暫く黙せしめよ 岸田國士 Guide 扉 本文 目 次 暫く黙せしめよ  芝居のことについて、今、何も云ふ気にならぬ。根のひからびた樹木がある。枝をためて何にならう。  優れた戯曲がぼつぼつ眼にふれる。楽しいが、淋しい。時代は進みつゝあるに違ひない。来るべきものが来るまで私はもう待てない。  人が何かをしはじめようとすると、そんなことをして何になると云ふものがある。誰もなんにもしないでゐることは、誰もを不安にしないだけである。  私は、自分の力を過信しないやうに努めてゐる。それでも、したいと思ふことをしないではゐられない。  私は、芸術上のアンデパンダンを尊重するが、尊重するが故に、日本演劇の現代アカデミスムの樹立を要望するものである。この文化の過渡的矛盾を認識しないならば、新劇運動は永遠に貧困を脱し得ないであらう。  権力と財力との微笑を警戒する人々よ、一度、その微笑なるものを見届けようではないか。  アカデミスムとコンマアシヤリズムとの交叉点は、幸にして悪臭鼻をつくものがある。芸術家にとつて、真の芸術家にとつて、交通整理の必要は更にないのである。  国立劇場の建設も結構であるが、私は、先づ官立俳優学校の設立を提唱する。目下計画中の演劇研究所プランを拡大して、その実現に邁進する覚悟である。 底本:「岸田國士全集23」岩波書店    1990(平成2)年12月7日発行 初出:「劇作 第五巻第四号」    1936(昭和11)年4月1日発行 入力:tatsuki 校正:門田裕志、小林繁雄 2005年2月22日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。