四十代の主婦に美しい人は少い
宮本百合子



 この事は、私によくわかりません。普通云うような総括的な標準によれば、最も女性として成熟の頂点に達した二十二、三歳以後、三十四、五歳の間とでも云うのでしょうが、私として、そう定めてかかれるものとも思えません。種々な性格、境遇、生理的条件の下にある一人一人の女性は、皆、その人として、最も美しかった時代を各々に持つのですから。

 美しさの種類も異うように思います。

 自分の趣味で云うと、十五歳から十七、八歳の少女。次ぎには個人的経験の混乱期を経て或る落付きが心に備った二十、三十歳代の婦人。五十歳以後、内からの輝きが微かに漂っているような老婦人。

 私は、四十代の婦人、結婚したばかりの婦人で、その人の持つ美のよい処を──嗜好上──現している人は、少ないと思います。

 御返事の要点に触れなかったかもしれませんが。

〔一九二三年三月〕

底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社

   1979(昭和54)年720日初版発行

   1986(昭和61)年320日第5刷発行

初出:「女性」

   1923(大正12)年3月号

※「女性」編集部から「女性美の最も十分に発揮される年齢及びその理由」として意見をもとめられて執筆したもの。

入力:柴田卓治

校正:米田進

2003年526日作成

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