恋の後悔
中原中也



正直過ぎては不可ません

親切過ぎては不可ません

女を御覧なさい

正直過ぎ親切過ぎて

男を何時も苦しめます


だが女から

正直にみえ親切にみえた男は

最も偉いエゴイストでした


思想と行為が弾劾し合ひ

智情意の三分法がウソになり

カンテラの灯と酒宴との間に

人の心がさ迷ひます


あゝ恋が形とならない前

その時失恋をしとけばよかつたのです

底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩」角川書店

   2001(平成13)年430日初版発行

※底本のテキストは、著者自筆稿によります。

※()内の編者によるルビは省略しました。

入力:村松洋一

校正:館野浩美

2018年1224日作成

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