婦人読者よ通信員になれ
──メーデーきたる──
宮本百合子
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文学新聞には現在二百六七十人ばかりの通信員がいます。そのうち婦人の通信員は九人です。みなさん、これは実に少いと思いませんか。
日本にはおよそ九十万人の工場に働いている婦人がいます。工場での首キリ反対、賃下げ反対に立ってストライキした婦人労働者は五万人もいるし、農村で地主との闘いに勇ましく闘う婦人の数も決してわずかではない。そういうプロレタリア、農民の婦人たちの生活はプロレタリア、農民の婦人のペンによってこそ最もよく伝えられるはずなのです。
私がソヴェト同盟にいた時分のこと、ある日「赤い糸」という紡績工場を見学に行って、元気な女工さんたちとしゃべっていたら、二十ばかりの一人の女工さんが、鉛筆と手帖をもって大いそぎでやって来て、「私はここにいる婦人通信員です。日本の女のひとが工場へ来たのは珍らしいから、それを書きたいと思います」というのです。ソヴェト同盟の働く婦人たちの暮しぶりを見てどう思うか、日本の婦人たちはどう暮しているか、こまごまときいて手帖へ書いていましたが、あくる朝『労働者新聞』を見たら、それがちゃんと載っていました。ソヴェト同盟のあらゆる工場や農場には十万人もの通信員がいて、こうした婦人通信員はその何割かをしめ、何千人といるのです。
われわれはサークルの中からどしどし婦人通信員を送り出さねばなりません。工場や農村で実際に働き、ブルジョア、地主の搾取と闘いながら、その体験を文学の形にあらわすところにこそ婦人通信員のねうちと力はあるのです。
今年もまたメーデーが近づきましたが、この頃は一体どうでしょう。戦争になれば景気がよくなるとブルジョアどもは吹き立てるが、失業者は現にふえる一方、賃銀は物価騰貴で三、四割減ったも同然です。農村では肥料を買う金さえない。
製糸女工さんの賃銀は日に十二銭です。ガスよけマスク、飛行機、爆弾、そういうものを拵えてしこたま儲けている工場がどんなひとの使いようをするかといえば、臨時雇いで、しかも給料のやすいおとなしい女ばかりを多く雇う。一日十一時間半も働かす。
満州を足場に日本のブルジョア、地主はソヴェト同盟に侵略しようとし、同時にわれわれ働く大衆の力をくじこうとしている。われらは、それをはねかえし、帝国主義の戦争に反対し、ソヴェト同盟を守れ! 首キリ反対! 失業手当をよこせ! と叫んで、今年こそ、婦人、子供、出征兵士のおとっさん、お母さんまで一団となって、勤労大衆自身のメーデーをやらねばなりません。
そのためには今からすぐ準備がいる。サークルでもこうした今年のメーデーの意義を話しあったり行列に加わるように相談が必要だ。そのために『文新』婦人読者はうんとのり出して働かねばならない。そしていよいよ当日となったらあなたがたの職場、村、町でどんな大衆の示威が行われ、人がどれだけ加わり、あなた自身はそれにどう参加したか? それらをすべての『文新』婦人読者は編輯局へ通信しなければならない。そしてそれをきっかけに婦人通信員になって下さい。通信員になった婦人はあんたも一つ書いて御覧と、これまで通信など書いたことのなかった婦人たちにも書くきっかけを与えるようにする。婦人通信員は自身が活溌に書くばかりでなく、いつも自分が中心になって一人でも多く工場、農村からの婦人通信員が出来るように努力しなければならない。そのために世界のプロレタリア、農民の男女が立って、戦争と飢とをあたえるブルジョアに向って示威する今年のメーデーこそ、とり逃してはならないよい折なのです。
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
1952(昭和27)年8月発行
初出:「文学新聞」
1932(昭和7)年4月5日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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