利根川の岸邊より 萩原朔太郎 Guide 扉 本文 目 次 利根川の岸邊より こころにひまなく詠嘆は流れいづ、 その流れいづる日のせきがたく、 やよひも櫻の芽をふくみ、 土によめなはさけびたり。 まひる利根川のほとりを歩めば、 二人歩めばしばなくつぐみ、 つぐみの鳴くに感じたるわが友のしんじつは尚深けれども、 いまもわが身の身うちよりもえいづる、 永日の嘆きはいやさらにときがたし、 まことに故郷の春はさびしく、 ここらへて山際の雪消ゆるを見ず。 我等利根川の岸邊に立てば、 さらさらと洋紙は水にすべり落ち、 いろあかき魚のひとむれ、 しねりつつ友が手に泳ぐを見たり。 (室生犀星氏に) 底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房    1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行    1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行 入力:kompass 校正:小林繁雄 2011年6月25日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。