幼き恋の回顧
中原中也



幼き恋は

寸燐の軸木

燃えてしまへば

あるまいものを


寐覚めの囁きは

燃えた燐だつた

また燃える時が

ありませうか


アルコールのやうな夕暮に

二人は再びあひました──

圧搾酸素でもてゝゐる

恋とはどんなものですか

その実今は平凡ですが

たつたこなひだ燃えた日の

印象が二人を一緒に引きずつてます

何の方へです──

ソーセーヂが

紫色に腐れました──

多分「話の種」の方へでせう

底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩」角川書店

   2001(平成13)年430日初版発行

※底本のテキストは、著者自筆稿によります。

※()内の編者によるルビは省略しました。

入力:村松洋一

校正:鳩

2017年924日作成

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