獅子は死せるに非ず 終刊の辞に代えて 小栗虫太郎 Guide 扉 本文 目 次 獅子は死せるに非ず 終刊の辞に代えて 「シュピオ」に、終刊号が出ることになった。  われわれは、ほぼ所期の目的を達成したのであるから、此処で終止符を打つことにする。  人は惜しまれ……花は爛漫のとき……そして「シュピオ」は、もっとも売れつつある高潮期に幕をおろす。もちろん、営業部からは続刊の希望もあったが、すでに一年間とさだめた終刊の時期も過ぎているので、名残り惜しいが燈台の灯を消すことにした。  では……何故、売れつつある雑誌を止めるのか。  それは、当初の目的とする優秀新人の出現に、通巻十二号の今となってもまったく見極めが付かないからだ。斯界の、萎靡沈衰は作家各自より、新人諸君に於いてもっとも甚だしいとする。従って、いかに営業部が続刊を迫るとも、もうわれわれにはこの上の情熱がない。  売れる──が、「シュピオ」に於いてはそれが目的ではない。ただ、唯一の機関、それあるのみだった。  それから、終刊に就いては、もう一つ事情がある。  それは、「シュピオ」という捨石によって……、せめて一年間も刊行を続けたならば、あるいは他に、専門誌が生れはせぬかと云うことであった。しかし、いまではその機運もなく……沮喪にかさね、最後の十二巻目が来てしまったのである。  われわれは、此処で静かに残紙を焼くことにする。  こうして、日本探偵小説は闇のなかへ隠れる。しばらくは、光りのくるまで眠り続けるだろう。  無風の、批評のないなかで、惰眠を貪ぼるだろう。  しかし、「シュピオ」の獅子は、決して死んではいない。 (「シュピオ」一九三八年四月号) 底本:「「シュピオ」傑作選 幻の探偵雑誌3」光文社文庫、光文社    2000(平成12)年5月20日初版1刷発行 初出:「シュピオ」    1938(昭和13)年4月号 入力:鈴木厚司 校正:土屋隆 2004年12月4日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。