メーデーに備えろ
宮本百合子
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各地方支部婦人同盟員及び婦人サークル員諸君!
いよいよもう数日でメーデーだ。私達はこの日が労働者農民一切の勤労者にとって、どんな意義をもった日であるかはいろいろな機会に学んで来ている。だがしかし、今年のメーデーは特に労働婦人、貧農婦人、そして一切の搾取され圧迫されている婦人にとって、大きな意義を持っているということを時日の切迫した今日更めて強く心に入れ、その意義がどうすれば生活の上に生きるかを知り、その事を実行しなければならぬ。
今度の戦争で夫、兄、弟、息子など身近かな働き手を奪われた後の婦人は農村と都会を問わず食うべき食があろうと無かろうと、一家の口を糊して行く責任を全く負わされているし、男子と共に工場・農村で働く婦人はせいぜい男子の三分の二の賃銀で男子と同様、どんなに忙しい軍事関係の工場でも、今迄通りの人数で今迄よりより多くの品物を作らせられる関係上ブッ倒れるまでコキ搾られている。
現に十五六日前にも吾嬬の方のゴム工場で、戦争用毒ガスマスクなどを作る仕事が忙しいため強制残業がつづきすぎ、労働者から頻々と肺病人を出した結果、争議になりかかった。また月島の方のある工場ではやはり軍需品を嫌でも応でも温順しく作らせるべく全職工を強制的に国粋的色彩の御用団体にまとめ上げてしまった。トーキーに駆逐されて口が干上ると起ち上った映画従業員のスト等々数えきれない問題のすべては、戦争によって一時的にせよ自身を糊塗しようとし、一切の犠牲をそのために省みないところのブルジョア側の計画遂行の結果であることを考えさせずにはおかない。而もこうした一つ一つの苦しみは必ず工場から台所まで風呂銭まで日々の米、味噌、電車賃まで影響して来る。私たちのぐるりの貧しい婦人は戦争に反対しプロレタリアの世の中にすることを意識的に希望しないまでも、生活の事実に於て熱求せざるを得ない条件の下に置かれているのだ。そこを私達はサークル活動を通じてつかんでゆくべきだ。工場・農村に於ては特に生産者としての婦人を、また生産者の妻や妹を、また出征兵士の家族たる婦人を、街頭サークルに於ては多分その主たるメンバーを成すだろう失業せる婦人を。
だから婦人の同盟員やサークル内の活動的婦人メンバーはさきに立ってメーデー前のこれまでの活動をより確かにしめくくるための集りを持ち、「春」や「花見」を口実にブルジョアが「眠りこませ」の方法として取り上げた芝居、活動、運動会その他の催し物に対する感想のブチマケ合いや、お互いの職場の不平、台所の心配をうちあけながら、近くのストライキ、更に戦争、文化連盟に対する弾圧その他を不自然でなく話題に上せながら、今年のメーデーには婦人、子供が、働く者とその全家族が参加して要求すべきものを要求するのだというところまで持ってゆくように。
この実行は出来るだけサークル員の創意性を重んずる態度をもって話し合されねばならない。この際工場にいるサークル員がメーデー闘争の経験を書き、メーデーへの決意を書き、仲間へメーデーへのケッ起を訴えたものを書くように、それらが何処に於てよりも工場・農村その他サークル員のいる職場の仲間が出来るだけ多くいる所で読まれ、役立てられるように、そうした場所へ手をつくして一人でも多くの婦人を引出してくるようにしなければならない。
『文新』『働く婦人』等への投書家、読者、通信員へのソシキ的働きかけを忘れることなく、しかも最も直接的に、即刻なされねばならない。サークル活動をあくまでも主として。だが私達のサークル活動が、工場・農村のメーデー行進へ性急にひきずり込むためにのみなされて、広汎なサークル活動をおろそかにするようなことがあっては、勿論絶対にいけない。
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
1952(昭和27)年8月発行
初出:「婦人委員会ニュース」第二号、日本プロレタリア作家同盟
1932(昭和7)年4月23日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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