実際に役立つ国民の書棚として図書館の改良
宮本百合子
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国民の文化生活が、個人的な方法で向上を計られて来たこれまでとちがって、これからは個々の経済力の相違に余り大きい支配をうけないやりかたで、国全体の文化の質が高められて行くようになることを皆が希望していると思う。
経済の力の相違が国民の文化生活の間に懸隔をもたらさないと同時に、男であり、女であるという偶然なことで、受け入れる文化のよろこびの範囲が大変掣肘されたり、又は文化の創造力への関心の度がちがったりしないようになることも、一つの切実な要望であろう。
日本の文化の国民的な向上と直接関係のある点では、図書館というものがもっと一般の注意を払われなければならないと思う。日常的にもっともっと利用するものとして考えられなければならないとともに、相当の専門的な研究にも実際役に立つだけに図書館の内容が整備されなければなるまい。
現在のところでは上野の帝国図書館にしろ蔵書の量と種目とでは決して満足と云えないし、日比谷の市立図書館を、東亜の大首都東京市の代表図書館であると云わなければならないことには、些か忸怩たるものがありはしないだろうか。図書館へは学生のうちだけゆくものという先入観が変えられるように、国民の書棚として活きた機能をもつようになったらいいと思う。
その為には、せめて東京には医学、文学、美術、科学等の専門図書館が欲しいと思う。美術学校に公開の美術図書館があり、帝大に医学、文学等の公開図書館があるという工合でも、一般の蒙る便宜は随分多いだろうと思う。旧大名の華族たちが、只虫干をするだけで蔵にしまっている古文書類ももっと天下に役立てられなければならないし、特殊な生産はその代表的な土地にその方面の図書館があってよいだろう。織物に関する図書館は足利とか京都とかに置くという風に。美術館、博物館が付属の公開図書館をもつことも極めて有益だと思う。
坪内逍遙という人がいたおかげで早稲田に演劇に関するものがややまとまったというような偶然にたよっていては、まことに心細いことだと思う。
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
初出:「都新聞」
1940(昭和15)年12月12日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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