小説文體 泉鏡花 Guide 扉 本文 目 次 小説文體  僕は雅俗折衷も言文一致も、兩方やツて見るつもりだが、今まで經驗した所では、言文一致で書いたものは、少し離れて見て全躰の景色がぼうツと浮ぶ、文章だと近く眼の傍へすりつけて見て、景色がぢかに眼にうつる、言文一致でごた〳〵と細かく書いたものは、近くで見ては面白くないが、少し離れて全躰の上から見ると、其の場の景色が浮んで來る、油繪のやうなものであらうか、文章で書くとそれが近くで見てよく、全躰といふよりも、一筆々々に面白みがあるやうに思はれる、是れはどちらがいゝのだか惡いのだか、自分は兩方やツて見るつもりだ。 明治三十一年二月 底本:「鏡花全集 第二十八巻」岩波書店    1942(昭和17)年11月30日第1刷発行    1976(昭和51)年2月2日第2刷発行 ※題名の下にあった年代の注を、最後に移しました。 入力:高柳典子 校正:門田裕志 2003年8月1日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。