!」

 金工かざりや仕事場しごとばすわって、黄金きんくさりつくっていましたが、家根やねうえうたっているとりこえくと、いいこえだとおもって、立上たちあがってました。けれどもしきいまたときに、片方かたほう上沓うわぐつげたので、片足かたあしには、上沓うわぐつ穿き、片足かたあしは、沓下くつしただけで、前垂まえだれけ、片手かたてには、黄金きんくさり片手かたてには、ヤットコをって、まちなか跳出とびだしました。そして日光にっこうなかって、とりながめてました。

とりや、」と金工かざりやった。「なんこえうたうんだ。もう一、あのうたうたってな。」

「いえいえ、」ととりった。「ただじゃア、二は、うたいません。それとも、その黄金きんくさりくださるなら、もう一うたいましょう。」

「よしきた、」と金工かざりやった。「それ黄金きんくさりをやる。さア、もう一うたってな。」

 それをくと、とりりてて、みぎあし黄金きんくさり受取うけとり、金工かざりやのすぐまえとまって、うたいました。

かあさんが、わたしをころした、

 とうさんが、わたしをべた、

 いもうとのマリちゃんが、

 わたしのほねをのこらずひろって、

 手巾はんけちつつんで、

 杜松ねず根元ねもといた。

 キーウィット、キーウィット、なんと、綺麗きれいとりでしょう!」

 うたってしまうと、とり靴屋くつやみせんでき、家根やねうえまって、うたいました。

かあさんが、わたしをころした、

 とうさんが、わたしをべた、

 いもうとのマリちゃんが、

 わたしのほねをのこらずひろって、

 手巾はんけちつつんで、

 杜松ねず根元ねもといた。

 キーウィット、キーウィット、なんと、綺麗きれいとりでしょう!」

 靴屋くつやはこれをくと、襯衣シャツのまんまで、戸外そと駈出かけだして、うえかざして、家根やねうえながめました。

とりや、」と靴屋くつやった。「なんこえうたうんだ!」

そうって、うちなかこえをかけました。

女房にょうぼうや、ちょいとなよ、とりるから。ちょいとあのとりな! いいこえでうたうから。」

 それからむすめだの、子供こどもたちだの、職人しょくにんだの、小僧こぞうだの、女中じょちゅうだのをびましたので、みんな往来おうらいて、とりながめました。とりあかみどりはねをして、のどのまわりには、黄金きんまとい、二つのほしのようにきらきらひからせておりました。それはほんとうに美事みごとなものでした。

とりや、」と靴屋くつやった。「もう一、あのうたうたってな。」

「いえいえ、」ととりった。「ただじゃア、二は、うたいません。それともなにかくれますか。」

女房にょうぼうや、」と靴屋くつやった。「みせって、一ばんうえたなに、赤靴あかぐつが一そくあるから、あれをってな。」

 そこで、おかみさんはって、そのくつってました。

「さア、とりや、」と靴屋くつやった。「もう一、あのうたうたってな。」

 するととりはおりてて、ひだりつめくつ受取うけとると、また家根やねんでって、うたしました。

かあさんが、わたしをころした、

 とうさんが、わたしをべた、

 いもうとのマリちゃんが、

 わたしのほねをのこらずひろって、

 手巾はんけちつつんで、

 杜松ねず根元ねもといた。

 キーウィット、キーウィット、なんと、綺麗きれいとりでしょう!」

 うたってしまうと、とりはまたんできました。みぎあしにはくさりち、ひだりつめくつって、水車小舎すいしゃごやほうんできました。

水車すいしゃは、「カタン─コトン、カタン─コトン、カタン─コトン。」とまわっていました。小舎こやなかには、二十にんこなひきおとこが、うすってました。

「カタン─コトン、カタン─コトン、カタン─コトン」と水車すいしゃまわあいだに、こなひきおとこは、「コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ」とうすってた。

 とり水車小舎すいしゃごやまえにある菩提樹ぼだいじゅうえとまって、うたしました。

かあさんが、わたしをころした、」

うたうと、一人ひとりみみてました。

とうさんが、わたしをべた、」

うと、また二人ふたりみみてて、りました。

いもうとのマリちゃんが、」

うたうと、また四にんみみてました。

「わたしのほねをのこらずひろって、

 手巾はんけちつつんで、」

ったときには、うすっているものは、八にんぎりになりました。

杜松ねずの」

うたうと、もう五にんぎりになりました。

根元ねもといた。」

うと、もう一人ひとりぎりになりました。

「キーウィット、キーウィット、なんと、綺麗きれいとりでしょう!」

うたうと、その一人ひとりも、とうとう仕事しごとめました。そしてこのおとこは、最後おしまいだけしかかなかった。

とりや、」とそのおとこった。「なんこえうたうんだ! おれにも、はじめからかしてくれ。もう一ぺんうたってくれ。」

「いやいや、」ととりった。「ただじゃア、二は、うたいません。それとも、その石臼いしうすくださるなら、もう一うたいましょう。」

「いかにも、」とそのおとこった。「これがおれ一人ひとりものだったら、おまえにやるんだがなア。」

「いいとも、」とほかものった。「もう一ぺんうたうなら、やってもいいよ。」

 するととりりてたので、二十にんこなひきおとこは、そうががかりで、「ヨイショ、ヨイショ!」とぼうでもって石臼いしうすたかげました。とり真中まんなかあなあたま突込つきこんで、まるでカラーのように、石臼いしうすくびへはめ、またうえ飛上とびあがって、うたしました。

かあさんが、わたしをころした、

 とうさんが、わたしをべた、

 いもうとのマリちゃんが、

 わたしのほねをのこらずひろって、

 手巾はんけちつつんで、

 杜松ねず根元ねもといた。

 キーウィット、キーウィット、なんと、綺麗きれいとりでしょう!」

 うたってしまうと、とりはねひろげて、みぎあしには、くさりち、ひだりつめには、くつち、くびのまわりには、石臼いしうすをはめて、おとうさんのうちほうんできました。

 居間いまなかでは、おとうさんとおかあさんとマリちゃんが、食卓テーブルまえすわっていました。そのとき、おとうさんはこういました。

「おれはむねかるくなったようで、大変たいへん気持きもちだ!」

いいえ、」とおかあさんがった。「わたしはむねがどきどきして、まるで暴風あらしでもまえのようですわ。」

 けれどもマリちゃんはじっとすわって、ないていました。するととりんでて、家根やねうえとまった。

「ああ、」とおとうさんがった。「おれはうれしくって、仕方しかたがない。まるでこう、がぱーッとしてでもるような気持きもちだ。まるでひさしくわない友達ともだちにでもまえのようだ。」

いいえ、」とおかあさんがった。「わたしはむねくるしくって、がガチガチする。それでみゃくなかでは、えているようですわ。」

そういって、おかみさんは衣服きものむねを、ぐいぐいとひろげました。

 マリちゃんはすみッこへすわって、おさらひざうえへおいて、いていたが、まえにあるおさらは、なみだで一ぱいになるくらいでした。

 そのときとり杜松ねずまって、うたしました。

かあさんが、わたしをころした、」

 母親ははおやみみふさぎ、かくして、たり、いたり、しないようにしていたが、それでも、みみなかでは、おそろしい暴風あらしおとひびき、なかでは、まるで電光いなびかりのように、えたり、ひかったりしていました。

とうさんが、わたしをべた、」

「おお、かあさんや、」とおとうさんがった。「あすこに、綺麗きれいとりが、こえいているよ。がぽかぽかとして、なにもかも、肉桂にくけいのようなあま香気かおりがする。」

いもうとのマリちゃんが、」

うたうと、マリちゃんはきゅうかおをあげて、くのをやめました。おとうさんは

「おれはそばへ行って、あのとりを、ようくる。」というと、

「あれ、およしなさいよ!」とおかみさんがった。「わたしはまるでうちじゅうにがついて、ぐらぐらゆすぶれてるようながするわ。」

 けれどもおとうさんはって、とりながめました。

「わたしのほねをのこらずひろって、

 手巾はんけちつつんで、

 杜松ねず根元ねもといた。

 キーウィット、キーウィット、なんと、綺麗きれいとりでしょう!」

こううたうと、とり黄金きんくさりを、おとうさんのくびのうえへおとしました。そのくさりはすっぽりとくびへかかって、おとうさんによく似合にあいました。おとうさんはうちはいって、

「ねえ! とてもうつくしいとりだよ。そしてこんな奇麗きれいな、黄金きんくさりを、わたしにくれたよ。どうだい、立派りっぱじゃないか。」

といいましたが、おかみさんはもうむねくるしくってたまらないので、部屋へやなかへぶったおれた拍子ひょうしに、帽子ぼうしげてしまいました。するととりがまたうたしました。

かあさんが、わたしをころした、」

「おお、」と母親ははおやうめいた。「わたしは千じょうもあるそこへでもはいっていたい。あれをかされちゃア、とてもたまらない。」

とうさんが、わたしをべた、」

というと、おかみさんは、まるでんだように、ばったりとたおれました。

いもうとのマリちゃんが、」

「ああ、」とマリちゃんがった。「わたしもってましょう。とりなにかくれるかどうだか、るわ!」

そうって、そとました。

「わたしのほねをのこらずひろって、

 手巾はんけちつつんで、」

って、とりくついもうとうえおとしました。

杜松ねず根元ねもといた。

 キーウィット、キーウィット、なんと、綺麗きれいとりでしょう!」

うたうと、マリちゃんもたちまち、かるい、たのしい気分きぶんになり、あかくつ穿いて、おどりながら、うちなか跳込とびこんでました。

「ああ、」とマリちゃんがった。「わたしは、戸外おもてるまでは、かなしかったが、もうすっかりむねかるくなった! あれは気前きまえのいいとりだわ、わたしにあかくつをくれたりして。」

「いいえ、」といって、おかあさんはきると、かみほのおのように逆立さかだてながら、「世界せかいしずんでくようながする。かるくなるかどうだか、あたしもましょう。」

 そうって、扉口とぐち拍子ひょうしに、ドシーン! とり石臼いしうすあたまうえおとしたので、おかあさんはぺしゃんこにつぶれてしまいました。そのおとをきいて、おとうさんとむすめが、うちから跳出とびだしてると、まえには、一めんに、けむりほのおちのぼってましたが、それがえてしまうと、そのあとに、ちいさなにいさんがっていました。にいさんはおとうさんとマリちゃんのをとって、みんなそろって、よろこいさんで、うちはいり、食卓テーブルまえすわって、一しょに食事しょくじをいたしました。

底本:「グリム童話集」冨山房

   1938(昭和13)年1212日発行

※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。

入力:大久保ゆう

校正:鈴木厚司

2005年41日作成

青空文庫作成ファイル:

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