ヒント 織田作之助 Guide 扉 本文 目 次 ヒント  彼は十円持って喫茶店へ行き、一杯十円の珈琲を飲むと、背を焼かれるような後悔に責められた。  隣のテーブルでは、十二三の少年が七つ位の弟と五つ位の妹を連れて、メニューにあるだけのものを全部注文していた。そして、二百円払って出ようとするのを、彼はあわてて引きとめて、きいた。 「君はいくら小遣いをもらうの?」 「一日二百円」 「へえ……? お父さんの商売は……?」 「ジープを作ってる」  彼はびっくりして口も利けなかった。が、喫茶店を出て町を歩いていると、玩具屋で金属製のジープの玩具を売っていた。これだなと、はじめて釈然とした途端、彼は新事業を思いついた。彼はあり金をはたいて、盗難よけのベルの製造をはじめた。製品が出来たので、彼は注文を取って廻った。そして帰って見ると、製品の盗難よけベルはいつの間にか一つ残らず盗まれていた。 底本:「定本織田作之助全集 第六巻」文泉堂出版    1976(昭和51)年4月25日発行    1995(平成7)年3月20日第3版発行 入力:桃沢まり 校正:小林繁雄 2009年8月22日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。