雑信(一) 種田山頭火 Guide 扉 本文 目 次 雑信(一)  新年句会には失敬しました、あれほど堅く約束していた事ですから、私自身は必ず出席するつもりでしたけれど、好事魔多しとやらで、飛んでもない邪魔が這入って、ああいうぐうたらを仕出来しました、何とも彼とも言訳の申上様もありません、ただただ恐縮の外ありません、新年早〻ぐうたらの発揮なんぞは自分で自分に愛想が尽きます、といったところで、ぐうたらは何処まで行ってもぐうたら、何時になってもぐうたらで、それは私の皮膚の色が黒いのとおなじく、私の性であります、私自身さえ何うする事も出来ません、有体に白状しますれば私は我と我が身を持ち倦んでいるのです、丁度、気の弱い母親が駄々ッ児の独り息子を持て余していますように、 我に小さう籠るに耳は眼はなくも    泥田の田螺幸もあるらむ  突然ですが、少しく事情があって当分の間、俳句、単に俳句のみならず一切の文芸に遠ざかりたいと思います、随って名残惜しくも、皆様と袖を分たねばなりません、今年は子の年ですから、仁木の鼠みたいに、また出直して来るつもりではありますが、一応お別れします、色々御厄介になりました、皆様、御機嫌よう。 毒ありて活く生命にや河豚汁         一月十八日午前十時              田螺公 謹んで申す (椋鳥会五句集『河豚』明治四十五年一月) 底本:「山頭火随筆集」講談社文芸文庫、講談社    2002(平成14)年7月10日第1刷発行    2007(平成19)年2月5日第9刷発行 初出:「椋鳥会五句集『河豚』」    1912(明治45)年1月 入力:門田裕志 校正:仙酔ゑびす 2008年5月19日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。