ひとごとではない
──ソヴェト勤労婦人の現状──
宮本百合子
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ヨーロッパ戦争後、世界に婦人労働者の数は非常にふえた。
日本では、男の労働者のほとんど半分の数だけの労働婦人がいる。それがどんな賃銀で働かされているかと云えば、誰よりも、読者自身がしっている! 男のとる金の半分ぐらいの金で、労力の搾取は男なみか、却ってそれよりひどいぐらいにされているんだ。
最近のブルジョア産業合理化は、世界に四千万ちかい失業者をあふれ出させた。日本にだけだって、二百万人ばかりの失業者がいる。一九二九年の統計だと、日本全体の労働者は四百八十三万千八百十五人ということだ。すると、その半数は、失業している。資本主義のゆきづまりはひどくなるばっかりで、行手にあてのない世界四千万の失業者とその家族とが、目の前に餓死を眺めて坐っている。
云うに云えないそのプロレタリアートの苦しい有様を利用して、資本主義国では、不景気がつのればつのるほど、弱い婦人労働者と年少労働者が、ひどい労働条件で、資本家の利潤のため搾られるんだ。
自覚あるプロレタリアート婦人は、悪化するこのブルジョアの搾取を、だまっているはずはない。去年、モスクワで、第一回婦人労働組合会議が行われた。資本主義経済恐慌によって起っている世界的な婦人労働者搾取に対して、世界の女が腕を組み、赤色労働組合の指揮の下に闘争する相談のためにあつまったのだ。
一九一七年の十月革命によって、プロレタリア革命をやりとげ、解放されたソヴェトの婦人労働者は、熱心に中心となって、この世界の姉妹の問題をとりあげてる。
ソヴェト同盟内の勤労婦人は、革命によって、生産をプロレタリアートの手で支配し、社会主義的生産に従事するようになると同時に、あらゆる人間的な権利を獲得した。
第一、同じ技術をもっていれば男も女もまったく同等の賃金をとる。
社会的生産労働者として男も女も同じである以上、男の労働者がもっているいろんな法律、政治上の権利は当然女にもある。
ソヴェト千百二十万人の労働組合員の中、二割七分五厘=三百七万八千余人は婦人労働者だ。いろんな工場の、工場委員には女がうんといる。金属工場で、婦人労働者の議長と書記とに指導されているところさえある。
ブルジョア婦人参政権論者をガッカリさせる勢で、ソヴェト・プロレタリアート婦人は、ソヴェト役員に選挙されつつある。だから、ソヴェト同盟では、往来を腕から籠をブラ下げ粗末ななりで歩いてる一人の女でも、うっかり馬鹿にはされない。彼女は工場で工場委員会の文化委員をつとめ、町ソヴェトの役員で、ガッチリした消費組合員、労働組合員であるのが決して珍しいことじゃあないんだ。ソヴェトでは、誰一人、ひとの儲けのために働かされているものはない。生産がたかまって、国が豊かになれば、その割前が、いろんな社会施設となって、てんでの日常生活にかえって来る。労働法は、婦人労働者に産前産後四ヵ月の有給休暇をきめている。その上、月給の半額までの出産支度金と、赤坊がうまれてから九ヵ月間、牛乳代を貰う。そういう権利を守るために、ソヴェトの労働法は姙娠五ヵ月以上の労働婦人と生後十ヵ月の子持ちの労働婦人を解雇することを禁じている。モスクワにいたとき、私は、或る区の産院を見て、ホントに羨しく思った。考えて見ろ。どこもかしこも清潔で、なめてもいいような産院は、まるで無料でプロレタリアの母のために開かれているのだ。しかも、無事に赤坊を産んで家へかえると、その産院から、その母子が住んでいる町の嬰児健康相談所へカードがまわって、それから後は一ヵ月に一度ずつ赤坊を診て貰える。無料だ。区、工場の内、新しい住宅で、托児所、幼稚園のないところはない。
ソヴェトでは、次の時代の前衛、子供をよく育てるために最大の注意をはらっているといっしょに、婦人の文化向上のために、実に熱心に考えている。女に一番つらい洗濯、炊事、それを社会化するために、女に休みと勉強の時間を与えるために、大仕掛な厨房工場、洗濯工場が、ドシドシ出来てゆく。今、やかましく云われているソヴェトの五ヵ年計画は、ブルジョア反動家が宣伝するように、軍備拡張だけでは決してない。文化建設のために大きい予算をもって、例えば日本の教育費削減とは反対に、ソヴェトでは国庫負担の学校、托児所、教員がうんとこの二三年の間に増やされる。──
ソヴェトの勤労婦人は、生産と政治の内へより積極的に参加するにつれ、社会主義の社会を建設してゆくことの実際の価値、指導者である共産党の価値を知るようになった。婦人党員の数は年々殖えて一九二八年にさえ十六万七千九十六人となった。或るひとは、こういう話をきいて云うかもしれない。「あんまり話がよすぎて嘘みたいだ。本当だったにしろ、それはソヴェトのことで、あんまり遠いや!」
ところが、姉妹! ソヴェト同盟で勤労婦人がもっているおどろくべき地位や権利は、本来けっして特別なものではないんだ。
女が、労働者として生産に参加し、一人前に働くとき、汗といっしょに体につく、プロレタリアート婦人の世界的な権利なんだ。
それを今まで認めない訳は、一言でつきる。ブルジョアどもに、損だからだ。ブルジョアは、女を搾取しつづけるために、封建的な男尊女卑の考えかたを、男の労働者に宣伝するばかりではない。女の中へまで宣言しているのだ。
ソヴェトに対する逆宣伝を勇敢にハネつけろ! そして一日も早く、ソヴェト同盟の女が獲得した幸福を、われ等のところにも打ち立てろ!
底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
1980(昭和55)年9月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
1952(昭和27)年12月発行
初出:「婦人戦旗」(「戦旗」臨時増刊)
1931(昭和6)年5月号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2002年10月28日作成
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