夏と私 中原中也 Guide 扉 本文 目 次 夏と私 真ツ白い嘆かひのうちに、 海を見たり。鴎を見たり。 高きより、風のただ中に、 思ひ出の破片の翻転するをみたり。 夏としなれば、高山に、 真ツ白い嘆きを見たり。 燃ゆる山路を、登りゆきて 頂上の風に吹かれたり。 風に吹かれつ、わが来し方に 茫然としぬ、……涙しぬ。 はてしなき、そが心 母にも、……もとより友にも明さざりき。 しかすがにのぞみのみにて、 拱きて、そがのぞみに圧倒さるる。 わが身を見たり、夏としなれば、 そのやうなわが身を見たり。 (一九三〇・六・一四) 底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店    1968(昭和43)年12月10日改版初版発行    1973(昭和48)年8月30日改版13版発行 入力:ゆうき 校正:木浦 2013年1月23日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。