『絵はがき』評
折口信夫



堀辰雄氏の創作集が七冊本になつて、叢刊せられる。最初に出たのが、この『絵はがき』である。堀氏は、日本の新旧生活様式に対して、まるで異郷人がする様に、えきぞちつくな目を瞠つてゐる。その綴る文章も、日本の古典の持つ明るさと、西欧の文体にある爽かさとを兼ねてゐる。今度の本には、その一等若い生活の印象せられた懐しい作品が多い。

散文においても、また詩においても若い文学の世代に生きようとする人には、是非この本を読んでほしい。壮年期以上の人々にとつては新しい感覚に充ちた文章の、叙景力・抒情力に打たれて見るのも、喜ばしい驚異に行き会ふことになるだらう。今、大変健康をこはしてゐる堀氏を思ふと、早く起ち直つて、幾篇かの後世に伝ふべき創作集を、整頓する勇気を、持ち直してほしいと、切に思ふ。

底本:「折口信夫全集 32」中央公論社

   1998(平成10)年120日初版発行

初出:「毎日新聞」

   1946(昭和21年)年114

※底本の題名の下に書かれている「昭和二十一年十一月四日「毎日新聞」」はファイル末の「初出」欄に移しました。

入力:門田裕志

校正:多羅尾伴内

2003年1227日作成

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