ソヴェトの「労働者クラブ」
宮本百合子
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ソヴェト・ロシアには、「労働者クラブ」と云うものがある。これは労働者自身の家で、自分たちの労働が終った後に誰でもが行って楽しめる「クラブ」なのである。
「労働者クラブ」には、直接工場に附属しているものとそうでないものとある。もう一つは、生産組合によって建てられた、産業別の「大クラブ」で、工場に属さずに地区的になっている。
この「大クラブ」は産別は違っても、その地区の住民──勿論労働者だ──は利用することが出来る。例えばある地区に大きな金属産業の「クラブ」があるとすると、その地区に住んでいる繊維の労働者もこれを利用することが出来る。ただ、現在の五ヵ年計画による社会主義都市の建設は、大きな工場を中心として「クラブ」や食堂、病院、学校などを建設して行くから自然産別に於て統一される。
労働者クラブはどう云う風になっているかと云うと、工場内の「小クラブ」でも音楽、文学、映画、演劇、政治研究室、及び図書室が、必ずついている。其の他に「母と子」の部屋と云うのがあって、婦人労働者及妻が集会や映画を見たり演説を聞いたりする間に子供を遊ばせて置く処である。「大クラブ」になると、体育室、水泳プール、大きな演劇の舞台、軍事教育、ラジオ、ピンポン、衛生室(特に性病予防の知識を与える)、図書室、外国語の研究室、食堂などまである。
共同農場でも同じ様で、大きなものになると、収穫時にはキャンプ生活をやるのだが、その一つのキャンプが「クラブ」になる。ラジオ、読書室、キャンプ新聞発行所等があり移動映画隊を利用する。「クラブ」の映画について云えば、映画の研究と見学批判をする映画サークルの様なものが出来ていて、いつも研究し合っている。「クラブ」に於ける映写は、非常に安い料金で、ソユーズ・キノの移動隊が「クラブ」の為めに特別に作った映画を見せてくれる。みんなは、その映画をどしどし批判してソユーズ・キノの活動を活溌にしている。「労働者クラブ」の一ばん大きいのは鉄道従業員のクラブで、印刷労働者のも大きい。映写室でも大きいのになると、千人も入れるのがある。
「クラブ」では、自分等で詩や小説を作り、芝居をやっているが、まだ自分等で映画を作るまでには至っていない。これはただ経済的の理由だけで、金にもっと余裕がつけば直ぐにでも作り出すだろう。常設館の大きいところでは、ソユーズ・キノの技術部のものが、カメラを持って来て、休みの時間に一般の機械に関する質問に答え、機械を解剖して見せていた。
ソヴェトの労働者は、こうして「クラブ」で自由に楽しみながら五ヵ年計画の仕事を一生懸命でやっている。
底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
1986(昭和61)年3月20日初版発行
初出:「映画クラブ」日本プロレタリア映画同盟
1931(昭和6)年11月15日発行
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2007年8月14日作成
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