窓にて 山村暮鳥 Guide 扉 本文 目 次 窓にて うらの窓から見ると すぐ窓下の庭にあるひねくれ曲った一本の木 すっかり葉っぱの落ちつくした それは大きないちじくの木だ そこに槇の生垣がある その外は一めんの野菜畠で 菜っぱや大根が葱もいっしょに青々としている その上をわたってくる松風や浪の音 朝々のきっぱりした汽船の汽笛 みよ雪のようなけさの大霜を 河向うの篠やぶでは 鵙がひきさかれるような声をして鳴いている ふたたび裏庭のいちじくの木をみると いままで自分はきづかなかったが もうその枝々には どの枝々のさきにも みんなおなじように新芽の角がいろづいている 此の氷のような世界につきだした槍の穂先 あのあらしの中から伸びでて 何という強さであろう 此の健康をみろ 此の生の力を いまこそ自分は自分を信ずる (『労働文学』一九一九年四月号に発表 『山村暮鳥全集』第一巻を底本) 底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社    1987(昭和62)年5月25日初版 底本の親本:「山村暮鳥全集 第一巻」弥生書房    1961(昭和36)年12月 初出:「労働文学」    1919(大正8)年4月号 入力:坂本真一 校正:雪森 2015年9月1日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。