水底の感
夏目漱石



水の底、水の底。住まば水の底。深き契り、深く沈めて、永く住まん、君と我。

黒髮の、長き亂れ。藻屑もつれて、ゆるく漾ふ。夢ならぬ夢の命か。暗からぬ暗きあたり。

うれし水底。清き吾等に、譏り遠く憂透らず。有耶無耶の心ゆらぎて、愛の影ほの見ゆ。

──明治三十七年二月八日寺田寅彦宛の端書に──

底本:「漱石全集 第十二卷 初期の文章及詩歌俳句」岩波書店

   1967(昭和42)年330日発行

※底本巻末の編者による注解は省略しました。

入力:フクポー

校正:きゅうり

2019年1124日作成

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