どじょうと金魚 小川未明 Guide 扉 本文 目 次 どじょうと金魚  ある日、子供がガラスのびんを手に持って、金魚をほしいといって、泣いていました。すると、通りかかったどじょう売りのおじいさんが、そのびんの中へ、どじょうを二匹いれてくれました。  子供は、喜んで、びんに顔を押しつけるようにして、ながめると、ひげをはやして、こっけいな顔に見えるどじょうは、 「坊ちゃん、あのきれいなばかしで、能のない金魚よりは、私のほうがよっぽどいいのですよ。ひとつ踊ってみせましょうか?」といって、一匹のどじょうは、びんの底から水の上まで、もんどり打って、こっけいな顔を表面へだし、またびんの底に沈みました。  子供は、いままで、どじょうをばかにしていたのは、まったく自分の考えがたりなかったのだと知りました。 「金魚よりか、あいきょうがあるし、踊りもするし、ずっとおもしろいや。」と、子供は、びんを持ち歩いて、友だちに吹聴したのです。  金魚を持っている子供は笑って、 「そんな、どじょうなんかなんだい、この金魚は高いのだぜ。」といって、相手にしませんでした。 「坊ちゃん、悲しむことはありません。まあ見ていてごらんなさい。」と、どじょうはいいました。  じめじめした、いやな天気がつづきました。生活力の乏しい金魚は、みんな弱って死んでしまったけれど、どじょうは元気でした。そして、いつでもあいきょうのある顔をして、かわるがわるびんの中で踊っていました。 底本:「定本小川未明童話全集 6」講談社    1977(昭和52)年4月10日第1刷 底本の親本:「未明童話集4」丸善    1930(昭和5)年7月 初出:「朝日新聞」    1928(昭和3)年5月18日 ※表題は底本では、「どじょうと金魚」となっています。 入力:特定非営利活動法人はるかぜ 校正:栗田美恵子 2017年4月16日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。