寒い夜の自我像 中原中也 Guide 扉 本文 目 次 寒い夜の自我像 2 3 2 恋人よ、その哀しげな歌をやめてよ、 おまへの魂がいらいらするので、 そんな歌をうたひだすのだ。 しかもおまへはわがままに 親しい人だと歌つてきかせる。 ああ、それは不可ないことだ! 降りくる悲しみを少しもうけとめないで、 安易で架空な有頂天を幸福と感じ做し 自分を売る店を探して走り廻るとは、 なんと悲しく悲しいことだ…… 3 神よ私をお憐み下さい!  私は弱いので、  悲しみに出遇ふごとに自分が支へきれずに、  生活を言葉に換へてしまひます。  そして堅くなりすぎるか  自堕落になりすぎるかしなければ、  自分を保つすべがないやうな破目になります。 神よ私をお憐れみ下さい! この私の弱い骨を、暖いトレモロで満たして下さい。 ああ神よ、私が先づ、自分自身であれるやう 日光と仕事とをお与へ下さい! (一九二九・一・二〇) 底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店    1968(昭和43)年12月10日改版初版発行    1973(昭和48)年8月30日改版13版発行 ※第一節(「1」)がないのは底本通りです。第一節は「山羊の歌」に収録されている「寒い夜の自我像」です。 入力:ゆうき 校正:木浦 2013年1月23日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。